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インタビュー

2026/6/3

【半導体40年|第2回/全3回】 5億円の投資判断が、5分で決まった日――PoPと日本の材料メーカーの強さ

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Amkor Technology時代に世界で初めて量産化に成功し、世界中の携帯電話に普及した積層パッケージ技術「Package on Package(PoP)」。エンドユーザーである大手携帯電話メーカーからの「逆指名」によって生まれ、その量産拡大を決めた5億円〜10億円の投資判断は、なんと「5分」で決まったといいます。連載第2回は、半導体ベテラン吉田章人氏が手がけたキャリア最大の成功体験と、その共創の現場で見えた「日本の材料メーカーが世界で勝ち続ける理由」を伺います。

目次

1. PoP――パッケージを重ねるという挑戦

大澤(IBLC): 今までやってこられた中で「これは会心の成功例だった」と思われるものを教えていただけますか。

吉田氏: 今までやってきた中で一番の成功例は、PoP、つまりパッケージを重ねる技術です。Package on Packageと申しますが、それを量産化まで持っていったのはAmkorが世界で一番初めで、それをやり出したのが私です。最初は、エンドユーザーである大手携帯電話メーカーの技術者と、パッケージをどうやったら重ねられるのだろうか、というところから始めました。開発をしている中で「なんかできそうだね」というところまで来た時、事業部から「製品にちょっと使ってみたい」と声がかかったのです。

大澤(IBLC): 最初は数の少ないものから、と。

吉田氏: 最初はあまり数の出ないものだったのですが、その後、主流のデバイスに使いたいということになって、かなり数が出て売上が上がりました。今でも携帯電話の中でその技術が使われていて、一番初めが2005年くらいだったのですが、もう20年くらいになります。まだそのパッケージを重ねるという技術は世界中で使われているので、それは非常に嬉しいというか、成功したなという感じです。

2. エンドユーザーから「逆指名」された瞬間

大澤(IBLC): 技術ができても、Amkorの直接の顧客が動くかは別問題ですよね。

吉田氏: その時はエンドユーザーさんと開発を進めていたので、Amkorのダイレクトのお客さんはまだ知らなかったのです、それを開発しているのを。ですから最初はAmkorの中でも「そんなの本当に出るのか」と。ダイレクトのお客さんはそういう要求をしていないということで、みんな半信半疑だったのですが、それがエンドユーザーから「これを使いたい」という形で逆に指名してもらってというか、「Amkorのこの技術を使いたい」と。

大澤(IBLC): 「お客さんのお客さん」が動いた、と。

吉田氏:我々が直接のお客さんに売り込みしても多分相手にされなかったのですが、逆にトップのエンドユーザーさんの方から言ってもらえたので。2000年に米国に移ってから2005年までの5年間で花開いたような感じです。

3. 装置も材料もない――パナソニック・千住との共創

大澤(IBLC): 技術ができても、量産するためのインフラが必要ですよね。具体的にはどういうところを整えていったのですか。

吉田氏: 設備はパナソニックの、パッケージを重ねる実装機ですね。重ねる前に、最初にフラックスや半田を微量に点付けしてから重ねないといけないのですが、そういう専用の装置がなかった。そんな時にパナソニックさんが動いて、開発をしてくれました。

大澤(IBLC): 材料の方も、ですか。

吉田氏: 点付けする半田の良い材料もなかったので、それは千住さんに最初に開発してもらいました。一緒に学会発表もしましたね、

大澤(IBLC): エンドユーザー、装置メーカー、材料メーカー、3社の共創ですね。

吉田氏: そうですね。「ない」ものを集めて、新しい量産インフラを作りました

4. 日本の材料メーカーが世界で強い理由――こだわりと真面目さ

大澤(IBLC): PoPの成功には日本の装置メーカー(パナソニック)と材料メーカー(千住)が不可欠だったわけですよね。半導体だけでなく電子産業全般で、日本の材料メーカーが強いというのは日本の特徴的な点だと思います。その理由は何だとお感じですか。

吉田氏: やはり、こだわりですね。もう少し良くしたい、というところで、例えば樹脂などでもいろいろなものがほぼ10個入ったような組み合わせで、しかもそれを問題が起こらないようにずっと均一なものを作り続ける――そういうこだわりです。

大澤(IBLC): それは、経験の蓄積によるものなのか、民族性のようなものなのか。

吉田氏: 民族性ではないでしょうか。こだわって、時々値段も考えずに、とにかくいいものを作ってしまうところがありますよね、日本人は。

大澤(IBLC): その「こだわり」が現場のラインにまで貫かれていると。

吉田氏: 例えば日本人は必ずラインでマスクをつけていますよね。絶対外しません。ところが日本以外では、ちょっと声が聞こえないからとマスクを外して喋るようなこともあったりします。なぜそうしてはいけないのか、というのを理解してちゃんとやる、真面目なのは日本人だと思います。製造のところで均一なものを作るというのは、日本人は気質として優れているのでしょうね。真面目にやる。嘘をつかない。

大澤(IBLC): 「真面目にやる、嘘をつかない」――非常にシンプルな言葉ですが、それが世界一の歩留まりを生んでいる、と。

吉田氏: そうだと思います。これは装置を買えば手に入るようなものではないですし、すべてをマニュアルに書いて教えられるものでもない。文化に根ざしているものだと思います。

5. シリコンカーバイドで中国が追いついた本当の理由

大澤(IBLC): 一方で、ガリウムナイトライドやシリコンカーバイドのような次世代パワー半導体材料では、中国が圧倒的に優勢になっています。最初にやっていたのは日本だったのに、最後は中国に負けてしまう。何が違うのでしょうか。

吉田氏: 昔はシリコンカーバイドなどは欠陥が入って歩留まりがなかなか上がらないから、中国はそう簡単に作れるわけがないと思っていたのですが、それなりのものが装置を買えばそれなりにできてしまうようになった、という感じだと思います。あと、投資に関しては恐らく多くの部分を国がサポートしているので、供給過剰になって、例えばシリコンカーバイドのウエハーの値段は1年で1/3になったという話もあります。そうなるともう、日本は太刀打ちできないかなと思います。

大澤(IBLC): 「装置を買えばできてしまう」領域と、「日本の真面目さが活きる」領域とで、競争の構造が違うわけですね。

吉田氏: そうですね。材料に関して中国や台湾も強くなってきていますが、本当に微妙に混ぜたりとか、ラインの人たちの作り方とか、おそらくマニュアルを超えた部分の強みというのがあると思うのです。

後工程だったら、日本にいろいろな材料メーカーや装置メーカーがあって、そういうところがお互いうまくタッグを組んで新しいものを作っていけたら、そこに何か生きる道があるのかなと、個人的には思っています。

6. 5億円が、5分で決まった

大澤(IBLC): そういう日本の強みを背景に、PoPは量産規模を急速に拡大していったわけですね。

吉田氏: そうですね。数がもっと欲しいということになった時に、「キャパシティを増やしてくれ」とお客さんに行って言われて。トータルで確か、5億円か10億円くらい投資をしないといけない話だったのですが、その場でAmkorのトップの方に電話して、「5分待て」と言われて、5分で即決でした、その金額。

大澤(IBLC): えっ、5分で。何か他でもそういう形で即決されるようなプロジェクトはあるのでしょうか。

吉田氏: トップダウンでトップの権限が非常にはっきりしていて、これがアメリカと日本の違うところだと思うのですが、上の人がOKと言ったらOK、ダメと言われたらダメ。日本だとおそらく社内協議に入るところで、5億円、10億円というと、おそらく半年経ってもまだ結論が出るかどうかという感じで、利益計算など色々して。それがなしに5分で決まってしまったというのは、非常にびっくりした出来事ですね。これがスピードの違いというものかなと思います。

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