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2026/7/22

【素材の越境者|第2回/全2回】 「成功はほとんどありません」 ―― 越境研究者が語る、失敗と、前へ進んだ技術

インタビュー

「成功はほとんどありません」 ―― 越境研究者が語る、失敗と、数少ない前へ進んだ技術

前編で華やかな越境キャリアを語った信正均氏は、それを「成功はほとんどありません」と言い切る。 材料探しの“錬金術”に没頭した超電導開発、技術は立派でも継続的な事業拡大に貢献できなかったテーマ――。 事業としてサステナビリティーがないものを失敗と位置付けるならば、成功は少なく、その率直な失敗論の先で、数少ない前へ進んだテーマが、微細加工をバイオに持ち込んで生まれた約100倍高感度のDNAチップであり、がんの早期診断だった。 後編では、信正氏の失敗と成功、そして次世代へのメッセージを伺います。

目次

1. 組み合わせの話が、いつのまにか「錬金術」になっていた

インタビュアー: 前編では華やかな経歴を伺いましたが、ご本人は「成功はほとんどない」とおっしゃいます。 失敗事例を一つ挙げるとしたら。

信正氏: サプライチェーンも考慮して最終製品までの距離が遠いテーマですね。例えば、超電導の研究を例に挙げると、もともとは、炭素繊維と超電導材料という二つの素材をどう組み合わせる、という話でした。そこから話が超電導材料そのものを錬金術のように探す方向にシフトしました。当時は全く新しい材料の研究であり、世界中で競争されていました。どの会社も「よーいドン」の状態でした。うまくいけば、この分野に土地勘がない企業でも新しい事業領域に参入できるかもしれない、という期待があった。材料そのものが日進月歩で進歩していたので、もしかすると世の中を席巻する材料が作れるかもしれない、と。自分たちなりに設計指針をたてて探索研究を行いましたが、かなり難しいことでした。材料が開発できても自社の事業領域や技術領域から外れたテーマ、最終製品までの距離が遠いテーマの場合、よほど厳しい目で、テーマ自体を評価しないといけない。いいものができても、サプライチェーンまで考えると本当に事業になるかは別問題で、ハードルが極めて高いのです。

2. 技術は立派でも、事業は撤退 ―― 長い目で見るということ

インタビュアー: 他のテーマで現在も事業としてつながっているものはあるのでしょうか。

信正氏: 幾つかのテーマは事業にまでつなげられ、現在もそこで培った要素技術が活かされています。いずれもテーマが推進される中で素晴らしい技術が開発され、そこで開発された技術をしっかり残して新たな事業につながっています。それら技術が5年後、10年後、20年後の長い目で見て、お客様のニーズとマッチする強み技術として活かされ製品になるかを見極め、開発すべきものに焦点をあて重点的に取り組んでいかれるものと思います。素材メーカーは川上ですから、開発した新しい素材や技術が波及する分野、製品群が多く、開発された素材や技術は次々改良を加えて長い期間、強み技術として活かされます。走りながらニーズの変化や情報を早くとらえて先を読んで取り組まないといけないのです。

3. 唯一前へ進んだ技術 ―― 微細加工が、バイオの武器になった

インタビュアー: 一方で、後半生のライフワークになった診断技術は、前へ進んだように思いますが。

信正氏: バイオに移って、何か新しいものを出しなさいと言われ、それまでの技術を棚卸ししました。光ディスクには数百ナノメートルの溝が、ディスプレイの背面板には100ミクロンほどの溝が、樹脂やガラスに作られている。その微細加工技術をバイオと融合して新しい製品が創出できないか、と考えたのです。それを駆使して、従来のDNAチップを約100倍高感度にする技術が開発できました。ただ、従来のDNAチップはすでにアメリカが先行していて、データベースも構築されており、高感度というだけでは振り向いてもらえない。新しい領域が必要でした。このころ、ちょうど国のプロジェクトで後のマイクロRNAの研究につながる『機能性RNA』プロジェクトが立ち上がりました。遺伝子からタンパク質が作られる過程で発現する小さな切れ端。かつては“ゴミ”、ジャンクと呼ばれていましたが、それが実は重要な役割を果たしている、ということが2000年代半ばにかけてわかってきました。 マイクロRNAは小さく、量も少ない。まさに私たちの100倍高感度を活かせる領域だったのです。

インタビュアー: そこから、何に応用していったのですか。

信正氏: 多くの先生方に解析に使っていただきました。その中で血液中のマイクロRNAで、がんを早期に診断できないか、と。 がん研究センターの先生と一緒に、プロジェクトを推進しました。非常にいい結果が得られたのですが、まったく新しい診断を目指していたこともあり、一筋縄ではいきません。私自身は現場からマネジメントに移り、少し離れてしまいました。事業をゴールとすると、診断はまだ道半ばです。ただ、この取り組みの中で、技術以外にも得たものがあります。それは、国のプロジェクトや臨床の先生方、検査会社など、多くの方々とのネットワーク、いわゆるオープンイノベーション的な取り組みができたことです。自社だけでやるのではなく、多くの協力を得て、協働して前へ進めました。

これまでの経験を総括すると、すべての取り組みに一貫した“つながり”があったと考えています。ある企業にとっての新事業、ともすると『飛び地』と言われ、飛び地ではうまくいかない、とも言われます。しかし、飛び地であっても技術と事業までの距離が近ければチャンレンジする価値はあると思います(あらゆる角度から吟味しなければなりませんが)。私のこれまでの取り組みは、幸い、事業としては新しくとも、技術としてはちゃんと前からつながっていた。また事業的にも協働さてくださる企業がたくさんあった。こうして、一貫した“つながり”をもって新事業創出に挑戦し続けてくることができた40年と言えるかもしれません。もちろん、会社がこのようにチャンレンジする社員が思い存分力を発揮することを後押ししてくれたことが前提としてあります。感謝しています。

4. 次世代へ ―― 三つの提言

インタビュアー: 最後に、若い技術者や研究者へのメッセージをいただけますか。

信正氏: 三つあります。一つめは、自分が「強い」と言える領域をもつこと。自分が「強い」領域で保有する技術、知識、専門性をちゃんと理解して、その上で、理由を持って物事にチャレンジしてもらいたいと思います。思いつきで取り組むのではなく。二つめは、どんどん変化していく世の中にあって、日頃からアンテナを張って、ニーズを的確かつ早く入手して、どういう技術をアドオンすべきかを考えてほしいと思います。一例として挙げるならば、AIの活用、応用です。そういう技術を吸収して、自分を新しくしていってほしい。いわゆるリスキリングですね。

インタビュアー: 三つめは。

信正氏: とにかく粘り強くやってほしい、ということです。今の時代、時間をかけて取り組むことは否定されることが多いと思いますが、いろいろ試行錯誤する中から自分なりのストーリーを作ってじっくり取り組んでほしい。そして、その取り組みを進めるなかで、協力してくださる方々、ネットワーク、シンパをできるだけ増やしてほしいと思います。特に新しい事業を立ち上げようとする場合は、会社の中の上位者で、メンターとなってくださる方々から理解が得られるよう、熱意をもって分かりやすい説明を心がけてもらいたい、と思います。

インタビュアー: 本日は貴重なお話をありがとうございました。

信正氏: こちらこそ、ありがとうございました。

(連載完)

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