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インタビュー

2026/5/13

【素材産業の勝ち筋|第2回/全3回】 「ROIC8%」はサッカーで『2点取れ』と叫ぶのと同じ

インタビュー

「ROIC8%以上と言っているのは、サッカーで『2点入れろ』と叫んでいるだけ」

第1回では、技術力があっても顧客理解が伴わなければ事業に繋がらないという構造的課題を掘り下げた。第2回では、技術の価値をどう定義し、どう伝えるかという問題に踏み込む。荒木氏が語る「コア技術の3条件」と「ストーリーとしての技術」、そしてプライシングとイグジット戦略の重要性。

■コア技術の3条件——競争力・独自性・展開性

インタビュアー:日本の化学・素材産業は優れた技術を持っている。その技術の価値をどう定義するかという点はいかがですか。

荒木:優れた技術を「コア技術」と言い換えたとして、僕の個人的な定義は3つの条件があります。もちろんそれぞれでのレベル感の話は出てきますが。まず「圧倒的な競争力がある」こと。次に「独自性がある」こと。知的財産で言う進歩性と新規性に近いですね。そしてもう一つ大切なのが「展開性があるか」。つまり、他の技術とくっつけられるかということです。コア技術を所有の基盤技術などとくっつけてEVに行けるか、水処理に行けるか、半導体に行けるか。いろんな可能性を創発させるくっつきやすい技術かどうか、具体的なアクションの起点になり得るかということです。

「基盤技術がきちんと整っていますという技術はできる技術であってコア技術ではない」とも言えます。基盤技術というのは、しっかりと整える必要があります。でもそれだけでは強い競争力に繋げることは難しいんです。まず、コア技術は圧倒的な差別化を生み出す源泉になるもの。いろんな素材メーカーのホームページを見ると「これがコア技術です」と書いてあるけれど、僕はコア技術には明確な「ストーリー性」性があると思っているんです。このストーリー性があるからこそ何かとくっつけられる。展開性に結びつくのだと考えています。単純なワード一つでコア技術を表現するのは非常に難しいと考えています。ストーリーとして表現されている方が、技術の本質を理解し新たな可能性を想像する事が出来ます。実際、ホームページでその様に表現されているメーカーさんもあります。コア技術をしっかり把握されているのだなと感じます。

■サッカーのパス回しで考える技術戦略

インタビュアー:そういったコア技術があっても、それを事業につなぐにはどうすればよろしいですか?

荒木:それは前回申し上げた情報戦の中でお客様をどこまで理解できるか、そしてその上でどの様な連結した動きが出来るか否かになると思います。お客様とのビジネス成立で収益化というゴールに向かってシュートを打つためにどんなパスが必要か。最初のパスから始まって、パスを繋いで最後のシュートに結びつける。じゃあどこからスタートしてどう繋ぐのか——それがストーリーなんですよ。そのストーリーがいろんなパターンで組みやすいものがスタート地点にあるかどうかが、僕がコア技術の要素として挙げている展開の可能性です。鋭い最初のパスが出せて、そこからパスを繋いで最後にビジネス化して儲けだと。

インタビュアー:パス回しというのは、複数のプレイヤー、複数のステークホルダーが必要になるということですか?

荒木:その通りです。自社内のパス、協力他社とのパス、お客様とのパスなど様々な選択肢の中からゴールストーリーを考え、状況により柔軟な変化をさせながらゴールを狙っていくイメージです。自社のコア技術を起点に、パスをつないで、顧客にどのような価値を持たせるか。時には複数の外部パートナーと連携して、シナジーを生み出す。そして重要なのが、状況が大きく変わった時のリスク対応です。雨が降ったりピッチがぬかるんだりしたら動かなくなるのは困ります。状況が変わった時にBプランがある、Cプランがあるというところまでできているか。それがリスクマネジメントですね。そんな事は当たり前だと思われるでしょうが、きちんと出来ている例は決して多くないと思います。

■プライシング——上流にいるがゆえの構造的課題

インタビュアー:技術の価値を認めてもらうという点で、プライシングの問題も大きいですよね。

荒木:素材産業が上流にいるがゆえに起こる問題です。上流で何かを変えた時に、回り回って最終製品でどれだけの価値変化を生むか。例えば電池の素材を変えて、電池パックの歩留まりが大きく上がったら、それはものすごい価値なんですよ。上流にいるからエッセンシャルに大きく効いてくるところがあります。でもその価値を十分に顧客に納得して頂けなければ、価格に反映されることはありません。無論、難しい交渉の世界になります。

素材産業は変革の起点であるにも関わらず、言葉として厳しい表現ですが隷属的な階層と言われることがあります。上流にいるがゆえに、最終製品の中に埋もれて、その貢献の程度が見えにくくなってしまう場合がよくあります。しかし、そこをストーリーで明確化して、価値を理解していただく。そうじゃなければ激しく競争させられて、ただ安く買い叩かれるだけの将に隷属的階層に留まってしまいます。

■イグジット戦略の欠如——「もう少し頑張れ」の罠

荒木:3つ目の課題がリスクマネジメントです。化学、素材産業において事業計画書で、イグジットのパターンをきちんと書いてあるケースはあまり多くありません。最初にある程度の危険予知は入れるものの事業成長を描いて、そのまま難しい状況になっても「ここはもう少し頑張りましょう」となって、相当深刻な状況になってから事業撤退などの決断をする。これもありがちなパターンです。

戦略文書にイグジットのクライテリアがきちんと書かれているかを見れば、その会社の経営の強さがある程度分かると思っています。欧米企業は前提が変わったらさっさと切り替える。その決断の速さの差は大きいでしょう。初期段階で「ここまで行かなかったらベストオーナーにはならないので処置する」という基準を決めていることが重要ではないでしょうか。何十年も投資を続けようやく花開くという技術や事業も無論あり、屋台骨事業になった例も見られますが、一方で多くの場合、累積で見れば負け戦となっているケースが多く、成功確率論的には極めて低いと言えるのではないでしょうか。

■「ROIC8%」は結果指標に過ぎない

荒木:僕は極論かもしれませんが、全ての課題は経営に帰結すると思っています。ROICだとかEBITDAだとかは結果指標じゃないですか。ROIC8%以上だと言っているのは、サッカーで言えば「2点入れろ」と叫んでいるだけだと思います。そこに至るまでのパスをどう繋ぐのか、途切れた時のBプランは何なのか。もっと手前の起点、早期指標から考えていかないと、パスが繋がらないまま終わってしまいます。経営トップも含め経営層はそこを十分理解しているはずですが、その実行力がどうかで決まってきます。無論、対外的には詳細に語れない部分も多いのですが、社内でしっかりと整理されているかがポイントとなるでしょう。

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