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最終回では、日本のマテリアル産業がエコシステムの起点として持つ可能性と、それを活かすために若手と経営者それぞれが何をすべきかを語る。荒木氏が繰り返し強調する「外部力の活用」、そして「特異な人材を潰さない経営」とは。
インタビュアー:日本を見た時に、今後伸ばすべき産業は何かと考えると、最終製品の分野では自動車以外は厳しい。私はマテリアル産業がカギだと思っているんです。どの産業にも通じていくし、ここが基盤になる。ここがもっと強くなれば、日本の産業全体が強くなる。
荒木:エコシステムの中で、マテリアルは起点です。一番上流にいるからこそ、エッセンシャルであり重要なポジションを持っている企業もありますね。しかし、日本はこの起点の強さを十分にバリューに繋げられていません。その価値をどう認めさせてプライスにしていくかが命題で、そのためには顧客の製品における自社技術の価値を十分に把握し交渉力も上げる必要があります。
インタビュアー:グローバル競争の中で、日本の企業は何が変わらなかったのか。
荒木:化学、素材業界は基礎素材から高機能・少量製造の方向にシフトしてきました。素材が使用される製品モデル変化は早くなり、素材開発の時間軸は短くなるし、状況変化に対してクイックに動くことが必要になります。「クイックに動く」というのは、例えば顧客からの要求、要望があった時に、効率的な検討の上でサンプルを作って評価し、顧客とのキャッチボールで改善しながらスピーディーに商品化を進めねばなりません。あるいは市場の方向性を見ながら、テストマーケットで反応を見て、すぐに軌道修正する。そういう柔軟性が必要になります。
でも総合化学メーカーは、基礎素材ビジネスが残っています。機能商品にシフトする時には時間軸の観点とフレキシビリティの観点が強く要求されるけれど、そのシフトが十分にできているかというと、できているメーカーとそうでないメーカーが分かれてきています。意思決定が遅い、変更プロセスが硬直的で時間がかかる、というメーカーは機能素材分野の市場変化の速度についていくのは難しくなります。

インタビュアー:素材産業の若手の技術者や研究者に対するメッセージをお願いします。
荒木:1つ目は、エコシステム全体を俯瞰する視点を持ってほしいということです。自分がやっている研究、技術を客観視する視点は重要です。全体の中で自分の技術がどう位置づけられるかを見ようとすれば、仕事への向き合い方が変わってきます。そうでないと、どんなに技術で良いと思う素材開発で頑張ったとしてもビジネスに繋がる可能性が高まらない様に思います。
2つ目は、ストーリーをどう作るか。自分の技術が優れていると思っても、顧客サイドでそのストーリーが成立するかどうかを考える。技術者は自分の技術価値を信じるあまり、独善的になりがちなところがあります。顧客の中で価値が通用するかという視点を、早いうちから持った方が良いでしょう。
3つ目は、異領域の人と対話すること。まずは自分の興味がある領域で——オタク的、マニア的でもいいと思うんですが——誰でも自分のお金と時間を使って没頭する領域があるじゃないですか。そこを糸口にコミュニケーションエリアを拡大していくのも良いでしょう。異なる背景を持つ人との対話は、視野を広げる方法です。ある脳科学者が「創造とは記憶の書き換えである」と言っています。記憶を経験と置き換えるとすれば、貪欲に経験する機会をつかみに行く事は自身の創造性のアップに繋がると思います。
荒木:仕事に関連して自分の時間とお金を使ってでも没頭することに信念を持ってやり続ける人は、ある意味すばらしく、通常の枠に収まらない人材です。そういう人を組織の中にどう置いておけるかは、会社の実力なんですよ。ある意味で「傍観する力」、「ゆとり力」かもしれません。協力しないかもしれないけど、邪魔は絶対にしない。程度の差こそあれ誰の中にもこのオタク、マニア性はあると思いますが、それを仕事の領域において信念をもって継続、実行できる人は多くないと思います。ただ、そのタイプの人がひょんなことからプランBやプランCでのパスルートに繋がることがあります。
僕は「7:2:1理論」と言っていて、通常は7割が短期、2割が中期、1割が長期。でも環境状況によって一時的に短期を5に落として中期にシフトすることもあります。無論、その逆パターンもあります。ただし、事業環境が厳しいからと言って1割の長期的な取り組みを完全に止めることはせず、全体のバランスの中での保持を考える。そしてその長期の取り組みの価値を見極められるセンスや覚悟が経営側に求められます。センスや覚悟がないとすぐに「これはやめよう」という話になりがちです。だから一定比率だけはブレずに残すと決めれば良いと考えます。
荒木:これまで話してきた課題——マーケティング、プライシング、イグジット戦略——すべてに共通するのは、自社だけでは限界があるということです。自分たちのネットワークだけですべてできるというのは困難です。従って、異なるネットワークを持っている外部とどう連携するかが重要になってきます。
ただ一番の壁は、「自分たちはできている」という認識のギャップです。外部力を活用することの重要性を理解していないと、なかなか連携が進みません。足りないところを明確に認識して、そこに対して外部力をどう戦略的に活用するか。そこが今後の日本の素材メーカーでは益々重要になってくると思っています。「脱自前」は以前からよく言われていますが、うまく出来ているメーカーは決して多くないと考えています。
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