IBLC Insights

インタビュー

2026/4/8

【技術の棚卸し|第2回/全3回】 「死蔵技術」は存在しない――スペックを顧客価値に変える力

インタビュー

自社の技術資産を活かして、いかに新しい事業やソリューションを生み出すか。第1回では、多くの企業が直面している「オープンイノベーションへのシフト」と「技術の包括的な棚卸し」の重要性について伺いました。 しかし、ただ技術をリストアップしただけでは新規事業は生まれません。第2回では、田中氏に、技術のスペック(仕様)を顧客にとっての「価値」へと変換するプロセスと、その具体的なアプローチについて深く掘り下げていただきます。


■技術スペックのままでは、新たな市場は想像できない

インタビュアー: 自社の技術を棚卸しして、それをどう「価値」に結びつけるかが重要だというお話がありました。この「価値に変換する」プロセスにおいて、企業はどのような壁にぶつかることが多いのでしょうか?

田中: 技術を価値に転換するというのは、言葉にするのは簡単ですが、実際にやろうとするとなかなかうまくいかない企業がほとんどです。なぜなら、社内にある技術の多くは、すでに「既存のある製品を作るための機能」として強固に結びついてしまっているからです。

例えば、「うちには優れた分析技術がある」「高速反応技術がある」とスペックそのものを提示されても、そこから先、どんな新しい市場や顧客の悩みに繋がるのかは想像がつきづらいですよね。 そこで重要になるのが、技術を捉える「階層」を少し上げることです。単なる分析や反応の技術ではなく、「どんな衝撃が来てもそれをいなす、吸収することができる技術」というように、顧客が価値をイメージできるところまで抽象度を上げてグルーピングするのです。

■コア技術の再定義:「切る」技術が持つもう一つの顔

インタビュアー: 見方を変え、意味づけを変えることで、技術の捉え方を再定義していくのですね。

田中: おっしゃる通りです。例えば、ある企業が「切る技術」をコア技術として持っていたとします。これを単に「切断する機能」という一軸で捉えがちですが、「非常に均一で細かいものを生み出すことができる技術」と意味づけてみたらどうでしょうか。まったく違う価値へと転換でき、適用できる産業や用途も大きく変わってきます。

市場がこれだけ多様化し、複雑な社会課題が山積している今の時代、従来の単一的な見方だけで技術の使い道を探るのは限界があります。技術の機能的な特性を、社会や顧客に向けた概念・言葉で再定義し、新たな「意味づけ」をすることが非常に重要になっているのです。

■機能ではなく「意味」を訴求する:鉄の価値転換

インタビュアー: その「意味づけ」によって、まったく新しい市場が開拓できた具体的な事例はありますか?

田中: わかりやすい例として、「鉄」という素材の価値転換があります。 鉄の特性をスペックで語れば、「熱伝導率が高い」「非常に丈夫である」といった機能的な表現になります。しかし、この機能的な訴求だけでは、既存の用途からなかなか広がりを持ちません。

これを「何度でも生まれ変わる、ゴミにならない素材」と言い換えてみてください。 昨今の環境意識の高まりの中で、この「意味づけ」は大きな武器になります。例えば、大規模な野外イベントなどで飲料容器としてプラスチック容器を使えば大量のゴミになりますが、鉄で作った容器(スチールカップ)を使えば、ゴミにならないどころか、そのまま有価物として回収・リサイクルでき、むしろプラスの価値を生み出します。

熱を伝えやすい、丈夫であるという「特性」ではなく、「何度でもリサイクルできる=ゴミにならない」という切り口に転換したことで、プラスチックの代替品として全く新しい展開が見えてくる。これがまさに技術や素材の「価値転換」です。

■世の中に「死蔵技術」は存在しない

インタビュアー: 技術を社会的な価値や大きなソリューション(脱炭素など)にまで上手くリンクさせることができれば、その技術は大きく花開くということですね。

田中: ええ。階層を上げて大きなソリューションにまで結びつけられた時、本当にその企業が持っている技術が活きると実感しています。 世の中ではよく「死蔵技術」や「埋蔵技術」といったネガティブな言葉が使われますが、私は基本的な考えとして「世の中に死蔵技術というものは存在しない」と思っています。

適切な粒度でグルーピングし、そこに社会や顧客のニーズと繋がる「コネクター(接点)」を上手く設計する「仮説力とセンス」があれば、どんな技術も理論的には必ず何らかの価値と繋がるはずです。そこから、企業が「どこに貢献したいか」「どういう社会課題を解決したいか」という、原動力(ドライビングフォース)となるビジョンを持っていれば、必ず磁力のように惹きつけ合い、道は拓けます。

▼ 次回(最終回):「ガレージの罠」から抜け出せ。価値創発チームの作り方とコンソーシアム構想

技術の「価値転換」を社内外で推進していくための体制づくりに焦点を当てます。技術者が陥りがちな「ガレージの罠」の避け方や、多様な視点を取り入れるチームの形成、そして企業間の枠組みを超えて社会課題に向き合う共創のアプローチについて解説していただきます。 

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