IBLC Insights

インタビュー

2026/4/22

【技術の棚卸し|第3回/全3回】 「ガレージの罠」から抜け出せ――価値創発チームの作り方

インタビュー

自社の技術を「顧客価値」へと転換し、新たな事業の種を見つけ出す。本連載ではそのための具体的なアプローチを紐解いてきました。 最終回となる第3回では、その価値転換を「誰と」「どのように」実行していくべきかに焦点を当てます。技術者が陥りがちな罠から抜け出し、企業という枠を超えた大きな共創(オープンイノベーション)を実現するためのチームづくりについて、田中氏に伺います。


■エンジニアが陥りがちな「ガレージの罠」

インタビュアー: 技術のスペックを価値に変換していくためには、純粋な技術者やスペシャリストだけの単一的な視点では限界があるように思います。

田中: おっしゃる通りです。エンジニアのDNAとして、どうしても技術そのものを深掘りする方向に向かいがちです。私がいた会社の元会長も「毎日ガレージの中で車をピカピカに磨き続けていたら、気がついたときには年が変わってモデルチェンジしてしまっていた」と、よく耳の痛い警告をしていました。

完璧な技術を追い求めるあまり、社会や市場の変化から取り残されてしまう。この「ガレージの罠」をなくすことが非常に重要です。そのためには、技術のオーナーである純粋なエンジニアを適切に外の世界へ連れ出し、「テクノロジーマーケティング」を実践していく伴走者の存在が不可欠になります。

■多面的な視点を取り込む「価値創発チーム」の形成

インタビュアー: 具体的には、どのようなメンバーを巻き込んでいくべきなのでしょうか?

田中: 事業経験が豊富な人材や、マーケティング、商品企画に長けているメンバーを巻き込み、多面的な視点を取り込んだ「価値創発チーム」を作ることです。

企業における基礎研究であっても、出口(ビジネス価値)を全く想定しない「純粋な基礎研究」というものは存在しません。例えば、原子と原子の距離を測るだけの技術があったとします。それ単体ではお金にならなくても、「もしこの技術が半導体の回路検査に応用できたら、世界でどれくらいの規模の価値になるだろうか」と、常にアウトプットの夢を描くことが大切です。 そうした「価値へのルート」をイメージできる人材がチームにいると、組織は劇的に活性化します。

もし社内にそうした適任者がいない場合は、外部の専門家を「合わせ鏡(ミラー)」として活用するのも有効な手段です。技術を深く理解したうえで、他分野の視点を取り込んでくれる外部ブレーンの力を借りることで、社内の価値転換の活動は一気に前進します。

■1社の限界を超え、「チーム日本」でメガトレンドに挑む

インタビュアー: 社内でのチームづくりからさらに視点を広げると、昨今は会社をまたいだ「オープンイノベーション」の重要性も叫ばれています。

田中: 1つの会社の中で創出できる価値には、やはり限界があります。 例えば、カーボンニュートラルやヘルスケア、地域創生、あるいは宇宙開発といった地球規模の「メガトレンド」に対しては、1社の技術だけで立ち向かうことはできません。共通の課題に対して、同じ志を持つ企業や自治体が集まり、互いが持っている資産(アセット)を結合させてパイを大きくしていく必要があります。

参加する各社が自社の「コア技術」という武器を持ち寄り、それを会社をまたいで組み合わせていく。いわば「チーム日本」として巨大なコンソーシアムを組み、ダイナミックな価値創出に向けて進んでいく仕組みづくりです。

■短期的な収益と、中長期的な「共創」のバランス

インタビュアー: 一方で、企業としては日々の事業活動の中で目先の利益も確保しなければなりません。そのバランスはどう取るべきでしょうか?

田中: そこがまさに経営層の手腕が問われるところです。短期的な収益で日々の会社のアクティビティを維持しながら、中長期の視点でより大きな価値を生み出すためのコンソーシアム活動に投資していく。

一見すると難易度が高いように思えますが、持ち寄ったコア技術に圧倒的な差別性や魅力があれば、その共創プロジェクト自体が非常に魅力的なビジネスへと成長し、結果として各社の収益(マネタイズ)にもしっかりと繋がっていきます。 最初からすべての企業が完璧に足並みを揃えるのは難しいからこそ、全体のグランドデザインを描き、企業同士を繋ぐ「接着剤」となるコーディネータの役割が、これからの時代はより一層求められていくはずです。

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