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連載:新たな事業を生み出すためのアプローチ ~自社技術の棚卸しと価値転換~
企業が新たな事業を生み出すためのアプローチとして、「自社技術の棚卸し」と「価値転換」が今、改めて注目されています。 これまでの「自前主義」から脱却し、手持ちの技術資産をどう社会価値に結びつけていくのか。本連載では、日用品メーカー大手の花王で長年R&D部門や経営企画を牽引し、現在は数多くの企業の新規事業・R&D相談に乗るエキスパート、田中氏にお話を伺います。
第1回は、企業のR&D部門が直面している「課題の劇的な変化」について紐解いていきます。
<話し手プロフィール>
田中 猛訓(たなか たけのり)
株式会社IBLC シニアディレクター / 元花王株式会社 先端技術戦略室 企画部長
1985年大学院修士課程修了後、花王株式会社入社。生産技術分野の研究開発エンジニアとして従事した後、全社業務革新活動の推進室長、研究開発部門や経営戦略部門の企画責任者を歴任。工学博士号を取得し、先端技術戦略室の企画部長として全社のDX推進や技術戦略の立案を牽引する。2021年に同社を定年退職後、株式会社IBLCに参画し、2025年より現職。現在は大手製造業を中心に、自社技術の顧客価値転換や、オープンイノベーションによる新規事業創出の支援など多岐にわたり活動している
インタビュアー: 田中さんは花王時代、R&Dの現場で長年活動されながら、後半は技術企画や戦略立案に携わってこられました。まずはこれまでのバックグラウンドについて教えてください。
田中: 新卒で花王に入社して以来、35年にわたり在籍していました。キャリアのスタートは研究の現場です。一般的に研究というと、フラスコを振って新しい有機合成物を作るようなイメージを持たれがちですが、私はエンジニアとして「ラボでできたものを、いかに経済的に大規模生産するか」というスケールアップの研究をずっとやっていました。
必然的に、特定の合成物質に特化するのではなく「何でも大きく作る」ことを求められました。早い段階から、自社で扱っているマテリアル(素材)やモノづくりの全体像を知ることができたのは大きな財産です。 また、ラボの技術を実際の製品へと進めていくためには、社内のさまざまな部署のニーズを捉え、連携する必要があります。入社時からそうした「コーディネーション」の教育を現場で強く受けていたことが、のちに技術企画や経営企画といった全体を俯瞰する仕事へと繋がっていきました。
インタビュアー: 現在はその経験を活かし、企業の最前線で活躍されているR&Dや新規事業の担当者から数多くの相談を受けていらっしゃいます。最近の企業からの相談内容に、何か変化や傾向は見られますか?
田中: 非常に大きな変化を感じています。私が外部の企業のコンサルティングに関わるようになった5年ほど前は、かなり「限定的」なご依頼が主流でした。 例えば「ものすごく反射率の高い素材が開発できたのだけれど、これをどう使えばいいか?」といった単発の技術の用途展開や、「特定の物質の動向を調べてほしい」といったピンポイントな調査依頼です。以前は「この技術ができたから、新たな用途や市場を見出したい」という、いわゆるシーズ発想の相談が圧倒的に多かったのです。
しかしここ1、2年で、ご依頼の範囲が非常に「包括的」になってきました。 フォーカスされた単一の技術の使い道を探るのではなく、「自社が持っている技術群やリソース(あるいはアセット)をほぼすべて開示するから、この技術群を活かしてどんな新しい事業を展開できるか」「これを使って既存事業をどう膨らませていけるか」というご相談です。 つまり、「技術を顧客価値にどのように結びつけていけばよいか」という、より上位概念からの相談が増えてきているのが最近の顕著な傾向です。

インタビュアー: なぜ今、企業からそうした包括的な「自社技術の棚卸し」や、価値への結びつけを求める依頼が増えてきているのでしょうか?
田中: 背景にあるのは、「自分たちだけでは達成しきれない」というオープンイノベーションへの強いシフトです。
私がかつて在籍していた会社は、まさにその逆の「バーティカルインテグレーション(垂直統合)」を強みとしていました。最上流の原料からサプライチェーンまで、すべてを自分たちの中で完結させることで品質を保証するという考え方です。これまでは、多くの日本のメーカーがこの手法で成功してきました。
しかし今は、1社で完結できるモノづくりだけでは通用しなくなってきています。自分たちが持っていない外部のアセット(資産)を活かし、自社の技術と有機的に組み合わせることで、単なる「モノ」ではなく「ソリューション」として世の中に出していきたい。そうした強いモチベーションを持つ企業が増えてきたのだと捉えています。
そのためには、まず「自分たちが持っている武器(コア技術)のラインナップ」をしっかりと整理し、それがどんな価値を生み出せるのかを再定義する作業が不可欠なのです。
棚卸しした自社技術をどのように「顧客価値」へと結びつけていくのか、その具体的なプロセスを伺います。「切る技術」や「鉄」の事例を交えながら、技術のスペック(仕様)を新しい市場ニーズへと転換するための「意味づけ」の視点について紐解いていきます。
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