IBLC Insights

インタビュー

2026/3/18

【AI時代の「個」|第3回/全4回】 AI時代に問われる「個」の資質(前編)――問いと動機が差になる

インタビュー

生成AIの台頭により、これまで人間にしかできないと思われていた創造的なタスクまでもが代替されつつあります。「AIが答えを出してくれる時代」に、人間が果たすべき役割とは何か。全4回連載の後半戦となる第3回は、元富士フイルムの柳原氏が最も重要視する「個」のあり方にフォーカスします。検索エンジンからAIへとツールが進化しても変わらない、「問いを立てる力」と、事の成否を分ける「最初の質問」について聞きました。


■ AIは「下克上」を起こしている

国居(IBLC): ここまで、新規事業の定義、そしてマーケティングやR&DにおけるAIとの付き合い方について伺ってきました。後半は、それらを実行する主体である「人(個)」についてお聞きしたいと思います。生成AIによって仕事が奪われるという議論もありますが、柳原さんはどう見ていますか?

柳原氏: AIの時代に、クリエイターや研究者の仕事はどうなるのか。 かつては「クリエイターや研究者とエッセンシャルワーカーの仕事が残る」と言われていましたが、生成AIができた瞬間に、かなりのクリエイターや研究者がいらなくなる可能性が出てきました。ある意味、地殻変動というか「下克上」のようなことが起こっていて、「じゃあ個はどうするのか」という話になっていると思います。

まず、AIが出る前、もっと言えばコンピュータが出る前のことを考えてみてください。 化学業界にはかつて、「ケミカル・アブストラクト」という分厚い抄録集がありました。我々はこの紙の山を引いて、文献に当たっていた。要するにアナログの検索、足で稼ぐ検索です。

ごまんとある情報を探すわけですが、そこにはやっぱり「探す力」の差がありました。 専門能力が高い人や、探したいテーマがはっきりしている人、要するに「問い」がはっきりしている人の方が、圧倒的に検索が早かったし、早くいい文献を仕入れられるんです。

■ ツールが進化しても、「探す力」の差は埋まらない

柳原氏: それがGoogle等の検索エンジンになっても同じことです。同じGoogleを使っても、全く違う検索結果が出ますよね。自画自賛するつもりはありませんが、私が部下や同僚と一緒に検索をしても、自分が得意とする領域や興味がある領域については、私には検索する力が結構ありました。

たとえ専門外であっても、「同僚がやっているこの分野に興味がある」という状態で検索した時に、担当者よりも深い情報や新しい情報を手に入れることができた経験があります。

それは何故かというと、「自分がどういう問いを立てればいいか」を分かっているからです。 一つの業界(私の場合は有機化学)でそれをやった経験があれば、他の分野を深く勉強しようと思った時も、より早く深く勉強ができます。

そうすれば、文献を調べる時間は減り、その分エッセンシャルな実験や手作業、技能を上げることに時間を割けるようになります。空いた時間を使って、別の分野の勉強をしたっていい。そう考えると、逆に時間はすごく増えたわけです。

昔の徒弟制度のような10年間を、知識に関してはぐっと縮めて、その知識を使って練習する時間はむしろ10年かけられるかもしれない。その暁には、昔よりももっとすごい世界が待っているはずです。だから、私が今10代だったらすごい嬉しいですよ。いい時代じゃないですかね。余談ですが10代の方々にはもっともっと手を動かして欲しいと思っています。

■ 「あなたは本当に、新規事業をやりたいですか?」

国居: R&Dや新規事業において「新しいテーマ」を創出するためには、個人のアイデンティティや「問い」が直結してくるわけですね。

柳原氏: そうですね。私は現在、いくつかの企業で変革支援や研修を行っていますが、社長やCTOから「新規事業をやりたい」という相談を受けることがあります。その時、担当者の方にはこう聞くようにしています。

「あなたは本当に、新規事業をやりたいですか?」と。

「やりたい」という気持ちがなかったら、すぐやめましょうと言っています。みんな「新規事業をやろう」と言うけれど、本気でそこに没入できる人がいないと何も進まないと思うからです。いわゆる「内発的動機」です。

市場環境を見たり、未来の潮流を読むこともありますが、それは「How to」に過ぎません。まず大事なのは「Why」です。 なぜ自分は新規事業をやりたいのか。リーダーとして牽引したいのか、あるいはフォロワーとして支えたいのかも含めて、要するに「内発的動機がどこにあるのか」が重要だと思っています。

▼ 次回(最終回):イノベーションは「螺旋階段」 

「本当にやりたいこと」を見つけた後、それを組織の中でどう実現するか。最終回は、個人の夢と企業のビジョンをつなぐ「オーナーシップ」と、柳原氏が提唱する「技術の螺旋階段」説で、連載を締めくくります。 

[第4回を読む >]


お問い合わせはこちら

TOP

/

IBLC Insights

/

【AI時代の「個」|第3回/全4回】 AI時代に問われる「個」の資質(前編)――問いと動機が差になる