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「あなたは本当に、新規事業をやりたいですか?」 前回、元富士フイルムの柳原氏は、AI時代だからこそ問われる「内発的動機」の重要性を語りました。全4回連載の最終回となる今回は、その動機をどう仕事に結びつけるのか。個人の夢と組織のビジョンをつなぐ「オーナーシップ」と、イノベーションを生むための「技術の捉え方」について、インタビューの生の言葉をお届けします。

柳原氏: 前回、新規事業をやるには「内発的動機(Why)」が必要だという話をしました。そのために、私がやる研修では個人の生い立ちまで戻って、「どんな子供だったか」「何を夢見ていたか」を確認し、その夢の延長線上に今の仕事があるのかを探ったりします。
私の長男の小学校の先生が、卒業式の時に言った言葉がすごく良くてね。彼女曰く本当は歴史の研究者になりたかった。だけど、能力が足りなくてなれませんでしたと。だけど私は小学校の先生になって歴史を教えることができるようになって、それは私の夢を実現することになった。そうおっしゃったんです。
企業がやりたい方向性やビジョンに対して、個人の夢やビジョンがある程度合致している。ノーベル賞を取らなくてもいいけど、合致している。そうなればお互いハッピーですよね。
国居(IBLC): 会社事であり、自分事になるわけですね。
柳原氏: そうですね。かつて富士フイルムの古森重隆会長(当時)が、「オーナーシップ」という言葉を散々使われていて。あれ、最初は「何だろうなこの英語」と思ったんですけど、仕事をする中でその意味が途中からどんどん分かってきて。立場は変われど、それぞれの立場でオーナーシップを持って仕事をする、課題に立ち向かう。それはすごく大切だと思ってます。
自分事化して、個人が本当にその企業において幸せであれば、ポジションなんか関係ないんですよ。出世するとかしないとか、評価が分かれるとかは組織としての役割に過ぎないわけですから。そういうオーナーシップを持った人たちが企業の中で増えてくれば、新しいテーマというのは、自然と生まれてくるものだと思います。
柳原氏: 要するに、「自分はどこから来て、何者で、何をしていきたいのか」。 この問いを問い続ける習慣を作ったらいいんじゃないか、と私は思っています。
画家のポール・ゴーギャンの言葉にありますよね。「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」(D'où venons-nous ? Que sommes-nous ? Où allons-nous ?)
受け売りですけど、非常にシンプルでいい問いだと思うんです。それを常に個人で問い続けること、チームで問い続けること、あるいは大きな組織で問い続けること。それこそが、アイデンティティの源泉です。
AI時代に、人が、あるいはチームや組織が、生き残るというよりは「自分たちの可能性を広げる」上で、この問いはすごく重要ではないかなと思っていて。「生き残る・生き残らない」という次元の話ではないと思うんですよね。

国居: 最後に、技術そのものの価値についても伺いたいです。世の中では「0→1(ゼロイチ)」が持てはやされますが、柳原さんはどう捉えていますか?
柳原氏: 分かりやすく「0→1」と言ってますけど、実際は、イノベーションって連続なんですよね。 iPhoneだってスティーブ・ジョブズだって、突然天から降ってきたわけじゃなくて、そこに至るまでの膨大なサイエンスの蓄積、技術の集積があって、それを組み合わせたもの。 つまり、イノベーションは連続的なものなんです。
未来を予見する「五つの法則」など膨大な著作と講演・研修活動をされている田坂広志先生もおっしゃっていますが、技術は「螺旋(らせん)階段」のように進む。これ、本当にそうだなと思って。 螺旋階段を横から見ると同じところをグルグル回っているように見えますが、上から見ると一段ずつ高いステージへ上がっています。
前回話した「ケミカル・アブストラクト」が一周回って「Google」になり、さらに回って「生成AI」になる。やっていることの本質は「知の探索」ですが、ステージは確実に上がっているんです。
だから、過去の技術も、昔からある技術も、決して無駄にはならない。 その連続性こそが技術の存在意義であり、未来を作っていく原動力、価値だと思うんです。
これからの技術開発には、AIやディープテックといった最先端の視点だけでなく、そこに哲学や歴史、社会科学といった「文化系」の視点を組み入れていくことが必要になるでしょう。「なぜ人間はこれを欲するのか」「社会はどうあるべきなのか」。
そうした人間臭い「問い」と、螺旋状に進化する技術が合わさった時に、本当のイノベーションが生まれるんじゃないかな、と思いますね。
国居: AI時代だからこそ、個人の「熱量」と、過去から続く「文脈」が大切になる。非常に勇気づけられるお話でした。本日はありがとうございました。
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