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技術の潮流を読む

2026/3/19

2030年に1兆4千億円市場——MRI・リニア・風力発電を変える"新しい超伝導材"の正体 #014

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「脱・液体ヘリウム」というキーワードが、いま材料・電機・エネルギー業界の技術開発者たちの間で静かに注目を集めている。その中心にある素材が、二ホウ化マグネシウム(MgB₂)だ。MRIからリニアモーターカー、風力発電まで——超伝導技術の応用が広がる時代において、MgB₂が持つ「安価・軽量・加工しやすい」という特性は、産業界にとって無視できないアドバンテージになりつつある。しかしMgB₂とは何者なのか、なぜいま注目されるのか。本コラムでは、超伝導市場の全体像とMgB₂の立ち位置を整理する。 

超伝導素材の市場規模:2030年に国内1,400億円、世界1兆4,000億円へ 

三菱総合研究所・NEDOが2014年にまとめた調査報告書によれば、超伝導素材の2030年度市場規模は国内で約1,400億円、世界では1兆4,000億円に達すると予測されている。内訳を見ると、MRI向けが国内695億円・世界9,903億円と最大のシェアを占め、これに一般モーター(世界1,638億円)、船用モーター(858億円)、NMR(930億円)、送電(401億円)が続く。 

超伝導技術の最大の特徴は「電気抵抗がゼロ」になること。この性質を活かすと、MRIのような医療機器では強力な磁場を安定的に発生させ、リニアモーターカーでは車両を磁気浮上させながら時速500kmで走行させることができる。風力発電用大型発電機でも、超伝導化により設備を3分の2のサイズに小型化し、重量も大幅に削減できるとされている。 

こうした技術の実用化が進めば市場は急拡大する一方、「どの超伝導素材を使うか」という選択が技術・ビジネスの競争力を左右する。現在、素材メーカー・電機メーカー各社が次世代超伝導材料の開発にしのぎを削っている。 

MgB₂が注目される理由:安価・軽量・毒性が低い 

現在、超伝導線材の9割以上を占めるのはNbTi(ニオブチタン)などの金属系材料だ。しかし、これらは臨界温度が18Kと極めて低く、冷却に高価な液体ヘリウムが必要となる。近年の液体ヘリウム価格高騰と資源的制約が重なり、産業界ではより高い温度で超伝導を示す材料へのシフトが急がれている。 

こうした背景の中で浮上したのがMgB₂だ。2001年に日本で発見されたMgB₂は、臨界温度39Kと金属系材料としては突出して高く、実質的に液体水素温度(20K前後)での動作が可能だ。その主な特長は次の通りだ。 

コストが低い:線材製造に用いるMg(マグネシウム)とB(ホウ素)はいずれも入手しやすい原材料であり、将来的にはNbTi線材(200円/kA・m)に近い水準までのコストダウンが期待されている。日立製作所のヒアリング情報でも「出荷量が確保できれば200〜300円/kA・m程度まで低下させられる」との見通しが示されている。 

軽量である:銅(密度8.9g/cm³)と比べ、MgとBを主成分とするMgB₂は密度が低く、アルミパイプを使った線材設計も検討されている。比重は銅の半分以下となり、輸送機器・航空機・洋上風力発電などの軽量化要求が高い用途に向く。 

毒性が低い:競合素材の一つである鉄ヒ素系超伝導材料はヒ素を含むため国内メーカーが線材化に消極的だが、MgB₂にはそうした問題がない。環境規制が強まる中、この点は調達・製造現場でのハードルを大きく下げる要因となる。 

市場展開の焦点:MRI・リニア・風力発電 

現在、MgB₂の応用として最も現実的な候補とされているのはMRI(核磁気共鳴画像診断装置)だ。日立製作所は2021年3月、MgB₂超伝導磁石を用いてMRIの磁場空間を急速に生成する技術の開発を発表し、実用化に向けた取り組みを本格化させている。MRI向けには1.5〜3T程度の磁場が必要で、MgB₂が実用的に発生できる5T前後の範囲と合致する。 

磁気浮上列車(リニア)への応用も検討されている。鉄道技術総合研究所はJR東海と共同で、MgB₂線材をリニア用超伝導磁石に適用する実証試験を進めてきた。リニア車両では磁場強度5T前後が求められることから、MgB₂の特性と合致するとみられている。 

さらに、10MW級の洋上風力発電用発電機への適用も視野に入る。超伝導化により発電機を大幅に小型・軽量化できる同分野では、軽量なMgB₂線材の優位性が生きる。欧州を中心に洋上風力の設備投資が加速しており、2030年代に向けた有力な応用市場として注目度が高まっている。 

課題と今後の展望 

MgB₂の主な課題は二つある。一つは高磁場特性の制約で、20Kにおいて5T程度が実用上の上限とされる。もう一つは冷却システムのコストで、液体水素を使用するか、スターリング冷凍機などの機械式冷凍機を利用する必要がある。この冷却技術の低コスト化が、MgB₂の普及を左右する重要な鍵とされている。 

一方、日立製作所はIn-situ法によるPIT(Powder-in-Tube)プロセスで8km級の長尺線材の製造技術を確立しており、技術的な実現性は着実に高まっている。「安価・軽量・毒性ゼロ・加工しやすい」という特性が揃うMgB₂は、超伝導素材の次の主役候補として、今後の市場拡大を見据えた技術開発の加速が期待される素材だ。 


 

本コラムは、これまでIBLCが蓄積してきた技術・市場に関する情報をもとに、IBLC専門家チームが独自の視点で整理・考察したものです。 

▼【超伝導材料・MgB₂の市場調査・技術評価に向けた技術・市場調査】 

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