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木質バイオマスの熱分解は、ガスと液体燃料とともにバイオ炭を同時に生み出す技術だ。国産SAFは2026年末までにFIDが迫られており、燃料と炭素固定を両立する併産設計への関心が高まる。本記事では、バイオマス由来燃料とバイオ炭に携わる技術者・事業企画担当者に向けて技術の使い分けを整理する。
目次
バイオマス熱分解とは、酸素を絶った状態でバイオマスを加熱し、可燃性ガス・液体(バイオオイル)・固体(チャー=バイオ炭)の3成分に分解する技術である。木質バイオマスを200〜600℃で無酸素加熱すると、原料の8割超がCO、H₂、CH₄、CO₂、H₂O主体のガスとタール等に、残りが水分とチャーに転換される。加熱温度が高くガス化寄りになるほどガス収量は増え、逆にバイオ炭の生成量は減る。バイオ炭を主目的にするなら400〜600℃程度の低速熱分解が向き、燃料ガスを主目的にするなら800℃以上の高温ガス化が有利になるというトレードオフが、装置設計の出発点になる。JST研究開発戦略センター(CRDS)はバイオマスをCO₂吸収源とするネガティブエミッション技術を俯瞰対象の一つに位置づけており、燃料化と炭素貯留のどちらに軸足を置くかという設計判断は、脱炭素政策の観点からも重要度を増している。
木質バイオマスガス化発電は、FIT制度の未利用木材区分(40円/kWh、2MW未満)を追い風に国内で小規模設備の導入が進んだ分野である。発電が主目的のため、バイオ炭は副生成物という位置づけにとどまり、原料に対する生成割合はおおむね2〜3wt%程度と小さい。発電効率は22〜30%程度、排熱回収まで含めた総合エネルギー効率は70〜80%に達する一方、バイオ炭の生成量を増やそうとすると温度を下げる必要があり、タール増加や発電効率低下とのトレードオフが生じる。国内では外熱式多筒型ロータリーキルンを応用したガス化発電システムなど、様々なバイオマスに対応できる装置の実証も進むが、稼働設備の多くは欧州製のダウンドラフト式であり、水分率の高い国産材への適合や、可燃性ガス中のタール処理が技術課題として残る。
急速熱分解(ファストパイロリシス)は、バイオマスを毎秒100℃以上の速度で450〜600℃まで加熱し、発生した熱分解蒸気を急速凝縮させてバイオオイルを得る方式である。IEA Bioenergyの整理では、500℃前後・蒸気滞留時間1秒程度の条件で液体(バイオオイル)約75%、固体(チャー)約12%、ガス約13%(乾燥原料重量基準)という配分が目安になり、加熱温度・滞留時間によって各留分の比率は変わる。得られたバイオオイルはボイラーなど熱・発電用途に加え、石油精製設備との共処理(co-processing)による輸送用液体燃料への転換が検討されている。国内でも林地残材を原料に、可搬性に優れたスクリュー式(オージェ型)反応器を用いる要素技術開発が農林水産省の委託事業として進められてきた。
木質バイオマスをガス化して得た合成ガスをFT合成に通し、バイオジェット燃料(BJF)へ変換する技術は、三菱重工・東洋エンジニアリング・JAXAが2017〜2021年に実証し、製造した燃料をJALの定期便に供給する段階まで到達した。国内のSAF政策は現在、動植物油脂由来(HEFA)やアルコール由来(ATJ)の大規模プラント整備が中心だが、資源エネルギー庁は2026年末頃までに複数の国産SAFプロジェクトがFID(最終投資決定)を行うことを事業化の前提条件として示している。木質バイオマス由来の熱分解・ガス化経路はHEFA・ATJに比べ商業化が遅れているものの、炭素固定と燃料生産を同時に狙える点で、カーボンニュートラル達成に向けた選択肢の一つとして位置づけられている。
水熱液化(HTL)は、250〜550℃・5〜25MPaの高温高圧水中でバイオマスを直接液化する方式で、乾燥工程を省けるうえ、得られるバイオ原油は熱分解油の約2倍のエネルギー密度を持つ。ただし反応条件が厳しく大型装置の建設例が少ないなど、技術課題は熱分解法より多いとされる。微細藻類など含水率の高い原料にも適用できる点は熱分解法にない強みで、原料の水分状態に応じて熱分解・水熱液化・ガス化を使い分けるカスケード設計が、事業化の現実的な進め方になりつつある。
バイオマス熱分解は、加熱条件を変えるだけでガス・液体燃料・バイオ炭という異なる価値を生み分けられる柔軟な技術である。現状はガス化発電・SAF製造のいずれでもバイオ炭は主役ではなく副生成物にとどまり、生成割合も原料の数%程度にすぎない。しかし燃料生産と炭素貯留を同じプロセス設計の中で両立させる視点は、2026年末に迫る国産SAFのFIDラッシュとネガティブエミッション技術への関心の高まりが重なる中で、今後の技術選定における重要な判断軸になっていく。どの留分を主産物とし、どの留分を炭素貯留に回すかというカスケード設計そのものが、事業の差別化要素になる局面が近づいている。
本コラムは、これまでIBLCが蓄積してきた技術・市場に関する情報をもとに、IBLC専門家チームが独自の視点で整理・考察したものです。
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