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インタビュー

2026/6/10

【モノづくりin silico|第2回/全3回】 「合わせる」のではなく、「分かり合う」

インタビュー

連載:モノづくりを変えるin silico ——計算科学の最前線で見えてきたこと

第1回で三戸氏は、「うまくいかなかった記録にこそ価値がある」と語った。第2回は、その「使い方」――データと人をどう扱うか、という現場の話に入る。

計算する人と、実験する人。理論を信じる人と、手を動かす人。三戸氏は半世紀、この二つの世界のあいだに立ち続けてきた。そこで見えてきたのは、技術の優劣ではなく、「人が分かり合えているか」という、ひどく素朴な問いだった。

目次

1. 「実験値に合わせる」ことに、エネルギーを使いすぎていないか

インタビュアー:計算と実験、両方を見てこられた立場から、現場で違和感を感じる場面はありますか。

三戸氏:一番違和感を感じるのは、計算の結果を『実験値に合わせよう』と一生懸命になりすぎることですね。現場は実験値の正当性を主張したいので実験値に合わせてくれ、と言われる。でも、その実験値が本当に正しいかというと、必ずしもそうではないんです。

私も実験をやっていましたが、誤差はあるし、研究者のテクニックによっても結果は変わる。そのときの分析によって得られる結果も変わってくる。実験結果そのものが、すべてを正しく表しているわけではない。それなのに、卓上で計算だけをやっている人は、そのモノを知らないものだから、とにかくこの値に合わせようとする。MIでも理論計算でも、このデータに合わせようと努力し過ぎてしまう。

本当は、計算で外れ値が出たとき、その本質さえ分かれば、そこからもっといい生かし方があるはずなんです。それなのに、合わせることにエネルギーを使いすぎる。労力がもったいないなあと思うんですよ。

2. AIも、シミュレーションも、ぜんぶ「AI」になってしまった

インタビュアー:MIやAIと、シミュレーションや理論計算は、本来は別のものですよね。

三戸氏:そうなんです。MIやAIは、データから法則性を見出す帰納的なもの。一方、量子化学計算や物理でやるシミュレーションは理論から結論を導き出す演繹的なもの。本来、必要なスキルがまったく違う。

ところが今は、AIという大きな流れに、シミュレーションの人たちまで全部乗ろうとしている。だから、なんでもかんでも『AI』になってしまう。AI ≒(MI+シミュレーション+・・・)、それがDX、というふうにひとくくりにされてしまうのは、もったいないなと思うんです。

ある企業の方が言っていました。経営層に理論や手法の違いに対する理解が無いと、『とにかく答えを出せ、人を増やせばなんとかなる』という話になってしまう、と。でも演繹と帰納では、やれる人がまるで違う。そこを分からずに、全然タイプの違う人に振ってしまって、『なんだ、お前知らないのか』となる。だから、現場の人たちが、自分たちの仕事をいかに分かりやすく伝えるかが大事なんですね。

3. 一番いいのは、相手の現場を、自分も少し知っていること

インタビュアー:では、その二つの世界をつなぐには、何が必要なのでしょう。

三戸氏:理想を言えば、すべてを理解できるに越したことはない。でも、これだけ細分化した技術を、一人で総合化するのは無理です。だからこそ、場を作って連携させる。そこに、何人かのキーマンがいる。計算のマニアックなツールで遊ばせるのではなく、技術のこともある程度分かっている人が全体を見ながらマネジメントすると、ずいぶん違ってきます。

一番いいのは、計算をやる人が実験をある程度経験すること。全部は経験しきれないけれど、少しでも知っている。そして実験者の側も、理論がどういうもので、今どこに限界があって、どこまでなら使えるのかを理解する。お互いがそうやって分かり合えると、強いんです。『合わせる』んじゃなくて、『分かり合う』。これが大事じゃないかなと思うんですね。

4. ツールを入れて終わりではない。会社の文化を変えにいった

インタビュアー:三戸さんは、社内に計算科学を根づかせるために、長く取り組まれたと伺いました。

三戸氏:基盤を作るときは、どうしてもツールの開発・導入が中心になります。でも、それを専門家だけが使って解析をするだけでは、会社は良くならない。せっかくお金をかけても、実験を担当している研究者がもっと使えるようにならないと意味がないんです。

だから、私たちは、自分たちでテキストを作りました。計算科学をやっている人間に担当させて、世の中の事例や自分たちの解析事例を、可能な範囲で分かりやすくまとめさせる。テキストを作る作業そのものが、自分の知識を整理することにもなるんです。

そのうえで、教育に力を入れました。新入社員教育に組み込んだり、若手・中堅を集めて、じっくり時間をかけて学ぶ合宿のような場を設けたり。狙いは、計算科学を必ず使え、ということではない。研究開発のやり方、考え方を理解してもらうこと。どう使えばいいかを、自分の頭で考えてもらう。夜まで議論したこともありました。

大事なのは、計算をやる人たちが自分たちの砦――象牙の塔を作ることではなく、会社全体を変えることなんです。研究側だけでなく、流体解析なども含めることで工場側の人間も対象にした、ほぼ全社的な取り組みでした。これを二十年続けると、最初は新入社員に近かった人たちが、それぞれの部署のリーダーになり、事業部にも移っていき、会社は全体に広がって行く。そういう文化づくりが、すごく大事だなと感じました。

インタビュアー:上から言われて使うのではなく、自分たちで学ぼうという空気をつくる、ということですね。

三戸氏:DXでも同じだと思います。DXは、ツールやデジタル化の話ではなくて、企業文化を変えようという話なんですよ。ある大手化学メーカーさんは、自分たちの取り組みを、うまくいったこともいかなかったことも含めて、手の内を公開している。なぜそこまで出すのか。サプライチェーンのなかで他社と連携しなければ、本当のDXにはなり得ないからです。自分が発信しなければ、相手は何も言ってこない。日本の産業を、みんなで変えていこうという発想なんですね。

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