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座談会
座談会

シリーズ最終回のテーマは、10年後、2035年の情報通信産業の姿。4名それぞれの立場から、率直な見通しを語ってもらった。
この記事のポイント
求められるのはスターリンク依存を避ける“絶対に切れない”通信網。HAPSやメッシュ型、エッジAIによる自律分散が鍵。
最大の壁は「誰がお金を払うのか」。ロバストでセキュアな通信の価値がユーザーに伝わらず、民間だけでは普及しにくい。
人口減少で労働力不足は不可避。製造業へのヒューマノイド/ロボット導入と、それを支える通信インフラ・国内サプライチェーンが最重要課題。
結局のカギは「人材と教育」。偏差値偏重を脱し、社会実装を担える技術者を育てる仕組みへ。技術を事業に変える“勝ち筋”づくりが問われる。

インタビュアー: 最後に、10年後の未来像を伺いたいと思います。堀さん、何かありますか。
堀: 私、国家安全保障上、やっぱり通信は大事だと思っていて。スターリンク、イーロン・マスクが100万個打ち上げるとか言っていますけど、それに依存しないような通信インフラが必要だと思って。一つはHAPS(高高度プラットフォーム)をやる、というのもあるかな、と思いますよね。HAPSだと、ドローンみたいなものをグルグル回して、太陽電池で飛ばすというようなことで、防衛的にもそういう通信網があると有効だな、と思っているので。広い意味でのNTNというのは、これから宇宙産業もありますし、しっかりとやっていく必要があるかな、と個人的には思っていますね。
一機落とされたとしても、メッシュでしっかりとロバストな通信を確保すれば、ミサイルだけじゃなくドローン戦をちゃんと防ぐにも、そういったHAPSレベルの通信メッシュ網は本当に有効だ、という風に個人的には思っていますね。
AIはね、必然的に必要になってきて、その一つ一つのHAPSの中にやっぱりエッジAIを入れて、全体をオーケストレーションするような、いわゆるスウォーム型のプラットフォームが本当に重要だと思いますし、その中にドローンを入れてコントロールすることもできる。今のハイパースケーラーのようなクラウド型ではなくて、エッジAIプラス、中規模のスタンドアローンタイプのAIですね。そのオーケストレーションと、自律分散みたいなところが非常に重要で、絶対切れない通信網が重要だと思っています。日本のような山間部が多いところ、離島が多いところ、それから防災という意味でも非常に有望なので、政府が音頭を取って、民間も力を入れるという形がいいんじゃないか、と個人的には思っていますね。6Gもいいんですけど、もっとやるべき通信領域があるんじゃないかな、と思っています。
インタビュアー: 吉本さん、どうですか。
吉本: 必要なことに対して、誰がお金を払ってくれるんだ、というのって必ずあるじゃないですか。べき論としては、絶対にロバストで、しかもセキュアな通信を持ちたい、というのは、国家安全保障的にも絶対に必要なことだ、ということはもう明快なんですけど。じゃあ、それを民間でできるの、というのってありますよね。民間でやろうとすると、「じゃあ誰がお金を払うんですか」と必ずなっちゃって、結局普及しない、というところに落ちちゃうし。これを国ができるのか、というところを今までの様子を見ていると、なんかとてもそういう風に動きそうにないな、という悲観的な感じもあります。本当にロバストで、レジリエンスが高い通信インフラが欲しい、ということは明快なんですけど、一方で、誰がトライするの、というところがすごい疑問としてはある。
崎浦: ロバストでセキュアなネットワークを使うときには、倍のお値段を取れますよ、というとやると思うんですけど、多分ユーザーは支払わないですよね。
吉本: そうなんです。本当に、お金の価値がユーザー側にわからないし、しかもその間にサービスビジネスが入っちゃう関係で、どこからお金が来るかわからない状態でインフラが使われている、という。
インタビュアー: 山崎さん、どうですか。
山崎: 私も通信業界に長くて、20年くらい前に、日本の通信機器を海外に売れないか、と商社に持っていったら、「ダメです」って。もう20年前から、ずっとこの右肩下がりの通信業界、下がっています。ただ、そういうのを逆転させよう、ということもあって、IOWNとか、そういう構想を立ててやっているんだと思います。やっぱり、まとまってやらないとできないです。アメリカの巨大な資本と、中国の国家戦略の間で、日本は今まで通りのやり方で勝てるとは思えない。勝てなかったら、いざというときにどうしようもないですから。日本の産業のあり方というのを少し変えないと、大丈夫なのかな、という気がしないでもない。まだ間に合う。できない話ではない。やらないと、本当にこの危ない世の中を渡れないんじゃないかな、という風に思います。未来は明るいし、まだチャンスはある、と思います。
インタビュアー: 崎浦さん、どうですか。
崎浦: 2035年に向けてというところは、今とほぼ変わらないだろうな、という風に思っています。今の延長上だろうな、と。まず、技術って1銭にもならないんですね、金にならないんです。その技術を金に変える、錬金術みたいなものがないといけなくて。それがあれば、技術は進んでいく、という風に思っています。技術だけで進むというのはなくて、やっぱりビジネスとして考えると、誰かがお金を払うからビジネスが成り立つんであって。5Gとか6Gがいい例ですよね。今、皆さんが払っている通信料を、倍払ってもいいから使いたい、というアプリがあれば、多分、アプリはどんどん進んでいくし、もっと技術も進んでいくんだと思うんですけど、多分そうならないんですね。5G、6Gを使った車の運転支援システムとか、自動運転とかというのは多分ないだろう、という風には思っています。ちょっとネガティブな話になってしまいますけど、今のまんまで、今の延長上に6Gが乗るだろうな、というのはほぼ間違いない、という風には思っています。
インタビュアー: 岡野さん、少しポジティブな話をお願いします。
岡野: 日本の人口が今後確実に減っていくのは、もう避けられない状況ですよね。労働力不足も確実に進むので、製造業に対してもロボットの導入が不可欠になると思うんです。今の産業用ロボットだけじゃなくて、もっと高度なヒューマノイド型ロボットの導入が求められるはずです。その際に絶対に要るのが、通信基盤、つまりインフラの整備なんですよ。中国や米国では、2035年を見据えて、自動車産業なんかの現場にヒューマノイドを試験導入する取り組みがもう始まっています。軽作業の多くはロボットで対応できるようになりつつあって、日本も本格的にこの領域を考えないと、競争力を維持できないと感じています。通信インフラの整備は特に重要で、ローカル5Gの活用や、工場の近くにエッジAI拠点を設置するとか、現場にロボットを導入しやすい環境を整える必要があるんです。こうした取り組みを進めないと、製造業へのロボット導入はなかなか進まないんじゃないかと思います。ロボット技術は、製造業だけでなく介護の現場でも極めて重要で、家庭への普及にはまだ10〜15年ほどかかると思いますけど、製造業への導入は早急に進めるべき課題だと考えています。あと、海外製ロボットの導入には安全保障上の懸念もあるんですよ。カメラやセンサーを通じて、製造現場のデータが外部に流出してしまう。こうしたリスクを踏まえると、国内で開発したロボットや半導体を基盤としたシステムを整備して、国内で完結できる体制を構築することが極めて重要だと思いますね。日本がこの領域で主導権を失わないためにも、ロボットと通信インフラの整備は最重要課題じゃないかと思います。
国居: そういう意味では、垂直統合は結構、日本の場合できる部分はありますけど、やっぱり水平統合が弱いので。材料メーカー同士が組んで、世界で戦えるようなチームを作るとかいうのは、必要になってくる。
岡野: サプライチェーンの整備は、日本にとって極めて重要な課題だと思うんです。中国が急速に伸びている背景には、関連企業や技術が一つの産業圏に集約されていて、必要な要素がすべて揃っているという強みがあるんですよね。だから、新しい製品や技術の開発が非常に速い。一方で日本は、半導体や電子部品の分野で高い技術力を持つ企業がたくさんあるのに、企業間の連携や産業としての一体感がないように思うんです。大手メーカーの半導体部門が分社化されて、それぞれ努力を続けている状況ではあるんですけど、産業全体としての統合力が弱いままなんですよね。こうした企業群がもう一度連携して、国内で強固なサプライチェーンを構築できれば、また大きな競争力を持てるんじゃないか、と感じています。
インタビュアー: 結局、国家戦略のようなものが必要だと言いつつ、それがうまくいっていない日本は、どうしたらいいのでしょうか。
岡野: 今の若い世代の人口規模はもう確定していて、年間の出生数が80万人を下回る状況では、将来的に労働力が大幅に減っていくのは避けられないんですよね。この構造的な人手不足を考えると、ロボットの導入は不可欠なんです。例えば、リサイクル関連の工場では、法的な制約から海外の人材を雇えないケースもあるんですよ。人手不足が深刻になる産業領域、特に敬遠されがちな作業を伴う分野にこそ、ロボットを計画的に導入することを国として検討すべきだと思います。かつて、政府がロボット産業戦略を策定した時期がありましたけど、その後のロードマップが十分に続かなくて、産業としての一貫した推進力が弱まってしまった印象があります。介護領域へのロボット導入を進めると掲げながら、実際には現場のニーズと合っていない製品が作られてしまうなど、課題があると思いますね。
岡野: ムーンショットみたいに、大学の研究者が中心になって進める大規模な研究プロジェクトには、先端的で夢のあるテーマが多くて、そうした取り組み自体は非常に意義があると思うんです。ただ、未来志向の研究は研究として進めていただく一方で、社会実装につながる実用的な技術や製品を確実に生み出す取り組みも、同時に強化していく必要があるんですよね。そうしないと、日本の産業競争力は本当に取り返しのつかない状況になりかねない、と感じています。
山崎: 若い人に想像してもらいたいんですけれども、敵国がヒューマノイドで攻めてきて、こっちは鉄砲を持ってやらないといけないんですよ。昔の竹槍と同じですよね。これはまずいんじゃないの、と。そこまで想像ができていない。想像しないとね。もうそんな時代になってきている。
岡野: そういう議論をする場がないんですよね。あとは教育ですよね。最初からやっぱり教育を、根本的に変えないと。
国居: 根本的には教育だと、僕も思う。今までのような偏差値の教育制度ではなくて、小学校、中学校から「何をやりたいの」という、そういうものを醸成させるような教育でないと。最終的には大学ですよね。大学はやっぱり会社と、最終的には偏差値の高いものから採る、というのは、そこを変えない限りは、もうずっと変わらないですよ。自分でどうやって生きていくか、という問いが、やっぱり小さい頃から、自分で生きていくんだ、という部分がないと、難しいでしょうね。
国居: 日本は結局、儲かるものがなくて。技術というのはすごく貴重で、その技術というのは人が持っているものだから、この国の有効資源はやっぱり人材だと思うんですよ。その人材がおろそかになっている。教育も含めてね。本当に大切にすべきものは何なのか、というところに立ち返らない限りは、多分、政治だけで小手先でやる、というのはもう無理なんだろうな、と思いますよね。
岡野: 技術者の育成については、深刻な課題があると感じているんです。若い世代の人口が減っているので、エンジニアの数も確実に減っていくはずなんですよね。光関連の分野では、大学で研究を担ってきた先生方が退任して、研究体制が縮小している状況が見られます。僕たちの世代の研究者も多くが現場を離れていて、「これから光学技術が重要だ」と言われているのに、学生が十分に集まらないという問題が起きているんじゃないかと思います。半導体の分野でも同じで、技術者の確保が難しくなっているはずです。工業系の教育機関や高等専門学校の役割を改めて見直して、体系的に技術者を育てる仕組みを強化しないと、将来的に産業基盤が大きく弱ってしまう可能性があります。こうした人材面の課題は、日本の技術産業にとって非常に大きなテーマだと感じていますね。
座談会は約2時間に及んだ。AIブームの実態から、光電融合、材料産業、5G・6Gの反省、そして宇宙通信まで——通信・半導体業界の第一線を歩んできた4名の議論に共通していたのは、「技術の強さ」と「事業化・国家戦略としての勝ち筋」は別物である、という認識だった。技術はできても、それを事業に転換し、勝ち続ける仕組みがなければ意味をなさない。この視座こそ、IBLCが技術と事業の橋渡し役として大切にしている問いでもある。
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