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排出したCO₂を炭酸カルシウムとして閉じ込め、コンクリートや樹脂の原料に戻す——CO₂固定化炭酸カルシウムは、そんな発想の技術だ。富士経済は、その排出権換算価値が2035年に2兆8,860億円へ拡大すると予測する。本記事では、素材・建設分野の技術者に向けて、実装の現在地と経済性の壁を整理する。
目次
原理は化学量論そのものである。炭酸カルシウム(CaCO₃)の分子量は約100、二酸化炭素(CO₂)は44。したがって炭酸カルシウム1kgをつくるたびに、0.44kgのCO₂が固体として固定される計算になる。
プロセスはシンプルだ。鉄鋼スラグや廃コンクリートなど、カルシウムを含む産業副産物を液体に入れてカルシウム分を溶出させ、その溶液に工場や発電所から出たCO₂を吹き込む。すると炭酸カルシウムが析出する。原料は廃棄物、反応させるのは排ガス、できるのは売れる粉体という組み立てである。
注目すべきは、これが貯留(CCS)ではなく利用(CCU)である点だ。地中に埋めればコストだが、材料として売れれば収益になる。CO₂を「処分するもの」から「原料」へと置き換えられるかどうかが、この技術の分水嶺になる。
富士経済の調査(2021年発表)によれば、2020年のCO₂固定化量は1億7,561万t-CO₂、CO₂市場価格をもとにした排出権換算価値は5,480億円だった。これが2035年には固定化量3億2,468万t-CO₂、排出権換算価値2兆8,860億円と、2020年比5.3倍に拡大すると予測されている。
CCUS全体では推計が分かれる。Stratistics Market Research Consultingは世界市場を2024年の46.1億ドルから2030年に152.1億ドル(CAGR22.0%)と予測し、富士経済は2024年の別調査でカーボンリサイクル関連技術・材料の世界市場が2050年に198兆円規模、うちCO₂固定コンクリートが99兆円と見る。対象範囲が異なり単純比較はできない。
日本国内では、NEDOグリーンイノベーション基金が「CO₂を用いたコンクリート等製造技術開発」に550億円規模の支援枠を設けている。政策の後押しは、すでに実証段階に入っている。
CO₂を吸収するコンクリートとして早くから知られるのが、鹿島建設などが開発した「CO₂-SUICOM」だ。γ-C₂S(2CaO·SiO₂)が水ではなくCO₂と反応して硬化する性質を使い、セメント置換で約197kg/m³、CO₂固定で約109kg/m³、合わせて306kg/m³を削減する。一般的なコンクリートの排出量(約288kg/m³)を上回る削減量であり、最終的な排出量は実質マイナス18kg/m³、すなわちカーボンネガティブに到達している。
粉体そのものを製品化した例もある。日本コンクリート工業の「エコタンカル」は、工場内で発生する高アルカリ廃水とボイラー排ガス中のCO₂を反応させて製造する炭酸カルシウムで、1kgあたり約440gのCO₂を固定する。化学反応による生成のため不純物が入りにくく、純度97〜99%と高い白色度を両立する。
NEDO基金のコンソーシアム「CUCO」では、2026年7月に人工石灰石を用い、製造時固定量110kg-CO₂/m³のCO₂固定コンクリート製品の現場実証を完了したと公表された。アイシンと大成建設は2022年、アミノ酸水溶液で産業副産物からカルシウムを抽出しCO₂を固定するプロセスで提携し、2030年頃の実用化を目指している。
米国のFortera社は、CO₂からセメントをつくる。同社の「ReAct」は、不安定な球状結晶であるバテライトを経由する点に特徴があり、通常のポルトランドセメント比で最大70%のCO₂削減を掲げる。カリフォルニア州レディングの拠点では年間約16.5万トンのCO₂を固定し、37.5万トンの製品を生産する計画で、2024年には8,500万ドルの資金調達も実施した。
国内の研究では、東京大学が2024年9月に発表した炭酸カルシウムコンクリート(CCC)が興味深い。廃コンクリートを粉砕してCO₂を固定したのち、加圧によって炭酸カルシウムの結晶同士を結合させる「コールドシンタリング(冷間焼結)」で固化する手法で、高温焼成を必要としない。ミスト法により直接空気回収(DAC)が従来の50倍速で進むこと、50MPaの加圧で圧縮強度38MPaが得られることも報告されており、構造材への展開が視野に入ってきた。
ここで冷静な試算をしておきたい。炭酸カルシウム1kgが固定するCO₂は0.44kg。経済産業省が示した2026年度のGX-ETSの参考上限取引価格は約4,300円/t-CO₂(調整基準価格は約1,700円/t-CO₂)である。これを当てはめると、炭酸カルシウム1kgあたりの炭素価値はおよそ1.9円にしかならない。
仮に炭素価格が9,000円/t-CO₂まで上がっても、4円弱。軽質炭酸カルシウムの実勢単価が約67円/kgであることを思えば、クレジット価値だけで事業を成立させるのは難しい。
したがって勝負どころは明確だ。CO₂固定という物語ではなく、白色度・純度・粒子形状といった材料としての性能で通常品と戦えるかどうか。エコタンカルが純度97〜99%を打ち出しているのは、まさにその線を狙っているからである。炭素価格の上昇は追い風にはなるが、主翼にはならない。
CO₂固定化炭酸カルシウムは、排出削減の手段であると同時に、材料の調達先を書き換える技術でもある。廃コンクリート、鉄鋼スラグ、排ガス——これまでコストだったものが原料側に移る。2035年に2兆8,860億円と見込まれる市場は、その転換が進んだ場合の輪郭にすぎない。
問われているのは、自社が排出しているCO₂や副産物を、誰の原料として差し出せるかという設計である。処分費を払っている流れの中に、値札を付け替えられるものはないだろうか。
本コラムは、これまでIBLCが蓄積してきた技術・市場に関する情報をもとに、IBLC専門家チームが独自の視点で整理・考察したものです。
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