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世界の繊維生産は2024年に1億3,200万トンへ達し、その約6割をポリエステルが占める。だが繊維から繊維へ戻るリサイクルは全体の1%未満にとどまる。本記事では、素材・化学分野の技術企画に向けて、混紡という壁の正体と、高純度PET繊維が生まれる出口の条件を整理する。
目次
繊維リサイクルという言葉は、二つのまったく違うものを指している。ひとつは使用済みPETボトルを砕いて紡糸する「ボトルtoファイバー」。もうひとつが使用済み衣類や産業資材を原料に戻す「ファイバーtoファイバー」だ。
Textile Exchangeの市場レポート2025によれば、2024年の世界繊維生産量は1億3,200万トンで、ポリエステルが全体の約59%を占める。単純換算すればポリエステルだけで約7,800万トンだ。リサイクル繊維は全体の6.9%まで伸びたが、その大半はボトル由来のrPET繊維であり、繊維から繊維へ戻る本来のリサイクルは全体の1%未満にとどまる。
つまり現在の「リサイクル繊維」は、飲料容器の循環から原料を借りている状態にある。PPWR(EU包装規則)などで包装向けの再生材需要が高まれば、ボトル由来のrPETは包装側に引き戻される。繊維産業は、自前の原料循環を作らなければ足元をすくわれる構造にある。
技術的な障壁は明確だ。第一に混紡である。衣料品はポリエステルと綿、ナイロン、ポリウレタンなどが繊維レベルで絡み合っており、機械的に分離できない。回収された衣類のうちポリエステル単一素材で構成されるものは限られ、二者混・三者混が大半を占める。
第二に染料と加工剤。衣料用ポリエステルは分散染料で染色され、防炎・撥水・帯電防止などの機能加工が施されている。これらは機械的リサイクルの再溶融工程では除去できず、再生糸の色と品質を不安定にする。
第三に、ファスナー、ボタン、縫製糸、プリントといった異物の存在。ボトルが「単一素材・単一形状・回収ルートも一本」であるのに対し、衣類は素材も形状も回収経路もばらばらだ。同じPETでありながら、ボトルの成功体験がそのまま通用しない理由がここにある。
だからこそ、分子まで戻して精製できるケミカルリサイクルが繊維領域で期待される。色素や添加剤を精製工程で落とせる方式であれば、混紡や染色済みの原料からでも高純度のPETを取り出せる可能性がある。
国別に見ると、回収率の高さとリサイクルの実現は別物だとわかる。韓国は全国に10万個以上の古着回収ボックスを設置し、回収量では世界有数だが、その多くは古着として海外へ輸出される。輸出量は世界5位規模とされ、輸出先でも相当量が焼却・埋立に回っているとの指摘がある。
インドは30年以上の歴史を持つ非公式回収ネットワークが機能し、衣類廃棄物の回収率は7割を超えるが、内訳はリユースとダウンサイクルが中心だ。台湾はPETボトルのリサイクル率が95%を超える一方、繊維は年間廃棄量の大半が未リサイクルのまま焼却・埋立されている。
回収されていないから循環しないのではない。回収された後に「戻す先」がないことが問題の本体だ。ダウンサイクル(詰め物、断熱材、清掃用資材)に流れる限り、その素材はもう一度使われて終わる。
制度面ではEUが先行している。2025年1月1日から、全加盟国で使用済み繊維製品の分別回収が義務化された。さらに繊維廃棄物に焦点を当てた廃棄物枠組み指令の改正が2025年10月に発効し、拡大生産者責任(EPR)が導入される。加盟国は2027年6月までに国内法化し、2028年4月までにEPR制度を立ち上げる必要がある。
エコデザイン規則(ESPR)の下での繊維製品向け委任法令も準備が進んでおり、採択は2027年頃と見込まれている。ここで耐久性やリサイクル可能性の要件が定まれば、設計段階から「分離できる素材構成」が求められることになる。
制度の効果は二段階で現れる。まず分別回収義務によって原料が集まり、次にEPRによってその処理費用の出所が決まる。原料と資金の両方が揃って初めて、繊維からの再生プロセスが事業として成立する。EUが2020年代後半に作ろうとしているのは、この二つの条件だ。
現実的な突破口は、混紡そのものを避けられる用途にある。
企業ユニフォームは、同一仕様の製品が同時期に大量導入され、更新時期にまとまって回収できる。発注元が明確なため、回収から再生までの閉じたループを設計しやすい。カーテンやインテリアファブリックも、大手小売やレンタル事業者を経由することで回収経路をまとめられる。
自動車内装はさらに条件が良い。シート表皮、シートベルト、エアバッグ、フロアマットといった部材は、強度や耐熱の要求からポリエステル100%で設計されることが多く、解体業者を通じて素材が集まる。課題は中古車の国際的な流通で車両そのものが国外へ出ていく点だが、素材の均質性という意味では衣料品より数段扱いやすい。
大規模投資の動きも始まっている。ベトナムでは、大手アパレルの支援を受けた専業事業者が、繊維から繊維へ戻す大規模リサイクル工場の建設構想を進めている。原料が均質な用途から始めて規模を作り、そこで確立した精製技術を混紡衣料へ広げる——この順序が、1%の壁を破る道筋になる。
繊維リサイクルの議論は長らく回収率の話に終始してきた。だが回収率が9割に届く国でも、繊維が繊維に戻る比率は1%未満のままだ。ボトルと違って素材が混ざっていること、そして戻す先がダウンサイクルしかないこと。この二つが本当の律速になっている。
素材メーカーにとっての問いは、「どうやって集めるか」ではなく「どの用途なら均質な原料が手に入るか」だ。ユニフォーム、インテリア、モビリティ。出口の形が先に決まれば、必要な精製技術の仕様も自ずと決まる。技術から用途を探すのではなく、用途から技術を逆算する順序が、この領域では効く。
本コラムは、これまでIBLCが蓄積してきた技術・市場に関する情報をもとに、IBLC専門家チームが独自の視点で整理・考察したものです。
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