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技術の潮流を読む
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PETケミカルリサイクルは、使用済みPETを分子レベルまで分解して原料に戻す技術だ。着色品や多層品、繊維など機械的リサイクルが扱えない廃棄物を資源に変える一方、2026年の商用プラントは稼働・遅延・資金難が入り混じる。本記事では、素材・化学分野の技術企画に向けて解重合4方式と各社の現在地を整理する。
目次
PETのリサイクルには大きく2つの経路がある。ひとつは機械的リサイクル(メカニカルリサイクル)で、回収したボトルを洗浄・粉砕・乾燥し、固相重合で分子量を回復させて再びペレットにする。工程が短くエネルギー消費も少ないため、透明PETボトルの水平リサイクルではこちらが主流だ。
もうひとつがケミカルリサイクルである。PETの主鎖であるエステル結合を化学的に切断し、モノマーやオリゴマーまで分解したうえで精製し、再重合してPETに戻す。分子まで戻すため、色素・添加剤・異種樹脂といった不純物を精製工程で落とせる。理論上はバージン材と同等の品質が得られる。
両者は代替関係ではなく、扱える原料が違う。ボトルのような分子量が高く添加物の少ない原料は機械的リサイクルが経済合理的で、着色PET、多層フィルム、混紡繊維といった「これまで焼却か埋立に回っていた原料」がケミカルリサイクルの主戦場になる。
解重合は、どの分解剤でエステル結合を切るかによって方式が分かれる。
グリコリシスはエチレングリコールで分解し、BHET(ビスヒドロキシエチルテレフタレート)を得る。反応条件が比較的穏やかで既存の重合設備との親和性が高いが、生成物の精製が難しい。メタノリシスはメタノールで分解してDMT(テレフタル酸ジメチル)とエチレングリコールを得る方式で、DMTは蒸留精製しやすく高純度品が得やすい反面、高温高圧が必要でエネルギー負荷が大きい。
加水分解は水(酸・アルカリ・中性)でTPA(テレフタル酸)まで戻す方式。TPAは現行の重合ラインにそのまま投入できるが、廃液処理の負担がある。酵素分解は改変したエステラーゼ系酵素で常圧・低温域で分解する方式で、エネルギー消費を大きく下げられる可能性がある一方、反応速度と酵素コストが実用化の焦点だ。
方式の優劣は一義的に決まらない。原料の汚れ具合、必要な純度、既存設備との接続性、エネルギー価格。この4つの掛け算で最適解が変わる。
商業化のフェーズに入った案件から見ていく。Eastman(米国)は、テネシー州キングスポートのメタノリシス工場を2024年3月に商業生産へ移行させた。年産能力は約11万トンで、2025年第4四半期には稼働率・生産量ともに過去最高を記録したと報告している。フランスで計画する第2拠点(フェーズ1で年産10万トン規模)は、規制の不透明さと顧客契約の交渉を理由に時期の後ろ倒しが報じられている。
Carbios(フランス)の酵素分解プラント(ロンラヴィル)は資金調達が難航している。2025年12月にスケジュール見直しを発表し、2026年8月には稼働開始目標を2028年前半へと修正した。Loop Industries(カナダ)は2026年2月、欧州初の拠点をドイツ・シュヴァルツハイデのBASFインダストリーパーク内に決定したが、稼働目標は2030年で、同社は決算で継続企業の前提に関する重要な疑義を開示している。
一方で前進している案件もある。Gr3n(スイス)はマイクロ波を用いた解重合で2026年にシリーズBを実施し、スペインでの商業プラント建設へ動いた。日本ではJEPLANが2025年、飲料各社と連携して非食品用PETを飲料用ボトルに戻す取り組みを開始し、同年12月には石油由来原料を使わない再生PETの製造を発表している。
技術ではなく経済性が律速になっている。欧州では2025年、食品グレードのrPET(再生PET)とバージンPETの価格差が1トンあたり600〜730ユーロ規模まで拡大したと報じられた。アジアの需要低迷でバージンPET価格が下落したためだ。ケミカルリサイクルは機械的リサイクルよりさらに設備費・運転費がかかるため、この価格差はそのまま投資判断の重石になる。
構造的な問題は、規制が需要を作る時期とプラントが立ち上がる時期がずれていることだ。PPWR(EU包装規則)の再生材含有率義務が効くのは2030年から。しかしプラントは意思決定から稼働まで数年を要する。需要の確度が上がる前に投資を決めなければ間に合わず、決めれば数年は価格差を被り続ける。2025年以降の遅延・資金難は、この時間差の表れと読める。
日本のPETボトルリサイクルは世界でも高い水準にある。PETボトルリサイクル推進協議会の年次報告書2025によれば、2024年度のリサイクル率は85.1%、有効利用率は98.6%。ボトルtoボトル比率は37.7%で、前年度の33.7%から4.0ポイント上昇し、2030年度の50%目標に近づいている。
ただしこれは機械的リサイクルを軸にした数字だ。回収率が9割を超える国では、ボトルからの追加的な原料確保はすでに頭打ちに近い。次の伸びしろは、着色ボトル、シート、フィルム、繊維といった「これまで戻せなかった側」にある。ケミカルリサイクルの価値は、リサイクル率を上げることではなく原料の裾野を広げることにある。
韓国のLotte Chemicalが蔚山工場をケミカルリサイクル拠点へ転換する計画を掲げるなど、既存のPET生産設備を再生材向けに転換する動きも各国で始まっている。設備を新設せずに転換するアプローチは、価格差の時代における現実解のひとつだ。
解重合4方式のどれが勝つかという問いは、的を外している。方式の違いはどんな原料をどの純度で戻したいかの違いに過ぎず、汚れた原料を安く高純度に戻せる技術が結局は選ばれる。
2030年に向けて、規制は再生材の需要を確実に押し上げる。だが供給側の設備は、価格差という現実の前で立ち上がりが鈍い。このギャップを埋められるのは、既存設備との接続性が高く原料の許容範囲が広いプロセスだ。どの廃棄物を経済的に資源へ戻せるか。競争軸はすでにそちらへ移っている。
本コラムは、これまでIBLCが蓄積してきた技術・市場に関する情報をもとに、IBLC専門家チームが独自の視点で整理・考察したものです。
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