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2026/8/20

シングルユース化とは?|水削減と1バッチ369kgのプ ラ廃棄物のトレードオフ #35

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洗浄をやめれば水とCO₂は減る。代わりに抗体1バッチあたり369kgのプラごみが出る。バイオ医薬品製造のシングルユース(使い捨て)化はCAGR13〜15%で進むが、環境負荷は一方向には動かない。本記事では、水・環境保全の観点からこの二律背反をLCAの実データで読み解く。

目次

1. シングルユース化とは|「洗わない工場」への転換

シングルユース(Single-Use Technology、SUT)とは、バイオリアクターの内袋、チューブ、フィルター、分離膜といった液接触部を使い捨ての樹脂製品に置き換える製造方式である。従来のステンレス設備ではバッチごとにCIP(定置洗浄)とSIP(定置蒸気滅菌)を行い、洗浄バリデーションで洗浄の妥当性を証明する必要があった。シングルユースはこの工程を丸ごと消す。

導入の動機は3つ。交差汚染の回避、洗浄バリデーションの手間とコストの削減、立ち上げが速く多品種少量生産に向くことだ。抗体医薬の精製現場では移行が急速に進み、mRNA・AAV・pDNA・CAR-Tなどの新規モダリティではほぼ標準となっている。

市場はCAGR13〜15%台での成長が各社予測でおおむね共通しており、Grand View Researchは2024年の317億ドルが2030年に741億ドル(CAGR15.4%)へ拡大すると見込む(定義により調査機関で数字は大きく異なる)。

2. 水とエネルギーはどれだけ減るのか|LCAが示した34%削減

環境面での効果は、感覚論ではなくLCA(ライフサイクルアセスメント)で定量化されている。

GE Healthcare(現Cytiva)が2,000L規模のモノクローナル抗体プロセスで実施したISO 14040/44準拠のLCA(2013年公表)では、シングルユースは従来のステンレス方式に対し、使用段階の温室効果ガス(GWP)を38%削減、ライフサイクル全体で34%削減した。累積エネルギー需要(CED)も全体で32%減少している。

削減の主因は洗浄そのものではなく、洗浄に使う水を作るエネルギーにある。バイオ医薬品工場では注射用水(WFI)や高純度スチームを蒸留・加熱で製造しており、CIP/SIPと用役がGWP・CEDの38〜40%を占める。「水を使わない」ことより「高純度の水を作らない」ことの効果が大きい。

具体例も示されている。500Lバイオリアクター1台の置き換えで、超純水の使用量は年間66,000L以上減る。実プラントでは、フランスのPierre Fabreがシングルユース資材を採用した拠点で、洗浄・滅菌を伴う従来法に比べ水使用量を87%削減したと公表している。淡水消費は地域・電力構成・輸送距離を変えても常にシングルユースが優位だ。

3. 増えるプラスチック廃棄物|1バッチ369kgという数字

一方で、使い捨てにすればプラスチック廃棄物は増える。この論点は長く定量データを欠いていたが、BioPhorumが2025年6月に公表したレポートが実数を示した。

2,000L規模・力価5g/Lという条件で、モノクローナル抗体1バッチあたりのシングルユース由来プラスチック廃棄物は369kg。内訳はバイオリアクターや製品ホールドなどのコアプロセスが約半分、残り半分が培地・バッファー関連の資材だ。バッファーは製品そのものではないのに、廃棄物の半分近くを生んでいる。

同レポートは2019年の世界のmAb生産量25,000kgに対し、対象範囲のシングルユース廃棄物を約352トンと推計する。2024年に生産量が約56,000kgへ増えれば廃棄物も倍増する計算だ。

同レポートによれば、12,000L規模のステンレス主体プロセスは1バッチあたりの廃棄物が186kgと少なく、製品1kgあたりでは大規模ステンレスが圧倒的に有利になる。スケールが小さいほど廃棄物原単位は悪化する。多品種少量生産という新規モダリティの潮流は、この意味で環境負荷と逆向きに働く。

4. トレードオフをどう読むか|廃棄段階は全体の1%未満

では差し引きどちらが良いのか。前掲のLCAは判断材料を1つ提示している。シングルユースのライフサイクル影響のうち、廃棄段階が占める割合は1%未満である。樹脂製品の製造・輸送に伴うサプライチェーン影響はステンレス方式より高いが、それでもライフサイクルGWPの5%未満だ。温室効果ガス・エネルギー・水で見る限り、洗浄をなくす効果が廃棄物の増加を上回るというのが現時点の結論である。

ただしこれは「プラスチック廃棄物を無視してよい」という意味ではない。埋立・焼却される樹脂の絶対量は増え続け、リサイクルルートも確立していない。ISPEが2024年に会報誌で公表した調査では、業界リーダーの46%が廃棄物削減施策を持つと回答しており、取り組みは始まったばかりだ。評価指標をCO₂だけに置くか、資源循環まで含めるかで結論は変わりうる。

5. 部材メーカーに求められる次の一手

この構図は、膜やチューブを供給する部材メーカーの開発ターゲットを変える。

第一に、シングルユース機器のセンサ信頼性。使い捨て化された流量計・圧力計は精度が従来品に劣ると業界の技術報告でも指摘されており、厳密な制御の妨げになっている。

第二に、ホールドアップ液量の低減。装置内に残る液はそのまま製品ロスであり、回収のためのリンス液=追加の水を必要とする。高価な原薬ほど、この差が経済性と環境負荷に効く。

第三に、滅菌保証と耐薬品性。使い捨て前提ではCIP耐性より、ガンマ線滅菌への適合や有機溶媒(ADC製造のDMSO、LNP製造のエタノール)への耐性が問われる。

第四に、樹脂使用量を減らす設計。バッファー関連が廃棄物の半分を占めるという事実は、インライン希釈やバッファー濃縮が廃棄物削減に直結することを示している。

6. まとめ|「水を減らす」と「ごみを減らす」は同時に解けるか

シングルユース化は、洗浄水と高純度水の製造エネルギーを削り、CO₂と淡水消費を確実に下げる。同時に、プラスチック廃棄物を増やす。現状のLCAでは前者の効果が上回るが、それは温室効果ガスとエネルギーを主指標に置いた場合の答えにすぎない。

製薬産業は売上あたりの排出原単位で自動車産業を上回るという分析もある(Belkhir & Elmeligi, 2019。付加価値率の違いを無視しているとの反論もある)。生産量が伸び続けることを踏まえれば、「洗わない」の次に来るのは「そもそも使う量を減らす」設計だろう。水とごみの両方を減らす工程強化——その具体策が次の競争軸になる。


本コラムは、これまでIBLCが蓄積してきた技術・市場に関する情報をもとに、IBLC専門家チームが独自の視点で整理・考察したものです。

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