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世界の粗鋼生産に占める電炉比率は2025年に30.3%へ達した。鉄1トンあたりのCO₂排出を高炉の4分の1に抑えられる電炉製鉄は、素材産業の脱炭素における最短ルートとされる。本記事では、日本製鉄8,687億円の投資、CBAM本格運用、そして電炉が抱える排熱の死角まで、転換の現在地を整理する。
目次
電炉製鉄は、鉄スクラップを電気アークの熱で溶かして鋼をつくる方式である。鉄鉱石をコークスで還元する高炉法が炭素を還元剤として大量に消費するのに対し、電炉はすでに還元済みの鉄を再溶解するだけで済む。この構造の違いが、そのままCO₂排出量の差になる。
韓国POSCOが2026年6月に稼働させた光陽の年産250万トン電炉は、高炉比で最大75%のCO₂削減を見込む。鉄鋼業は世界の産業部門CO₂排出の中でも最大級の発生源であり、素材産業の脱炭素を語るとき、電炉化は避けて通れない選択肢になっている。
一方で電炉には制約もある。原料は鉄スクラップであり、その調達可能量が生産量の上限を決める。高級鋼に必要な成分管理も、不純物を含むスクラップでは難易度が上がる。電炉転換は「炉を入れ替えれば終わり」という話ではない。
世界鉄鋼協会の統計によると、2025年の世界粗鋼生産は18億4,890万トン、うち電炉比率は30.3%となり、初めて3割を超えた。国別に見ると様相はかなり異なる。
米国は生産8,190万トンに対し電炉比率71.3%と、すでに電炉が主流である。インドは1億6,490万トンで57.7%。対して中国は9億6,080万トンを生産しながら電炉比率は10.6%にとどまる。日本は8,070万トンで25.8%、韓国は6,220万トンで27.0%、台湾は1,720万トンで39.7%だ。
注目すべきは、韓国と台湾の電炉比率がここ数年むしろ低下している点である。韓国は2023年の29.5%から27.0%へ、台湾は40.8%から39.7%へ下がった。建設需要の低迷と、中国産低価格鋼材の流入が電炉メーカーの稼働を直撃した結果だ。脱炭素の掛け声とは裏腹に、電炉の稼働は市況に左右される。
転換を後押ししているのが、EUの炭素国境調整措置(CBAM)である。2026年1月1日から本格運用が始まり、鉄鋼を含む対象品目をEUへ輸出する際、生産に伴うCO₂排出量に応じた負担が発生する。実際の証書購入・提出は2027年2月からで、2026年輸入分が対象となる。
制度は簡素化も進んだ。従来の「1件150ユーロ未満は免除」に代わり、年間50トンの質量ベース閾値が導入され、これを超える輸入者のみが認定申告者として登録・証書購入を求められる。小口輸入は実質的に対象外となった一方、鉄鋼のような大量輸出品には確実に効いてくる。
韓国では圧延鋼板の約2割がEU向けであり、炭素費用の負担は経営課題として認識されている。POSCO、現代製鉄、東国製鋼など6社が参画するグリーン鉄鋼委員会は2050年カーボンニュートラルを掲げ、政府も水素還元製鉄の実証に予算を確保した。素材産業の脱炭素は、環境部門の課題から輸出戦略の課題へと位置づけを変えている。
具体的な投資も動き出した。日本製鉄は2025年5月、総額8,687億円(うち政府補助上限2,514億円)を投じて電炉3拠点を整備すると発表した。九州製鉄所八幡地区に年約200万トンの大型電炉を新設し2029年度下期稼働、瀬戸内製鉄所広畑地区に約50万トン、山口製鉄所周南地区では既設電炉を改造して約40万トンを2028年度下期に再稼働させる。八幡地区は2026年4月に転換工事へ着工した。
韓国では、現代製鉄が2025年3月に米ルイジアナ州で58億ドル・年産270万トンの電炉一貫工場を発表。同年12月にはPOSCOが20%出資し、2029年の商業生産開始を目指す。
一方、台湾の中鋼(China Steel)は2023年に高雄の高炉1基を年150万トンの電炉へ転換する計画を打ち出したものの、2025年6月にスクラップ調達難と採算性を理由に計画を一時停止した。同社は第4高炉の大規模改修に舵を切っており、電炉転換が一本道ではないことを示している。
電炉に切り替えれば脱炭素が完成するわけではない。電炉は投入エネルギーの相当部分を排ガスとして失っている。文献により幅はあるが、未燃ガスの化学エネルギーを含む排ガス損失は投入エネルギーの25〜40%、うち顕熱分は10〜20%とされる。
この熱を回収する試みは古くからある。代表的なのがスクラップ予熱で、Tenovaの「Consteel」は排ガスの熱でスクラップを予熱しながら連続装入する方式として世界で80基以上の実績を持つ。ただし予熱で利用できるのはうまくいっても2割程度で、老廃スクラップに混じるケーブル被覆材からダイオキシンが発生するという環境上の課題も残る。
さらに厄介なのが、電炉が約1時間周期のバッチ操業だという点だ。炉直後で1,600℃に達する排ガスの温度と流量は絶えず変動し、熱回収設備は追従を求められる。粉塵負荷も高い。連続運転の高炉に比べ、電炉の排熱は「量は多いが扱いにくい熱」なのである。この扱いにくさをどう克服するかが、電炉時代の省エネ投資の焦点になる。
世界の電炉比率が3割を超え、日本製鉄もPOSCOも現代製鉄も巨額の投資に踏み切った。CBAMという実利のある圧力も加わり、素材産業の脱炭素は加速局面に入っている。
ただし、中鋼の計画停止が示すように、スクラップ調達と採算性という現実は依然として重い。そして電炉に切り替えた後も、投入エネルギーの3割前後は排ガスとして大気に逃げていく。転換によって削れるCO₂と、転換後も残る非効率は、別の問題として扱う必要がある。
電炉新設はそのまま付帯設備・耐火物・排ガス処理・省エネ機器の需要を生む。高炉から電炉へという見出しの下で本当に問われているのは、新しい炉をどれだけ効率よく使い切れるかであり、そこにサプライヤー側の商機が広がっている。
本コラムは、これまでIBLCが蓄積してきた技術・市場に関する情報をもとに、IBLC専門家チームが独自の視点で整理・考察したものです。
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