IBLC Insights

技術の潮流を読む

2026/7/30

ワイヤレス給電とは?|変換効率92.8%が拓くバッテリーレスIoTの最新動向 #33 

技術の潮流を読む

IoTセンサの電池交換が、製造業のDXを止めている。マイクロ波によるワイヤレス給電は、小電力域のレクテナで変換効率92.8%に達し、センサを電池レスで動かす段階に入った。本記事では、パナソニック・大成建設・東芝の実装事例から、電池に頼らないセンシング基盤の現在地を読み解く。

目次

1. ワイヤレス給電とは?|電池交換コストが動かすバッテリーレス需要

ワイヤレス給電(WPT:Wireless Power Transfer)は、電線を使わず空間を介して電力を送る技術の総称だ。スマートフォンの充電パッドに使われる電磁誘導式のような近接型から、電波を飛ばして数十メートル先へ電力を届ける放射型まで、方式は大きく分かれる。

このうち製造業の関心が急速に高まっているのが、マイクロ波を使う放射型である。理由は単純で、IoTセンサの電池が切れるからだ。

工場やプラント、橋梁やトンネルにセンサを貼り付けてデータを取る。ここまでは多くの企業が実行できる。問題はその後だ。数百個、数千個のセンサに載ったコイン電池は数年で寿命を迎える。電池代そのものは数百円でも、高所や危険区域にある機器へ人を送り込む交換作業のコストは桁が違う。そして交換された一次電池は、そのまま廃棄物になる。

「センシングの規模を10倍にしたいが、電池交換の運用が回らない」。この壁が、ワイヤレス給電を研究段階から実装段階へ押し出している。

2. 920MHz帯と5.7GHz帯|実用化が始まったマイクロ波給電の使い分け

マイクロ波給電の実装は、周波数帯によって性格が分かれる。

パナソニックは京都大学生存圏研究所の篠原真毅教授と共同で、920MHz帯を使うマイクロ波電力伝送システム「Enesphere(エネスフィア)」を開発した。920MHz帯は回り込みが効き、部屋の中に電力を満たすような使い方に向く。離れた場所の送電機から常時給電することで、電池切れの心配も電源コードの煩わしさもない空間をつくる構想だ。

一方、大成建設と三菱電機の建物内給電システム「T-iPower Beam」は5.7GHz帯を使う。こちらは指向性が高く、ビームを絞って狙った受電装置に当てられる。建物内を動く自律ロボットから最大25Wを送り、センサやモバイル機器へ給電する。さらに電波の拡散を抑える建材と受電装置・バッテリーを一体化した内装材を用い、電波が建物外へ漏れるのを防いでいる。

東芝は5.5〜5.72GHz帯で、無線LANと共存するマイクロ波遠隔給電システムを開発した。送電電力は小さいが、無線LANと周波数を分け合いながらセンサをバッテリーレスで動かせる点に価値がある。製造現場を止めずにセンシングを続け、省人化とCO₂削減につなげる狙いだ。

3. 変換効率92.8%のレクテナ|受電側が決めるバッテリーレスの実力

マイクロ波給電の実力を決めるのは、送る側よりむしろ受ける側である。受電に使うレクテナは、アンテナと整流回路を一体化した素子で、届いたマイクロ波を直流電力に変換する。ここでの損失が大きければ、強く送っても使える電力は残らない。

金沢工業大学と信州大学の共同研究チームは、5.8GHz帯のレクテナで電力変換効率92.8%(1W入力時)を達成した。受けた電波のほとんどを電気として取り出せるところまで来たことを意味する。

ただし条件がある。1W入力という小電力域での値であり、電力が大きくなるほど整流素子の耐圧や発熱が効いてくる。逆に言えば、センサやタグのようなミリワット級からワット級の用途こそ、いま最も現実的な適用領域だ。マイクロ波給電がまず小電力から実用化されるのは、技術的な必然でもある。

4. 火山観測ドローンへの給電|電源を確保できない場所から実装は始まる

九州大学は京都大学、翔エンジニアリングと組み、ドローンからのマイクロ波送電で火山観測装置に給電するシステムを開発した。2.45GHz帯で送電距離3m、送電電力57.3W、受電電力12.2W。搭載重量10kg、飛行時間10分のドローンが飛来し、地上の観測装置を4か月駆動させる。桜島、雲仙岳、霧島硫黄山で実際に観測データを取得している。

この用途の本質は「太陽光パネルが噴火で壊れても、噴火時の貴重なデータを安全に回収できる」という点にある。人が入れない場所、電池を替えに行けない場所こそ、ワイヤレス給電の最初の市場だ。

課題も明確だ。2.4GHz帯は無線LANと混信してドローンが不安定になり、5GHz帯はETCとの干渉で許可が下りなかった。周波数割り当ては、いまも実装の制約である。

5. リチウム調達から見る優先順位|どこに材料を配分するか

ワイヤレス給電の評価軸に、蓄電池材料の需給を置くと見え方が変わる。

経済産業省の資料では、2030年に国内で年間150GWhの蓄電池を製造するにはリチウム10万トンが必要とされるが、確保量は3.5万トンにとどまる。コバルトはコンゴ民主共和国に産地が偏り、黒鉛は2023年に中国が輸出管理を開始した。

センサ用のコイン電池が使う材料は、この需給に対して微々たる量にすぎない。効いてくるのは量ではなく運用のほうだ。数千個のセンサを数年おきに交換すれば、人件費と設備停止と廃棄物が毎回発生する。限られた材料と人手は、EVや系統用蓄電池といった大きな電池に回したほうがいい。

つまり電池レス化の価値は「材料を節約する」ことより、「寿命を持つ部品を回路から外す」ことにある。ワイヤレス給電は、その外し方の一つだ。

残る関門は法制度だ。電波法施行規則は令和4年5月に改正されたが、対象は構内無線に限られている。公共空間での電力送電を本格展開するには、さらなる改正が要る。パナソニックも電波法と施行規則の改正を実用化課題に挙げている。

6. まとめ|「この電池は本当に必要か」を問い直す

ワイヤレス給電は、まだ大電力を長距離送る技術ではない。しかしミリワットから数十ワットの領域では、レクテナ効率92.8%という実績とともに、すでに実装が始まっている。

問うべきは「無線で送れるか」ではなく「この電池は本当に必要か」だ。センサの数を増やすほど交換の運用と廃棄が積み上がる。給電方式を見直すことは、電池戦略を見直すことでもある。

自社の設備に貼られたセンサの電池を、次の更新でいくつ外せるか。そこから逆算すると、ワイヤレス給電は遠い未来の技術ではなくなる。


本コラムは、これまでIBLCが蓄積してきた技術・市場に関する情報をもとに、IBLC専門家チームが独自の視点で整理・考察したものです。

▼【ワイヤレス給電・バッテリーレス化に関する調査】

IBLCでは、ワイヤレス給電とバッテリーレス化について、技術動向や市場性の調査から、参入・事業化に向けた戦略の検討まで、専門家チームが幅広くサポートします。

お問い合わせはこちら

ワイヤレス給電・バッテリーレス化について相談する

IBLC Insights 記事一覧はこちら

TOP

/

IBLC Insights

/

ワイヤレス給電とは?|変換効率92.8%が拓くバッテリーレスIoTの最新動向 #33