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CCUS(CO₂の回収・有効利用・貯留)は、2030年に世界で約2.7兆円規模へ拡大する成長市場だ。米国の税額控除の維持、欧州の貯留義務化、日本のCCS事業法施行と、政策が市場を動かし始めた。ただし回収率の低迷や採算性への批判も根強い。本記事ではCCUSの市場規模と各国動向の現在地を整理する。
目次
2050年のカーボンニュートラル(CN)に向け、再生可能エネルギーへのシフトが世界で加速している。しかし鉄鋼・セメント・化学といった重工業や、安定電源としての火力発電など、CO₂排出をゼロにしきれない領域(Hard-to-Abateセクター)は必ず残る。この「どうしても出てしまうCO₂」を回収・有効利用・貯留する技術がCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)である。
かつてCCUSは「コストばかりかかる環境対策」と見られてきた。だが各国の政策支援を背景に、いまや国家戦略と産業競争の対象へと位置づけが変わりつつある。ただし先に断っておくと、CCUSを単純に「脱炭素の切り札」と呼べるほど話は単純ではない。過大評価も過小評価も避け、現在地を冷静に見ることが重要だ
まず現状認識から始めたい。化石燃料由来の世界のCO₂排出量は、2025年に約381億トンと過去最高を更新する見込みで、依然として増加が続いている。国別では中国が全体の約3割で突出し、次いで米国が約13%、インド約8%、EU約7%と続く。日本も世界5位級の排出国だ。
パリ協定の1.5℃目標を達成するには、2019年比で2035年までに排出を55%削減する必要があるとされる。しかしUNEP(国連環境計画)は、現行政策の延長では今世紀末に約2.8℃の昇温に向かうと警告する。各国が掲げる削減目標を足し合わせても、目標との間には大きな「排出ギャップ」が残る。
このギャップを物理的に埋める手段の一つがCCUSだ。IEA(国際エネルギー機関)は2021年のネットゼロシナリオで、2050年に年約76億トンのCO₂回収(DACやBECCSを含む総量)が必要と試算した。ただし2025年時点の最新見通しでは、CCUSが担う役割は当時より大きく引き下げられている点も押さえておきたい。
CCUS市場を牽引してきたのは米国だ。CO₂の回収・貯留に対する税額控除「45Q」が、投資マネーを呼び込んできた。2022年のインフレ抑制法(IRA)で控除額が大幅に拡充され、回収・地中貯留で1トンあたり85ドル、大気中から直接CO₂を回収するDAC(Direct Air Capture)で最大180ドルへ引き上げられた。
注意したいのは、この控除の現行の根拠が、2025年7月に成立した「One Big Beautiful Bill Act(OBBBA)」に移ったことだ。トランプ政権下でクリーンエネルギー税制の多くが縮小されるなか、45Qは廃止どころか維持・一部増額された。さらに、これまで用途(貯留/利用/石油増進回収)ごとに分かれていた控除額が回収源だけの区分に一本化され、CO₂利用やEORも貯留と同額に引き上げられた。CCUSは、政権交代をまたいで生き残った数少ない脱炭素政策といえる。
動いているのは米国だけではない。EUは「Net Zero Industry Act」で、2030年までに域内で年5,000万トンのCO₂貯留能力を確保する目標を掲げ、2025年にはShellやTotalEnergiesなど大手石油・ガス44社に貯留能力の確保を割り当てた。ノルウェー沖の「Northern Lights」は2025年8月、第三者からCO₂を受け入れる世界初の商用輸送・貯留サービスとして稼働を開始。初期は年150万トン、増強で年500万トン超へ拡張する。
英国は2024年10月、CCUSに25年間で最大217億ポンドの支援を表明し、East Coast Cluster が同年12月に最終投資決定へ至った。日本も「GX推進戦略」の下、2024年に成立したCCS事業法が2026年5月に全面施行された。北海道・苫小牧市沖は2025年、同法に基づく全国初の「特定区域」に指定されている。日本は2030年までのCCS事業開始と、2050年に年1.2億〜2.4億トンの貯留を目標に掲げる。
市場規模はどうか。調査会社によって定義に幅はあるが、CCUSの世界市場は2025年時点で約58億〜90億ドル(約9,000億〜1.4兆円)、2030年には約177億ドル(約2.7兆円)規模へ、年平均20〜25%で拡大すると予測される。稼働中のプロジェクト数も、2025年に世界で77件と前年から5割以上増えた。回収したCO₂を資源として使う「CCU」も動き出しており、日本ではINPEXと大阪ガスが2026年、CO₂と水素から合成メタン(e-methane)を製造する実証で試運転を始めた。
一方で逆風も直視すべきだ。豪州の大型CCS「Gorgon」は目標の8割に対し実回収率が3割にとどまり、DAC最大手のClimeworksは2025年に人員削減へ踏み切った。米国最大級のDAC「STRATOS」も稼働が2026年に後ろ倒しとなった。回収率・コスト・採算性という現実の壁が残るからこそ、CCUSは「切り札」と一括りにせず、効く場所を見極めて使う技術として評価する視点が要る。
CCUSは、コスト先行の環境対策から、政策と市場が同時に動く成長産業へと変わりつつある。米国の税額控除、欧州の貯留義務化、日本のCCS事業法という制度が市場を後押しする。同時に、回収率の低迷やコスト高という課題も明確だ。CCUSを「万能の切り札」と過大評価するのでも、「コストばかりで無意味」と切り捨てるのでもなく、Hard-to-Abateセクターで確実に効く現実的な選択肢として位置づけたい。次に問われるのは、どの回収技術が標準となり、どの企業が競争力を握るかだ。
本コラムは、これまでIBLCが蓄積してきた技術・市場に関する情報をもとに、IBLC専門家チームが独自の視点で整理・考察したものです。
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