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カーボンニュートラルを追い風に、素材の原料を石油からバイオへ切り替える動きが加速している。100%植物由来のPET、2030年実用化を目指すバイオアジピン酸、廃食用油から生まれるバイオナフサ——2035年に向けた脱石油素材の主戦場が姿を現しつつある。本記事では、バイオプラスチックの最新技術と、実用化の律速となる原料確保の課題を読み解く。
目次
バイオプラスチックとは、植物などの再生可能資源を原料とするプラスチックを指す。石油由来素材の製造・焼却で排出されるCO2を削減できるため、カーボンニュートラルの実現手段として注目される。自動車・エレクトロニクス分野でも、部材の脱炭素化が調達要件になりつつある。
背景には規制と市場の両方の圧力がある。EUの循環経済行動計画は「取る・作る・使う・捨てる」の直線型経済からの脱却を掲げ、使用済み自動車指令(ELV)の新規則案では、新車製造プラスチックの少なくとも25%をリサイクル材とする方向が示された。素材メーカーにとって、バイオ由来・循環型への転換は選択ではなく前提になりつつある。
技術的には、生分解性を持つ素材と、既存プラスチックと同じ構造をバイオ原料で作る「ドロップイン型」の二つの流れがある。前者の代表がカネカの「Green Planet」(PHBH)で、植物油を原料に微生物発酵で作られ、海水や土壌で生分解する。後者は既存の設備・用途をそのまま使えるため、産業用途では主役になりつつある。
ドロップイン型バイオ素材の起点になっているのが「バイオナフサ」だ。ナフサは石油化学の出発原料で、これを植物由来に置き換えれば、下流のプラスチック全体をバイオ化できる。
その供給網の中心にいるのがフィンランドのNesteだ。同社は独自のNEXBTLプロセスで、廃食用油や残渣油といった非可食原料からバイオナフサを製造する。三井化学はこのバイオナフサ由来のバイオフェノールとバイオアセトンから、2022年にバイオマスBPAの生産を開始し、Covestroへの供給でも合意した。欧州を起点にバイオ原料が化学品サプライチェーンへ流れ込む構図ができつつある。この流通を支えるのが、物理的に分別せず認証で担保する「マスバランス方式」だ。帝人はISCC PLUS認証のもと、バイオマスポリカーボネート「パンライト」「マルチロン」を生産・販売している。
飲料ボトルや繊維に使われるPET(ポリエチレンテレフタレート)でも、100%バイオ化が現実味を帯びる。東レは米Virentと組み、PETの構成成分であるテレフタル酸を植物由来化する技術を開発し、原料の全量を植物由来とする100%バイオPETの実現に取り組む。スポーツウェアや自動車内装材への展開が視野に入る。
さらに一歩進んだ素材がPEF(ポリエチレンフラネート)だ。オランダのAvantiumと東洋紡が手がけるPEFは、100%バイオマス由来でありながら、酸素バリア性はバイオPETの約10倍、水蒸気バリア性は約2倍を誇る。原料となるHMF(5-ヒドロキシメチルフルフラール)は、世界市場が2022年の6,000万ドルから2029年に7,800万ドルへ成長すると見込まれ、周辺素材のエコシステムも育ちつつある。
日本発の技術も2035年の実用化を見据えて動く。東レは2022年、ナイロン66の原料となるアジピン酸を、植物の非可食成分の糖から微生物発酵で作る100%バイオアジピン酸を世界で初めて開発した。従来法で発生する強力な温室効果ガスN2Oが出ないのが特徴で、NEDOの助成のもと産総研・理化学研究所と組み、2030年近傍の実用化を目指す。
ポリプロピレン(PP)でも三井化学が、非可食植物からイソプロパノールを経てプロピレンを作る世界初のIPA法を開発し、環境省の実証を経て生産開始を目指す。子会社では既にマスバランス方式のバイオマスPPを商業生産している。旭化成は米Genomaticaと提携し、ナイロン原料のバイオHMDやカプロラクタムの植物由来化を進める。汎用樹脂から機能材料まで、国産のバイオ化技術が層を成しつつある。
バイオ素材の普及を左右する最大の課題が「原料の確保」だ。食料と競合しない非可食バイオマス——作物残さ、廃木材、廃食用油など——をいかに安定調達するかが実用化の律速になる。
東レはサトウキビの搾りかす(バガス)や作物残さの活用を進め、三井化学は廃食用油の集荷会社に出資して原料網を押さえにいった。Nesteの競争力の源泉も、世界に張り巡らせた廃油脂の調達ネットワークにある。技術が確立しても、原料を握れなければ量産に届かない。住友ベークライトが木質廃材のリグニンからフェノール樹脂を作る取り組みも、未利用資源の活用という同じ文脈にある。バイオ素材競争は、いまや「どの原料を、どれだけ安く集められるか」という上流の争奪戦へと移りつつある。
バイオナフサを起点とするドロップイン型のバイオ化、100%バイオPETやPEFといった新素材、そして2030年実用化を目指すバイオアジピン酸——脱石油素材の技術は、実証から量産へと重心を移しつつある。カーボンニュートラルとELVなどの循環経済規制が、この流れを後押しする。
ただし、勝敗を決めるのは技術力だけではない。マスバランス方式による市場受容と、非可食バイオマスの安定確保という二つの条件が揃って初めて、バイオ素材は本格普及に届く。2035年、自動車やエレクトロニクスを支える素材は、もはや石油から生まれるとは限らない。原料の上流を制した企業が、次の素材の主導権を握ることになる。
本コラムは、これまでIBLCが蓄積してきた技術・市場に関する情報をもとに、IBLC専門家チームが独自の視点で整理・考察したものです。
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