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日本の都市鉱山には金だけで約6,800トン、世界埋蔵量の16%に相当する資源が眠る。苔や微生物を使うバイオマイニングから米国防高等研究計画局の国家プロジェクトまで、レアメタル回収技術の最新動向を事業開発担当者向けに整理する。
目次
レアメタル回収技術とは、使用済み電子機器や産業廃棄物、鉱山廃水などに含まれる希少金属を選択的に取り出す技術の総称だ。日本は資源小国とされるが、都市に蓄積された金属資源、いわゆる「都市鉱山」の規模は世界有数の資源国に匹敵する。国内に眠る金は約6,800トンと世界の現有埋蔵量4万2,000トンの約16%、銀は6万トンと約22%に及ぶとされる。政府も2024年度からの3年間で300億円を投じ、電子ごみのリサイクル体制整備や金属再利用の民間設備投資を支援する方針を打ち出しており、都市鉱山の本格活用に向けた機運が高まっている。使用済みスマートフォンやパソコン、家電の基板といった電子廃棄物に加え、鉱山廃水や電子産業由来の廃液も、レアメタル回収の有望な対象として世界的に研究が進む分野だ。
従来の湿式回収では、溶媒抽出法やイオン交換樹脂法、酸による浸出など化学薬品を使う手法が主流だった。これに対し、生物の力を借りる「バイオ吸着」が新たな選択肢として注目されている。株式会社ジャパンモスファクトリーは、ヒョウタンゴケという苔の原糸体に金が11%も濃縮吸着するという研究結果をもとに製品化を進めている。都市鉱山の産業廃液から苔を使って金を回収するという発想は、化学薬品を大量に使わずに済む点で環境負荷の低減にもつながる。植物由来の素材が最先端の資源回収技術になっているというギャップも、この分野の面白さの一つだ。
微細藻類を使った回収技術も進んでいる。株式会社ガルデリアは、酸性の高温環境に生息する微細藻類「硫酸性温泉紅藻ガルディエリア」の表面が金やパラジウムといった有価金属を特異的に吸着する性質に着目し、貴金属吸着材の開発に取り組んでいる。この藻類は光合成の過程でCO₂を吸収できるため、金属リサイクルの推進と同時に、金鉱山の環境負荷軽減や工場排ガスを活用したCO₂固定化にもつながる点が特徴だ。レアメタル回収と脱炭素を同時に狙えるアプローチとして、今後の技術開発の方向性を示す事例といえる。バイオ吸着とは別のアプローチとして、大阪公立大学の野村俊之教授らは、微細な気泡(マイクロバブル)を使って界面に付着した微生物や不純物を化学薬品なしで洗浄する技術を研究している。細菌や真菌類、動植物細胞までを「バイオ粒子」として捉える微粒子工学の視点から、資源循環と環境浄化の両立を目指す取り組みだ。
レアメタル回収を巡っては、経済安全保障の観点からも国家レベルの投資が進んでいる。米国防高等研究計画局(DARPA)は「バイオエンジニアリングリソースとしての環境微生物(EMBER)」プログラムを通じ、微生物工学・生体分子工学を使ってレアアース元素をスケーラブルに分離・精製する技術の開発を進めている。従来のバイオマイニング(微生物による金属抽出)は金や銅の回収には有効だが、レアアースに対する微生物の特異性・選択性は低く、実用化にはさらなる技術開発が必要とされてきた。EMBERプログラムは4年間・3フェーズの計画で、微生物や生体分子を操作するプラットフォーム構築から、実際の原料からレアアースを精製するワークフロー開発までを段階的に進めている。レアアースの供給網を巡る国際的な緊張が続くなか、バイオテクノロジーが資源安全保障の切り札として位置づけられつつある。
レアメタル回収の経済性を考えるうえで象徴的なのが、石炭灰に関する試算だ。テキサス大学の試算によれば、米国の火力発電所から発生する石炭灰には合計1,100万トン、84億ドル相当のレアアースが含有されているとされる。これは、石炭の元となった樹木が長い年月をかけて金属成分を蓄積した結果と考えられており、バイオマスのガス化で発生する焼却灰にも同様の可能性があるとの見方もある。ただし、石炭灰からの抽出から精製に至るプロセスは非常に複雑で、いまだ実用化には至っていない。レアアースの鉱床は世界中に分布するものの、経済的に採掘が成立するほど高濃度の鉱床は少なく、石炭灰中の濃度も経済性が成立する水準には届きにくいという指摘がある。
苔や藻類によるバイオ吸着、DARPAが主導する国家プロジェクト、そして石炭灰という副産物まで、レアメタル回収技術は多様なアプローチで進化している。共通する課題は経済性だ。技術的には回収可能でも、コストが対象金属の価値を上回れば事業化は難しい。今後は、都市鉱山という日本の強みを生かしながら、対象金属の濃度と回収コストを見極めた技術選定と、研究機関・スタートアップとの協業戦略が重要になる。
本コラムは、これまでIBLCが蓄積してきた技術・市場に関する情報をもとに、IBLC専門家チームが独自の視点で整理・考察したものです。
▼【レアメタル回収・バイオマイニングに関する調査】
IBLCでは、苔や微細藻類など生物を活用したバイオ吸着技術の評価、海外の国家プロジェクトを含むレアメタル回収技術の動向調査、都市鉱山リサイクル分野における協業先の選定を専門家チームがサポートします。
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