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2026/6/25

次世代パワー半導体とは|SiC・GaN・酸化ガリウム(Ga₂O₃)の違いと市場規模を比較 #028

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次世代パワー半導体市場は2035年に2兆5,000億円超へ拡大する。主役はSiC・GaN・酸化ガリウム(Ga₂O₃)の三素材だ。本記事では、三つの違いと市場規模、用途別の選択指針をEV・サーバー電源・電力インフラの動向から読み解く。製造業の技術戦略担当が今押さえるべき主戦場を整理する。

目次

1. 次世代パワー半導体とは|なぜシリコンでは足りないのか

パワー半導体は電力の変換・制御を担う「電気の関所」だ。EV・データセンター・再エネが拡大するほど、変換ロスの削減が効いてくる。

従来のシリコン(Si)は製造コストが低く信頼性も高いが、物性上の限界がある。高温動作が難しく、高耐圧化するとデバイスが大型化し、スイッチング速度にも上限がある。EV・5G・再エネでは、より高温・高耐圧・高速で動くワイドギャップ半導体が必要になった。これが次世代品への移行の理由だ。

富士経済の2026年予測では、パワー半導体の世界市場は2035年に7兆3,495億円に達し、うち次世代パワー半導体が2兆5,077億円を占める。今後10年で次世代品が市場の主役へ押し上がる。

2. SiC(炭化ケイ素)|EV駆動インバーターの本命と短期の逆風

SiCはシリコンに比べてバンドギャップが約3倍、絶縁破壊電界が約10倍、熱伝導率が約3倍。高耐圧・高温動作・低損失を同時に実現でき、車載インバーターや産業用電源など大電力・高耐久の用途に最適だ。EVでは航続距離延長やバッテリー小型化に効き、長期ではEV駆動インバーターの本命だ。

ただし足元は逆風だ。EV需要の頭打ちとハイブリッド車人気の回復で「EVがSiCを牽引する」拡大シナリオが崩れ、市場は供給過剰と価格競争に陥った。ロームは2025年3月期に12年ぶりの最終赤字を計上し、SiC売上目標を後ろ倒して設備投資も見直した。SiC基板で世界最大手のWolfspeedも2025年6月に米連邦破産法第11章(チャプター11)を申請し、9月に負債を約7割圧縮して再建を完了している。

この逆風下で躍進しているのが中国メーカーだ。2024年のSiC販売額では上位10社に中国勢が3社入り、なかでもEV世界最大手BYD(比亜迪)の半導体子会社がロームを抜いてトップ10入りした。巨大な自社EV需要を背景にした垂直統合とコスト競争力を武器に、米国の装置輸出規制の対象外で官民を挙げて増産を進める。日本勢が戦略の練り直しを迫られる一方で中国勢が一気にシェアを伸ばし、SiCの主導権争いは国家戦略の様相を帯びつつある。

それでも長期の見通しは崩れていない。富士経済はSiCパワーモジュールの世界市場が2025年の3,506億円から2035年に1兆8,749億円へと5.3倍に拡大すると予測する。2026年以降は再成長に転じ、2035年にはEV販売の約70%にSiC製トラクションインバーターが搭載される見込みだ。短期の調整と長期トレンドの切り分けが要る。

技術課題はウエハーの大口径化

SiCウエハーは転位欠陥が発生しやすく、歩留まりと信頼性の確保が難しい。プロセスが複雑で製造コストも高い。ウエハー径の大口径化(6インチ→8インチ)がコスト削減の鍵とされ、各社が量産技術を競う。

3. GaN(窒化ガリウム)|サーバー電源と小型化で先行

GaNはシリコンの約3倍のバンドギャップと高い電子移動度を持ち、高周波・高速スイッチングに優れる。性能指数(バリガ性能指数)はSiCを上回り、低〜中耐圧域では低オン抵抗を実現でき小型・軽量化に向く。ACアダプター・サーバー電源・5G基地局用RFアンプで実用化が先行する。

GaNパワー半導体の世界市場は2025年の585億円から2035年に3,169億円へと5.4倍に拡大する見通しだ。生成AIの普及でデータセンターのサーバー電源需要が急増し、シリコンからの置き換えが進む。今後はオンボードチャージャーやLiDARへと用途が広がる。

Si基板の制約とGaN-on-GaNへの道

Si基板上のGaN(GaN-on-Si)が現在の主流だが、格子定数の不一致による欠陥が課題だ。縦型デバイスの作製が難しく横型が中心のため、高耐圧化に制約がある。将来的にはGaN基板を使ったGaN-on-GaNへの移行で性能が大きく向上する可能性があり、研究が進む。

4. Ga₂O₃(酸化ガリウム)|超高耐圧を狙う日本発の長期ポテンシャル素材

Ga₂O₃はバンドギャップが約4.9eVとSiCやGaNを上回り、超高耐圧デバイスへの応用が期待される。基板材料は溶融法で育成でき、低コストで大面積化が可能な点でも注目される。日本企業FLOSFIAが2025年12月に4インチGa₂O₃ウエハーの量産技術を実証するなど、国内勢が先行する。

市場は2025年時点ではごくわずかだが、2035年には149億円規模へ成長すると予測される。p型半導体が作りにくい物性上の課題があり、実用化にはさらなる研究が必要だ。富士経済は2027年頃から民生機器・電源サーバー向けにSBD(ショットキーバリアダイオード)の量産が本格化し、2030年以降に太陽光・産業分野でFETの量産が始まるとみる。長期ポテンシャルは高く、超高耐圧の電力インフラ用途が期待される。

5. 三素材の選択指針|用途で決まる「住み分け」

三素材は得意とする電圧・電流・周波数レンジが異なり、住み分けが進む。用途別に整理すると次のとおりだ。

素材

得意領域

主な用途

2035年市場予測

SiC

大電力・高温・高耐圧

EV駆動インバーター、鉄道、産業電源、ESS

1兆8,749億円(SiCモジュール)

GaN

高周波・小型化・低損失

サーバー電源、ACアダプター、5G、車載補機

3,169億円

Ga₂O₃

超高耐圧・将来の大電力

電源SBD、太陽光・産業(量産はこれから)

149億円

大電力・高温・高耐圧ではSiC、高周波・小型化・低損失ではGaN、超高耐圧・将来の超大電力用途ではGa₂O₃が候補となる。SiCとGaNは「対立」ではなく電圧・周波数帯による「分業」だ。足元ではEV調整でSiCが踊り場にある一方、GaNはAIサーバー電源で需要が立ち上がるなど、モメンタムは素材ごとに位相がずれている。

6. まとめ|素材選択が競争優位を左右する時代へ

次世代パワー半導体はSiC・GaN・Ga₂O₃が並立し、用途・性能要件・コストで使い分けられる。SiCはEV調整で短期の踊り場にあるが長期では産業インフラとEVの主役、GaNは生成AI時代のサーバー電源で普及が加速、Ga₂O₃は日本発の長期ポテンシャル素材だ。加えて中国勢の台頭が競争構図を塗り替えつつある。

自社が乗るべき波を見極める判断軸は三つ。「耐圧帯」(高耐圧・大電流ならSiC、中低耐圧・高周波ならGaN)、「採用タイミング」(SiCは再成長期、GaNは立ち上がり期、Ga₂O₃は仕込み期)、「調達リスク」(メーカー再編や供給網の安定度)。短期の市況と長期トレンドを切り分けた選択が競争優位を左右する。


本コラムは、これまでIBLCが蓄積してきた技術・市場に関する情報をもとに、IBLC専門家チームが独自の視点で整理・考察したものです。

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