IBLC Insights

有望技術紹介

2025/7/1

113 深紫外LED殺菌モジュール

有望技術紹介

情報通信研究機構(NICT):
多人数が集まる密閉空間である鉄道はウイルスが蔓延しやすい場所でその不活性化が不可欠である。情報通信研究機構は旭化成株式会社と共同で、深紫外線LEDを利用した鉄道車両用殺菌モジュールを開発した。使用した電力は水銀ランプに比べ40.7%削減でき、環境負荷の低減にも貢献する技術である。

【本技術の概要】

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)未来ICT研究所の井上振一郎室長らの研究グループは、旭化成株式会社と共同で、発光波長265 nm帯の高強度深紫外LEDを搭載した鉄道車両用空気殺菌モジュールを開発した。静岡鉄道株式会社の鉄道車両内へ搭載し、1か月間の試運転を行い安全・安定な動作が確認された。

 今回開発した深紫外LED空気殺菌モジュールは、従来の水銀ランプと比較し、空気中に浮遊するウイルスを不活性化する電力が大幅に削減(40.7%)された。本成果は、高強度深紫外LED技術により、鉄道車両内の省電力な空気殺菌を実現したもので、空気中を浮遊するウイルスを介したエアロゾル感染の脅威から乗客の健康と安全を守り、水銀廃絶による環境汚染防止、省電力化によるCO2削減に貢献する技術として期待される。

 なお、本成果の一部は、環境省主管(総務省連携)委託事業「革新的な省CO2 型環境衛生技術等の実用化加速のための実証事業」の一環として得られた。

図1 今回開発した高強度深紫外LED空気殺菌モジュールを搭載した静岡鉄道車両
引用元:https://www.nict.go.jp/press/2025/02/12-1.html

【背景】
 NICTの研究グループは、ナノ光構造技術を基盤としたAIGaN系深紫外LEDにより、単位チップ当たり世界最高出力を達成してきた。なかでも、東京大学医科学研究所と共同で、発光波長265 nm帯の深紫外LEDが、エアロゾル中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して、極めて高い不活性化効果を有することを世界で初めて定量的に明らかにした。(2022/3/18 https://www.nict.go.jp/press/2022/03/18-1.html

 特に、鉄道車両のような多数の人々が密閉された空間で長時間を過ごす環境では、エアロゾル感染のリスクを低減することが課題であった。従来、光源として水銀ランプが使用されてきたが、人体や環境に有害な水銀を含むため早期廃絶が求めれられていた。また、水銀ランプは、割れやすく、光源のサイズや駆動電源が大型になるなど、鉄道車両などの用途には適していなかった。一方、深紫外LEDは、小型・低環境負荷・長寿命などの優れた特性をもつが、水銀ランプに比べると光出力は小かった。今回、これらの課題を解決するため、水銀ランプに匹敵する高強度深紫外LED技術を有するNICTと、深紫外LEDの量産やアプリケーション開発で実績をもつ旭化成が共同で、鉄道車両用の低環境負荷・省電力な高強度深紫外LED空気殺菌モジュールの開発を行った。

【今回の成果】
 今回開発した高強度深紫外LED空気殺菌モジュールは、小型・軽量の特長を活かし、車両連結部の上部(かもい)内部に搭載され、車両内のウイルスを含む空気を吸入し、モジュール内で深紫外光照射により不活性化後、清浄な空気を排出した(図2)。本モジュールは、殺菌効率の最も高い発光ピーク波長265nm帯の高強度深紫外LEDチップをマルチチップ実装し、流入する空気の方向と対向するように配置し、空気中のウイルスと深紫外光の相互作用を高めた(図3)。水銀ランプと比較して、指向性の高いLEDの特性を活かし、流入するウイルスを効率的に不活性化する構造とした。本モジュールの効果を検証するため、空気中を浮遊するウイルスに対する不活性化性能を評価した。

25㎥の空間中に試験用ウイルス(大腸菌ファージMS2)を、ネブライザー(エアロゾル発生器)を用いて噴霧し、モジュールの消費電力量及び稼働時間に対するウイルス不活性化量をプラーク法により測定した。また、比較として低圧水銀ランプを使用した参照用モジュールを製作し、同様の実験を行った。ウイルス不活性化に必要な消費電力量を評価した結果、高強度深紫外LED空気殺菌モジュールは水銀ランプを用いたモジュールに比べ、99.9%のウイルス不活性化に要する消費電力量を40.7%削減できることが確認された(図5)。

 本モジュールは、実際に旅客運転を行っている静岡鉄道株式会社の鉄道車両へ搭載し、1か月間の試験運転を通じて、安全かつ安定した動作を確認した。
 また、500mW出力の深紫外LEDを複数個搭載した同型の別モジュールを使用し、35分の稼働で90%、71分の稼働で99%、106分の稼働で99.9%のウイルスが不活性化されることが確認された(図6及び表1)。一方、水銀ランプを用いたモジュールでは、99.9%の不活性化に188分を要した。これにより、今回開発した高強度深紫外LEDモジュールが、水銀ランプに比べて、不活性化に要する時間を43.6%短縮できることが明らかになった。

 今回の成果は、高強度深紫外LED技術を活用し、鉄道車両内での省電力な空気殺菌を実現したものである。本技術は、空気中のウイルスを介したエアロゾル感染のリスクを低減し、国民の健康と安全を守るとともに、水銀廃絶による環境汚染防止や、省電力化によるCO2削減にも寄与することが期待される。

【今後の展望】
 今後、NICT及び旭化成は、今回実証した高強度深紫外LED空気殺菌モジュールの社会実装に向けて、関連企業との連携を含めた取組を推進する。特に、公共交通機関や医療施設など、空気感染リスクの高い環境への採用、社会普及を目指す。これにより、安全性・快適性を備えた持続可能な社会の実現に貢献していく。


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