有機薄膜太陽電池用素材の製造コスト低減と高純度化を達成する重縮合反応の開発
有機電子デバイスの素材として有用なπ共役系高分子の合成法を一新し、製造コストの削減と生成する高分子の高純度化を目指しています。
具体的には、これまでπ共役系高分子の合成に必須であった(1)有機金属反応剤、(2)有機リン化合物、(3)長時間の加熱を必要としない手法を開発します。開発した手法を応用して有機薄膜太陽電池などの素材となる高分子を合成し、純度の高さに由来する高い特性を有する素材を低コスで製造する手法の開発へと発展させる計画です。
研究機関・所属 | 筑波大学大学院 数理物質科学研究科 物性分子工学専攻 学際物質科学研究センター 機能性高分子コア |
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氏名・職名 | 桑原 純平 助教 |
研究テーマ名 | 有機薄膜太陽電池用素材の製造コスト低減と高純度化を達成する重縮合反応の開発 |
応用想定分野 | 有機電子デバイス全般、有機薄膜太陽電池、有機EL、導電性素材 |
技術紹介
有機薄膜太陽電池をはじめとする有機電子デバイスは、軽量、フレキシブル、作成コストが低いなどの特長を有するため、さらなる実用化が望まれています。そのためには、素材となるπ共役系高分子を高い純度で安価に提供することが必須であります。
これを達成するために提案者は、原料の合成過程や分離精製も含めた製造法全体を考慮に入れてπ共役系高分子の合成法を見直し、簡便に高純度化を可能にする方法の開発を行っています。
従来のπ共役系高分子の合成方法では有機金属反応剤や有機リン化合物の添加が必要であり、これらは反応終了後には高分子からの除去が困難な副生成物となります。本研究では、これらを必要とせずに短時間で効率的に進行する反応を見出すことで、反応剤や添加剤にかかるコストや合成工程の削減と、副生成物の低減を達成します。副生成物の低減によって高分子の精製を容易にし、高い純度の素材を低コストで得る方法の開発に目処をつけました。
技術の特徴
- (1)
- 有機電子デバイスの素材として有用なπ共役高分子の合成において、従来は必須であった有機金属反応剤や有機リン化合物を使用せずに、短時間で効率的に目的の高分子が得られる。また、反応剤や添加剤にかかるコストの削減が可能となる。
- (2)
- 有機金属反応剤や有機リン化合物を使用しないため、有毒かつ分離困難な副生成物が生成しない。
- (3)
- 副生成物の低減によって高分子の精製を容易にし、高い純度の素材が低コストで得られる。
- (4)
- この独自の方法論で得られる高純度のπ共役高分子は、有機電子デバイスの素材として活用でき、不純物が低減されたことによる特性の向上が期待できる。
従来技術との比較
従来のクロスカップリングを用いた重縮合反応に比べて、π共役高分子の合成と精製に必要なコストを約3分の1程度に削減できる上に、副生成物の低減によって環境負荷低減という社会要請にも応えられる。また素材の高純度化によって、太陽電池の素材合成に応用した場合には、光電変換効率及び耐用年数が向上することが期待できるため、有機薄膜太陽電池の普及に貢献できる。
特許出願状況
出願済及び出願準備 3件
研究者からのメッセージ
π共役高分子の効率的な合成方法を開発し、有機電子デバイス全般の素材合成へと展開することを目指しています。太陽電池のみならず、多様な用途開発を目指した連携ができればと考えております。
参考:
- 筑波大学 学際物質科学研究センター 集積物性分野 機能性高分子コア
- http://www.ims.tsukuba.ac.jp/~kanbara_lab/index.htm
発表論文:
- 1.
- Polycondensation of Dibromofluorene Analogues with Tetrafluorobenzene via Direct Arylation, W. Lu, J. Kuwabara, T. Kanbara Macromolecules 2011,44, 1252-1255.
- 2.
- Synthesis of Thiophene- and Bithiophene-Based Alternating Copolymers via Pd-Catalyzed Direct C-H Arylation, Y. Fujinami, J. Kuwabara, W. Lu, H. Hayashi, T. Kanbara, ACS Macro Lett. 2012, 1, 67-70.