強誘電体MEMSによる高効率振動発電素子の開発
振動エネルギーを利用して発電を行う"振動発電"が注目を集めています。期待できる発電量は最高でも1mWレベルですが、室内や機器の内部で得られるエネルギー源としては振動エネルギーが最も大きいことから、ワイヤレスセンサなど消費電力が小さい電子デバイスに対する電力供給源として活用できると考えられます。
研究機関・所属 | 大阪府立大学大学院 工学研究科 電子物理工学分野 |
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氏名・職名 | 吉村 武 准教授 |
研究テーマ名 | 強誘電体MEMSによる高効率振動発電素子の開発 |
応用想定分野 | 振動環境におけるリモートセンシングデバイス電源 例えば、自動車の加速度・ヨー・空気圧計測、ABS用等、および生産ラインの各種ワイヤレス充電機能付きセンサ |
技術紹介
振動発電の研究はまだ基礎段階にあり、どの方式が振動発電に最も適しているかはまだ明らかになっていません。しかし電磁誘導では、複雑な素子構造となるため微小電気機械システム(MEMS)技術と適合性が良くなく小型化が難しくなります。また、出力電圧が低いという課題もあります。静電誘導では、誘電体膜中に電荷を打ち込んだエレクトレットを用いることにより安定な電力の取り出しに成功していますが、静電誘導の低いエネルギー密度から考えて、この方式では原理的に高い効率を得ることができません。本研究では、振動エネルギーから電気エネルギーヘの直接変換が可能で単純な素子構造にできる圧電方式に着目しました。なぜなら、電磁誘導、静電誘導、圧電を用いたMEMSデバイスに投入できるエネルギー密度を比較すると圧電方式が最も大きく、高効率化の目指す上で有利であるためです。
表1 振動発電の方式比較
技術の特徴
発電効率の大幅な向上に向け、図1の研究構想図にも示しているように、以下の3つの課題に重点を置いて研究を進めていきます。
- (1)
- 比誘電率が低く、自発分極が大きいという振動発電応用に適した特性を有する非鉛強誘電体薄膜に着目し、ドメインエンジニアリングという手法を用いてその圧電特性の向上を図ります。
- (2)
- 小さな振動でも大きな歪が誘起できるように、MEMS技術によって加工した微細片持ち梁に非鉛強誘電体薄膜を搭載する技術を開発します。
- (3)
- 大きな歪の印加によって相転移が誘起されるような結晶構造を有する非鉛強誘体薄膜を開発し、圧電特性のさらなる向上を図ります。
図1 研究構想図
現在研究中の素子としては、小さな比誘電率を持つ一方で100μC/cm²以上の大きな自発分極を持ち、大きな有効横圧電応力定数の発現が期待できる非鉛強誘電体BiFe03に着目しています。BiFe03は、2004年に非常に大きな自発分極を持つことが発見され、それ以降非常に多くの研究が行われるようになった物質ですが、正圧電特性については報告例がありません。
上記した構想図に沿って、大きな正圧電特性を有するBiFe03エピタキシャル薄膜の作製と、それを搭載したMEMS素子の開発に注力していきます。
特許出願状況
本方式の特徴を規定できる出願の検討を行っています。
研究者からのメッセージ
現在、日本では小型電子機器用の電源として年間約20億個の小型の一次電池が使用されていますが、その数を振動発電素子による置き換えで減らすことによって、省資源化に貢献できます。
また、振動発電の実用化によりセンサや電子機器のワイヤレス化も促進されると予想されます。これは輸送機器や産業機械などにおける大規模ワイヤレスセンサーネットワーク、埋め込み型医療機蓄等の新しい技術の創出につながり、安全安心な社会の構築や国際競争力強化にも貢献できると考えています。
参考:
発表論文:
- 1.
- S.Roundy and P.K.Wright, Smart Mater. Struct. 13 (2004)1131
- 2.
- S.R. Anton and H.A. Sodano,Smart Mater. Struct. 16 (2007)Rl
- 3.
- S. Priya J Electroceram (2007)19:165-182
- 4.
- M.Renaud K. Karakaya,T.Sterken,P.Fiorini,C.Van Hoof and R. Puers., Sens. Actuators A145(2008)380