専門家コラム

【045】 自動運転の動向

神藤 富雄

 2021年3月5日、ホンダは新型レジェンドに世界初の自動運転レベル3のトラフィックジャムパイロットを搭載し、市場投入しました。これは、自動運転のレベルを従来のドライバーによる監視からシステムによる監視へと考え方を大きく進めた最初の市販車であり、これにより世界各国の自動車メーカーの自動運転の技術開発競争は新たなフェーズに入ると思われます。果たして、自動運転は将来どのようになるのでしょうか。

1.自動運転の種類
 自動運転はドライバーと車が担う運転動作の比率や、走行可能エリアや条件の限定度合いなどによって、レベル0からレベル5の6段階のレベルに分類されています。レベル0が自動化なし、レベル1が運転支援、レベル2が部分的自動運転、レベル3が条件付き自動運転、レベル4が高度な自動運転、そしてレベル5が完全自動運転と表現することができますが、レベル0〜2とレベル3以上では、その内容が大きく異なります。レベル0〜2では運転の主体が人で、自動運転の技術はあくまで運転の補助や支援にとどまります。しかし、レベル3になると運転の主体がシステムに変わり、実質的な「自動運転」になるわけです。

2.自動運転の状況
<レベル3>
 日本に限らず、世界の国々では法律によって交通ルールが規定されていますが、「車両の運転は人間が行う」といった記載がほとんどの法律でなされており、システムが運転を制御する自動運転は「運転」と認められず、違法となってしまうため法律を改正しなければ、レベル3以上の自動運転車は公道を走行できません。
 実際、2017年に世界に先駆けて「Audi AIトラフィックジャムパイロット」という自動運転システムを搭載した量産車を発表したドイツのアウディですが、各国の法整備が追いついていないという事情からレベルを2に落として販売を行いました。しかし、今回日本政府は道路交通法と道路運送車両法を迅速に改正し、自動運転に関する記載を追加することで、レベル3の自動運転での公道走行が可能となりました。
 自動運転レベル3のホンダレジェンドは、100台限定、車両価格1,100万円で極めて高価な希少車種であり、トラフィックジャムパイロットは高速道路の渋滞時にのみ適用されるものです。一見実用性に乏しい印象もありますが、レジェンドには自動運転レベル2のウィンカーに連動する追い越し機能付きアダプティブクルーズコントロールやレーンキープアシストなども付いていて、高速道路のいろいろな場面で使え、実用性はあると思います。価格についても現時点では高価ですが、適用車種の拡大等で大幅に下げることも可能であると思われます。今後、レベル3の自動運転技術が自動車の標準技術になるかどうかは、市場が受け入れるかどうかにかかっているわけですが、そのためには各メーカーのより安価で安全、かつ魅力的なシステム開発と各国政府の迅速な法規やインフラ整備が必須で、今その努力がなされていると思います。今回のホンダレジェンド発売を受け、各国・各メーカーが今後どのように反応していくか、注目されます。
<レベル4>
 自動運転レベル4は、一般の人が運転する乗用車でも研究開発は行われていますが、主に限定した地域での無人の輸送サービス、配送サービスの技術として世界各国で盛んに実証試験が行われています。車両も自動運転タクシー、バス、配送車などの事業用車両で、一般の乗用車とは異なり、運行に携わる者が限定されますので、車両やシステムの維持・運用管理は行いやすくなります。既に、公道でのテストも始まっています。
 米ウェイモは2018年に自動運転タクシーの商用サービスを開始しましたが、セーフティードライバーが同乗する形での運行でした。しかしその後の2019〜2020年にかけて、セーフティドライバーなしの自動運転タクシーサービスの提供を一般向けにスタートしました。
 中国ではスタートアップのWeRideやPony.ai、AutoXをはじめ、百度(バイドゥ)、Didi Chuxing(滴滴出行)らが自動運転タクシーの実証を進めており、2020年11月、AutoXが中国・深圳においてセーフティドライバーなしの自動運転タクシーを公道で走らせ始めました。
 日本国内はアメリカや中国と比べると、まだ自動運転タクシーが常時街中を走行するような取り組みは行われていませんが、2020年11月にティアフォーやMobility Technologiesなど5社が西新宿で自動運転タクシーの実証実験を実施し、一部ルートでセーフティドライバーなしでの走行を成功させています。
 また、レベル4でもレベル3と同様、道路交通法等の改正が必要であり、ドイツ、日本などではレベル4に向けた具体的な取り組みが進んでいます。米国、中国、欧州各国も自動運転車両が公道を走るための法整備を積極的に進めています。自動運転は自動車産業の構造を大きく変える可能性を秘めていて、各国は自国の基幹産業育成を見据えており、この分野のリーダーシップ争いは、今後熾烈を極めていくものと思われます。
 実証実験が行われている自動運転レベル4プロジェクトのいくつかは成功するでしょう。成功するためには安全の確保が最重要課題ですが、輸送・運搬サービス事業であれば精度の良い危険察知さえできれば鉄道やフェリーなどの公共輸送サービスと同様、危険が去るまでサービス停止で対応可能です。自動運転レベル4の技術が社会に定着するかどうかはサービス停止の頻度を利用者が許容できる程度まで下げることができるかにかかってくるのではないでしょうか。
<レベル5>
 日本の官民ITS構想・ロードマップ2020ではレベル5については、具体的な実現目標は明記されていません。また、海外では、欧州連合(EU)の欧州委員会が「2030年代にレベル5となる完全自動運転が標準となる社会を目指す」と掲げている以外、レベル5の実現に言及したロードマップそのものがほとんど存在しないのが現状です。
 走行エリアや道路、速度、天候条件、時間帯など、条件を選ばずにいつでもどこでも走行することを可能にする完全自動運転は、現在考えられる技術では実現困難であり、何らかのブレークスルー技術が必要になると思われます。現時点では自動運転技術の目指す方向として捉え、努力目標にとどめておくことで差し支えないのではないでしょうか。

3.国内の法規、保険などの状況
 2020年4月に改正された道路交通法によると自動運行装置を使用した運転も従来の運転に含めることとされています。また、作動状態記録装置が不備な状態での運転を禁止するとともに、データの保存も義務付けています。さらに、自動運転時のドライバーには、同法第71条第五号の五に定める携帯電話用装置やカーナビなどの画像表示用装置の利用を制限する条項を適用しないこととなっており、自動運転システムが正常に作動している限り、ドライバーはスマートフォンの使用やカーナビなどの操作を行うことが可能となったと解釈されます。このほか、自動運転システムが作動する条件から外れた際は自動運行装置を使用した運転が禁止され、ドライバーは迅速に運転操作を引き継がなければならないことも定められていますので、ドライバーの飲酒や居眠りは違反となります。
 国交省の自動運転における損害賠償責任に関する研究会の報告書(概要)によると、2020年から2025年までは自動運転過渡期と捉え、「レベル0〜4までの自動車が混在する当面の「過渡期」においては、(i)自動運転においても自動車の所有者、自動車運送事業者等に運行支配及び運行利益を認めることができ、運行供用に係る責任は変わらないこと、(ii)迅速な被害者救済のため、運行供用者に責任を負担させる現在の制度の有効性は高いこと等の理由から、従来の運行供用者責任を維持しつつ、保険会社等による自動車メーカー等に対する求償権行使の実効性確保のための仕組みを検討することが適当である。」となっており、保険は当面従来と同等の扱いとなっています。2025年に自動運転レベル3、4の事故時の責任に関する考え方が新たに出てくるようなので、それに注目したいと思います。

4.自動運転の将来
 これまでは、現状を記してまいりました。「自動運転の将来」については、個人的な意見を記していこうと思います。
 自動運転の流れとしては、<レベル4>の項で示したように、大きく二つあります。一つは、一般の乗用車向けです。目的は、事故低減、運転負荷の軽減、移動時間の運転以外での活用、新機能活用の喜び等所有者により、その効用は様々です。ただし、どの所有者も安くない買い物をするわけですので、乗用車のある生活がない生活に比べて価値があると思ってもらえなければ売れません。その際、自動運転レベルの高いものが付いているからといって買う人が、果たしてどれくらいの数いるでしょうか。自動車のある生活の効用に比べ、その自動車に高度な自動運転機能が付いていることの効用はそれほど大きいものではないと思います。従って、乗用車向けの自動運転については、レベル4、5の高度化を目指すのではなく、この機能は確かに便利と思えるようなシステムを開発する方向に注力する方が良いのではないでしょうか。高速道路渋滞時の停止・発進の繰り返す退屈な作業からドライバーを解放してくれるので、レジェンドのトラフィックジャムパイロットは便利であると思う人も数多くいるのではないかと思います。
 もう一つは輸送事業、配送事業向けのものです。この目的はドライバー人員の削減、事故低減等です。これは効用が明確であり、自動運転レベル4の実用化に向けて突き進んでいくものと思います。

5.まとめ
 自動運転レベル3のホンダレジェンドが市場投入されたことを契機に、自動運転を取りまく情勢を正しくお伝えすることと自動車業界に身を置いた経験から個人的な意見として将来を概観することを目的に、本コラムを執筆しました。自動運転は産業構造転換の可能性を秘めており、従来の自動車メーカー間の競争の枠を超え、今やセンサー/IT/AI/通信産業や法規・許認可を司る国も交えた競争領域となっています。状況はホットですが、ここは冷静に状況を見極め、将来に備えることが肝要かと思います。

2021年5月10日
著 者:神藤 富雄 (じんどう とみお)
出身企業:日産自動車株式会社
略歴:車両研究所において、EV用モータ制御、駆動力配分制御、インテリア、HMIの研究およびLKA・ACCの表示・操作系の研究開発に従事。

【参考資料】
1) 桃田健史:2025年「自動運転レベル4」に立ちはだかる壁, 東洋経済オンライン(2021)
2) 国交省:自動運転をめぐる国内・国際動向, 令和元年度第2回車両安全対策検討会資料(2019)
3) 内閣官房IT総合戦略室:自動運転・MaaSを巡る最近の動向(2020)
4) 森口将之:ホンダ「レジェンド」の自動運転レベル3は何が画期的なのか, マイナビニュース(2021)
5) 国交省:自動運転における損害賠償責任に関する研究会 報告書(概要)(2019)
6) Digital Shift Times:自動運転の世界における開発状況とは?自動車メーカーごとに解説(2020)

*コラムの内容は専門家個人の意見であり、IBLCとしての見解ではありません

関連記事

TOP