京都大学等の研究チームは、ペロブスカイト構造のフェリ磁性酸化物が磁場と圧力で、相転移を生じ、その際に温度を下げる熱量効果を示すことを発見した。
【本技術の概要】
京都大学化学研究所の元素科学国際研究センターの島川研究室は、日本原子力研究開発機構、高輝度光科学研究センター(Spring-8)、産業技術総合研究所、マックスプランク固体研究所との共同研究により、電荷転移を示すペロブスカイト構造フェリ磁性酸化物(BiCu3Cr4O12)が磁場および圧力を加えた際に大きな熱量効果(マルチ熱量効果)を示し、高効率な熱制御を実現する新たな固体熱制御材料となることを実証した。
高効率に熱を制御する技術の一つに熱量効果がある。熱量効果には、圧力をかけることで吸熱や発熱を制御できる圧力熱量効果、磁場をかけて熱特性を制御する磁気熱量効果、電圧で熱特性を制御する電気熱量効果などが知られている。圧力熱量効果では、圧力を加えることで熱を蓄えたり、取り出したりすることが可能となり、ヒートポンプとして利用することで冷却などの温度制御ができる。特に、固体熱量効果材料を使った冷却は従来のガス圧縮式冷却と比べて効率が高く、機器を小型化することが可能で、冷媒であるフロンも不要であり、環境への負荷の小さい冷却を実現することが期待されていた。
【本技術の基本原理】
今回、共同研究チームは、固体のままで多量の熱を吸収・放出する熱制御が可能なマルチ熱量効果材料として、電荷・スピン(磁性)・格子が強く結合してフェリ磁性(注1)を示すペロブスカイト構造酸化物 BiCu3Cr4O12に注目した。この物質は大型放射光施設SPring-8(注2)、BL02B2 での放射光X線回折実験の結果から190K(マイナス83℃相当)で電荷(Crの原子価状態)の変化に伴う1次相転移(液体や気体に変わる相転移)を起こすことを確認した。
この転移と同時に、BiCu3Cr4O12中の銅(Cu)とクロム(Cr)の磁気モーメントがフェリ磁性となるように配列し、その際に磁気エントロピー(注3)が大きく変化した(28.2J K−1kg−1)。そのため、相転移温度付近では、磁場をかけることによってこのエントロピーを変化させることができる磁気熱量効果が起こったことで、本固体熱量効果材料は、磁場をかけて熱を蓄えたり、取り出したりする可能性を持っていることがわかった。
50kOeの磁場をかけると約3.9Kの断熱温度変化を達成できることが予想された。一方、この材料は NdCu3Fe4O12と同様に圧力を加えることでも相転移を変化させることができ、4.9kbar(490MPa)の圧力を加えることで約4.8 Kの断熱温度変化が生じる圧力熱量効果も示した。つまり、磁場と圧力という複数の(=マルチな)手法により、熱を効率的に制御できることが実証された。
【本技術の特徴】
・本材料では、磁場と圧力を同時に加えることで、磁場や圧力の一方の外場だけでは到達できない条件での熱制御を効率的に行うことが発見された。
・実用上で問題となるヒステリシス損などの特性も、2つの外場を同時に加えることでその効果を相殺することができる可能性がある。
・このように熱をマルチな手法で制御できる材料を使うという、高効率な固体熱量効果材料を設計する新たな開発指針を示した。
・今回発見したBiCu3Cr4O12のマルチ熱量効果による熱制御は190K付近で最も高効率となるが、液化天然ガスなどの輸送や保管、さらに、水素利用社会の到来に伴う水素利用を考えると、より低温での冷却技術の開発が必要である。