永井 潜
この事案に関しては多くの専門家の方々が極めて理解しやすい解説と共に未来に向かって進むべき道標を示して戴いていますが、長年エネルギー開発に携わってきた一人の国民として、日頃思っていることを纏めてみました。ご一読頂ければ幸いです。
- 東日本大震災からやがて4年が経ちますが、それ以来原子力があたかも極悪人の如き報道・解説がなされています。エネルギー資源を持たない日本としては、将来は脱原子力の基本は守りつつもある程度の原子力利用は間違いなく重要なことと考えます。
- 第二次大戦後の日本のエネルギーは石炭から石油・ガス/原子力と変遷してきましたが、ここ暫くは石炭/石油・ガスが中心にならざるを得ないと考えます。昨今では米国のシェールガス・オイルが安価に回収できる技術が確立され、世界のエネルギー事情がこれまでとかなり変わってきているものの今後も石炭/石油・ガスが主流となることは間違いないと考えます。
- 石炭に関しては石油・ガスに比べ資源埋蔵状況から世界各地で経済的回収が可能で、今後もその使用量が減ることは無さそうです。各国で石炭の環境調和型有効利用技術が開発されており、暫くは石油・ガスと並び重要なエネルギー資源の地位は不動と考えます。
さて、化石燃料である石炭・石油・ガス(ここでは原子力は除く)の使用に関しては必ず議論されるのが地球温暖化問題です。化石燃料の使用が増加すればするほど間違いなく地球温暖化に大きな影響を及ぼすでしょう。この為に、先進各国のエネルギー関連企業・大学・研究所と官学民こぞってこの対策技術の研究開発に莫大な資金及び有能な頭脳を投入しています。地球温暖化を進行させない極めつけの技術開発には成功していないというのが現状ですが、「水素社会」の早期実現に向かって技術開発・社会基盤の整備に英知を絞っています。筆者も水素社会が実現できれば地球温暖化を回避する方法として有効と考えており、一日も早い実現を期待している一人です。
ここで「一寸待ってよ」となるのが水素製造の原料は何かと言うことです。現状では化石燃料である石炭・石油・ガスが原料となります。これらを原料にすれば当然のことながら副産物として二酸化炭素(CO2)が発生します。これを回収・貯蔵する技術(CCS : Carbon Capture & Storage)が開発されていますが、やはり経済的には、現状の化石燃料の使用と比べ著しく不利になることは言うまでもありません。地球温暖化の進行を防ぐための「水素社会」の実現には原料は水しかありません。水から水素が製造できれば副産物として酸素が得られ多くの使い道があります。特に、安価な酸素が得られれば未利用石炭資源がガス化技術にて有効利用されるようになるでしょう。
水からの水素製造技術は電気分解(その電気は何から製造しているのかも問題ですが)、原子力発電の排熱利用、太陽熱利用が考えられますが、何れも経済的には化石燃料ベースの水素にはかないません。日本のエネルギーのベストミックスは何かが官学民で真剣に議論されていますが、真の「水素社会」実現のためにはまだまだ幾つもの高い技術的・経済的ハードルが残されています。トヨタがいち早く水素燃料自動車・電気自動車実現に立ち向かっていますが、筆者が四半世紀前の現役時代にトヨタとお付き合いあったころから、究極の環境対応自動車として水素・電気自動車の時代が来るとして安価に水素を製造する技術を調査・研究開発されていたことを思い出します。
安価に水から水素を製造することはいずれ可能になるでしょう。それまでは化石燃料に頼らざるを得ません。この為には、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出をゼロないしは極めて少ない水素製造技術の完成が待たれるところです。前述の経済的なCCS技術が実現できれば、地球上に万遍なく賦存する石炭のガス化、液化が可能となり、また、回収された二酸化炭素を深部油田に注入し、より多くの石油の回収に繋がります。そうすれば22世紀まで化石燃料を有効に利用できることになると考えます。
最後に全くの私見ですが、水素製造には太陽熱・原子力排熱利用の海水の熱分解が有効と考えています。海水の熱分解が実現できればその副産物である酸素だけでなく、海水中の有用な金属成分なども回収できる可能性を秘めています。未来の子供たちに夢を与えるべく真剣に議論されても良い技術開発ではないかと考えています。
”夢は不可能を可能にする。Dream makes impossible possible”
戯言にお付き合い戴き厚く御礼申し上げます。
2015年2月18日
出身企業:双日株式会社(旧、日商岩井)
略歴:資源エネルギープロジェクトの企画・立案・推進、ハイテク技術関連プロジェクト・商内にて、米国会社Atlanta店General Manager
専門分野:石炭・ガス利用技術
資格等:科学技術翻訳士(英語)
趣味:ゴルフ・ウォーキング
*コラムの内容は専門家個人の意見であり、IBLCとしての見解ではありません