NEDO 若手研究グラント平成23年度採択テーマから産学連携のための研究紹介

お問い合わせ

透明導電パターンフィルム向け低温焼成ナノインクの開発

ナノインクを用いたプリント配線技術は,透明導電性フレキシブルフィルムを量産する上できわめて重要です。ナノインクとしては、低温焼成性と低抵抗率の付与が急務です。本研究では、透明樹脂へのプリントを視野に、焼成温度120°Cでスパッタ膜と同等の抵抗値となる透明導電性ナノインクを開発します。具体的には高結晶性ナノ粒子およびアモルファスの併用・インク化により目標を達成し、インジウム低減・代替材料を開発します。

研究機関・所属 東北大学 多元物質科学研究所
氏名・職名 蟹江 澄志 准教授
研究テーマ名 透明導電パターンフィルム向け低温焼成ナノインクの開発
応用想定分野 ナノインク、フレキシブルディスプレイ、太陽電池パネル電極
技術紹介

 薄型テレビ、パソコン、モバイル機器や太陽電池に不可欠な透明電極には、スパッタ製膜法で調製したITO(スズドープ酸化インジウム)薄膜が広く使用されています。ITOの原料であるインジウムは供給不安があることなどから、使用量低減や完全代替に関わる技術開発が求められています。さらに、ITO薄膜は、高温真空処理が必要なスパッタ製膜により製造されるため、フレキシブルフィルムヘの展開は不可能です。これらの問題点を解決する手法として現在、透明導電性ナノインクを用いたインク塗布法が注目されています。しかしながら、この手法は、スパッタ膜に比べて抵抗値が高いことが課題となっています。そこで、本研究では、ナノインクへ低温焼成性を付与することで、低抵抗・高透過率を兼ね備えたパターンフィルム向け低温焼成ナノインクの開発を行います。具体的には、焼成温度120°C以下で抵抗値10‐3~10‐4Ωcmの革新的な透明導電性ナノインクを開発することを最終目標としています。

技術の特徴

透明導電性ナノインクに低温焼成性と低抵抗特性を付与するための手法として、独自の5つの切り口、すなわち、(1)高結晶性ナノインク用透明導電性ナノ粒子の液相合成、(2)アモルファス成分を用いたin-situ 焼成技術開発、(3)シングルナノサイズ粒子併用による高密度化技術開発、(4)界面活性剤レス透明導電性ナノ粒子の液相合成法開発、および(5)その場合成による分散安定ナノインク開発、に着目しています(図1)。本研究は、低温焼成性と低抵抗特性とを兼ね揃えた透明導電性ナノインクを開発するものであり、新規性が高く評価されています。
 低温焼成性ナノインクは、ディスプレイ用途を考慮していることから透明性の確保が必須で、一方で、本研究における低温ナノインク配線技術は、金属ナノ粒子のインク化・配線においても強く求められている技術です。特にATOナノインクは可視光領域での透明性と近赤外光領域での吸収特性から、太陽電池パネルの電極として脚光を浴びています。そのため次世代型の透明導電性パネル作製プロセス開発にとって重要な役割を果たすとともに、今後の急速な需要の伸びが予想される太陽光発電を支える基盤技術としても期待されます。

図1.革新的透明導電性ナノインク開発のための切り口

従来技術との比較
本研究開発技術は、全ての機能諸元において優位であります。
特許出願状況
1)
特願2008-179992、出願日2008年7月10日
2)
特願2008-334479、出願日2008年12月26日
研究者からのメッセージ

 現状の透明導電性ナノインクは、特に優れたものでも焼成温度 300°C程度で 10-2Ωcm程度となっています。このことからも本研究開発で掲げる焼結温度120°C以下、抵抗値 10‐3~10‐4Ωcmという目標値は、きわめてハードルが高いものであることがわかります。これらの目標値設定に際しては、ナノインクが真に実用化されるために必要となる値を熟考し、"この値を達成すればナノインクの未来が替わる"値として、敢えてチャレンジングな値を設定しています。目標値の達成のためには、有機化学・無機化学などの従来の枠組みを超えたあらたな材料設計や合成手法の開発が必須であると捉え、これまでの有機合成化学や無機ナノ粒子合成化学の分野で培ってきた知見の集大成として、現在、本研究開発を推進しております。この研究開発の目標値達成および成果の実用化に向けて、ユーザー側の皆様のご意見やニーズをお聞かせ下さい。

参考:

東北大学 多元物質科学研究所
http://www.tagen.tohoku.ac.jp/

発表論文:

1.
Y. Endo, T. Sasaki, K. Kanie, A. Muramatsu, Direct Synthesis and Size Control of Highly Crystalline Cubic ITO Nanoparticles in Concentrated Solution System, Chem. Lett., 37 (12), 1278-1279 (2008).
2.
T. Sasaki, M. Nakaya, K. Kanie, A. Muramatsu, Amino Acid Assisted Hydrothermal Synthesis of In(OH)3 Nanoparticles Controlled in Size and Shape, Mater. Trans., 50 (12), 2808-2812 (2009).
3.
T. Sasaki, Y. Endo, M. Nakaya, K. Kanie, A. Nagatomi, K. Tanoue, R. Nakamura, A. Muramatsu, J. Mater. Chem., 20 (37), 8153-8157 (2010).