NEDO 若手研究グラント平成23年度採択テーマから産学連携のための研究紹介

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イオン照射型フラット・パターニング法による次世代高密度磁気記録メディアの開発

次世代の高密度ハードディスクを実現するためのキー技術として、磁性ナノドットを独立に配置したビット・パターンド・メディア(BPM)が注目されています。本技術は磁性膜の組成をナノスケールでコントロールし、膜を削ることなく磁気的に孤立した強磁性ドットを作製するものです。組成制御にはマスク併用のイオン照射を用います。本技術を用いれば、単純なプロセスで表面フラットなBPMを作製することができます。

研究機関・所属 秋田大学 大学院工学資源学研究科 材料工学専攻
氏名・職名 長谷川 崇 助教
研究テーマ名 FePt系規則合金の強磁性‐常磁性相変化を誘起するイオン照射型フラット・パターニング法によるビット・パターンド・メディアの開発
応用想定分野 磁気記録メディア
技術紹介

 次世代の超高密度ハードディスクを実現するためのキー技術としてビット・パターンド・メディア(BPM)が必須と言われています。これまでのアプローチでは、エッチングで磁性膜を物理的に孤立させるので、ドットにダメージが導入される問題がありました。また磁気ヘッド浮上のためには表面平滑化プロセスが必須でした。本技術では、イオン照射を用いて膜を削ることなく磁気的に孤立した強磁性ドットを形成します。すなわち、磁性膜の組成をナノスケールでコントロールし、局所的に磁気相変化を誘起することで、表面フラットなBPMを作製するものです。
 本研究開発は以下の2項目からなります。

(1)
磁気異方性Kuが高く、かつ組成の僅かな違いで磁気特性が変化する材料の探索
これには、現状のHDDメディア材料の10倍のKuを有するL10FePt系規則合金を想定しています。
(2)
イオン照射とアニールを併用したナノスケール組成制御技術の開発
本研究ではこれまでに、FePt規則合金にわずかなRhあるいはMnを添加することで、図1(a), (b)に示す不連続な磁気特性の変化が生じる条件を見出しました。これらの材料を用いれば、イオン照射領域のエッジを磁気的にシャープにすることができ、より微細なドットの作製が可能となります。

【図1】(a) L10Fe50(Pt1-xRhx)50,(b) L10(Fe1-xMnx)50Pt50薄膜の室温での磁気特性

【図1の説明】FeまたはPtサイトを第三元素で置換していくと強磁性(FM)から反強磁性(AF)に変化することがわかります。

【図2】イオン照射によるビットパターン作製プロセスと原理

技術の特徴
(1)
従来のビットパターン作製法では、孤立ドットを作るのにエッチングを要するため、表面の凹凸を平滑にするプロセスが必須であり、製造工程が複雑になる上に磁気特性も劣化します。本方式では、図2に示すようにイオン照射を利用するため、膜表面がフラットなままでパターン化が完了し、工程が簡素化される上に、磁気特性の劣化も回避されます。
(2)
従来からイオン照射で結晶構造を壊す方法でのパターン化技術は知られていますが、この場合にはドット内の結晶構造も僅かに乱され、磁気特性が劣化することがありました。本方式ではイオン照射後に再結晶化アニールを施し、僅かな組成変化に依存した急峻な磁気相変化を誘起することで、良好なドット特性を得ることができます。
従来技術との比較
関連する材料の特許出願状況

特許第5013100号(登録日2012年6月15日)
米国特許US7927725B2(登録年月2011年4月19日)
特願2012-135220(出願年月2012年6月14日)

研究者からのメッセージ

 ナノスケールの磁性体に結晶ダメージが残らない微細加工法を開発し、磁気記録デバイスへと展開することを目指しています。ハードディスクのみならず、多様な用途開発を目指した連携ができればと考えております。

参考:

秋田大学 工学資源学部 材料工学科HP
http://www.gipc.akita-u.ac.jp/~zchair/index.html

発表論文:

1.
T. Hasegawa, T. Tomioka, Y. Kondo, H. Yamane, and S. Ishio, Fabrication of [001] L10-FePtRh ferro-antiferromagnetic pattern by flat-patterning method, Journal of Applied Physics, Vol. 111, No. 7, p.p. 07B903-1~07B903-3 (2012).
2.
T. Hasegawa, T. Tomioka, H. Kawato, S. Takahashi, Y. Kondo, H. Yamane, A. Arakawa, and S. Ishio, Geometric and magnetic properties of L10 FePtRh ferro-antiferromagnetic pattern fabricated by flat-patterning method using atomic diffusion, Journal of the Magnetics Society of Japan, Vol. 36, No. 2, p.p. 104~108 (2012).
3.
T. Hasegawa, T. Tomioka, Y. Kondo, H. Yamane, and S. Ishio; Study on nanoscale patterning using ferro-antiferromagnetic transition in [001]-oriented L10 FePtRh film, Journal of Applied Physics, Vol. 109, No. 7, p.p. 07B705-1~07B705-3 (2011).
4.
T. Hasegawa, J. Miyahara, T. Narisawa, S. Ishio, H. Yamane, Y. Kondo, J. Ariake, S. Mitani, Y. Sakuraba, and K. Takanashi; Study of ferro-antiferromagnetic transition in [001]-oriented L10 FePt1-xRhx film, Journal of Applied Physics, Vol. 106, No. 10, p.p. 103928-1~103928-6 (2009).
5.
T. Hasegawa, W. Pei, T. Wang, Y. Fu, T. Washiya, H. Saito, and S. Ishio; MFM analysis of the magnetization process in L10-A1 FePt patterned film fabricated by ion irradiation, Acta Materialia, Vol. 56, No. 7, p.p. 1564~1569 (2008).