河口 修
再生可能エネルギー発電とスマートグリッド
パリ協定及び我が国の約束草案を踏まえた地域温暖化対策の取組みが行われ、2010年までは再生可能エネルギー発電とスマートグリッドという話題が盛んに使われていた。最近、スマートグリッドという言葉は他の言葉に置換えられたようで、あまり使われていない。
再生可能エネルギー発電は太陽光発電や風力発電を始めとして、電力安定化が苦手で、スマートグリッドの電力調整機能を利用して安定な電力として供給することで普及した。
私は約30年間、半導体工場で半導体検査装置の開発・設計などの仕事に従事し、早期退職した。設備設計などに従事したことが縁で、現在は再生エネルギー発電システムなどの技術アドバイスを行っている。再生可能エネルギー発電に携わった立場から再生エネルギー発電とスマートグリッドについて展開してみたい。(経済産業省ホームページから)
再生エネルギー発電は安定なエネルギーとは言えない。太陽光発電と風力発電、太陽熱発電、潮流発電は時間毎に発電電力が変動し、水力発電と地熱発電は変動が小さいが発電電力は変動する。バイオマス発電の電力は変動が小さいが、燃料の7割以上はバイオチップで占められる。バイオチップの主な原料である未使用材、PKS(輸入パームや椰子がら)が不足しており、安定な発電電力とは言えない。最近、大手商社が木質ペレットを輸入し、コストと供給に対応し始めたが、木質ペレットも有限な資源で、対応も将来は限定的だ、と思われる。
太陽光発電では発電した直流電力を安定な直流電力に、風力発電、太陽熱発電、地熱発電、潮流発電では発電した交流電力を安定な直流電力に変換し、安定な直流電力を安定な規定電圧の交流に変換し、商用送電網に送り出す。
以前に太陽光発電から発電電力を直接、商用送電線に接続すると、送電線内で電力が不安定になり、ノイズが発生するトラブルが発生した。商用送電線と電圧、周波数、周期を合わせた交流電力を発電側から送り出さないと、電圧変動、周波数変動、ノイズなどが発生する。
この対策としてスマートグリッドの活用がある。再生エネルギー発電より商用送電線に送り出された電力はスマートグリッドの送電ネットワークに送り出す。送電ネットワークでは電圧、周波数、周期を調整し、スマートグリッドの配電ネットワークに送り出され、工場、ビル、家庭などに配電される。
スマートグリッド(次世代送電・配電ネットワーク)とは、AI(人工知能;Artificial Intelligence)と情報通信網を利用し、電力の供給側(電力会社側)とユーザー側の電力を制御し、高効率・高品質・高信頼度の次世代送電・配電ネットワークを目指したシステムである。欧米では、再生エネルギー発電の導入と共に急速に普及し、新興国でも普及が始まった。
スマートグリッドは、①次世代送電ネットワーク と②スマートネットワーク(次世代配電ネットワーク)および③家庭、ビル、工場、地域やインフラ関連設備などのエネルギーの管理システム【家庭サイド;HEMS(Home Energy Management System)、ビルサイド;BEMS(Building Energy Management System)、工場サイド;FEMS(Factory Energy Management System)、地域内;CEMS(Cluster/Community Energy Management System)】で構成され、それぞれを配電線と情報ネットワークで接続されている。
次世代送電ネットワークは、火力発電、原子力発電、水力発電、再生エネルギー発電などから送電された電力は送電設備で受けるが、AMI(Advanced Metering Infrastructure;スマートメータ)で送電設備の電力の電圧・電流・周波数・周期をモニターし、送電設備の電圧・電流・周波数・周期を適正な値に制御する。AMIは情報ネットワークで変電設備と接続されており、AI技術により変電設備を制御する。同時に、余剰な電力は大型蓄電池に充電し、不足した場合に放電する。また、他の次世代送電ネットワークとの電力の遣り取りも可能で、不要な発電を抑えることが出来る。
スマートネットワークは次世代送電ネットワークから送られた電力をユーザー(家庭、ビル、工場、地域やインフラ関連など)に配電し、余剰電力を不足したユーザーに送る役割を果たしている。ネットワーク内の異常個所を自動点検し、異常個所の早期点検の役割も果たしている。
今後の再生エネルギー発電の課題は言うまでもなくコスト削減である。太陽光発電は発電可能な光波長領域を広げたソーラーセルを開発し発電効率が上がるなど、同一面積での発電電力が増加しパネル単価は同一で、太陽光発電価格は安くなった。
太陽光発電価格は非住宅で25円/kWh(現時点)に近づき、国際規格(IEA 2DS Hl-Renシナリオ)の2030年に19.5円/kWh、風力発電は非住宅(陸上)で28円/kWh程度(現時点)を2030年に25.2円/kWhを目標としている。
太陽光発電、風力発電は発電効率向上と建設費削減が課題で、更に発電コストを削減出来るもの、と思われる。
スマートグリッド(次世代送電・配電ネットワーク)の課題は、次世代送電の整備と地域内スマートグリッド・CEMS(Cluster/Community Energy Management System)の拡張が必要性と思われる。
地方での大規模再生エネルギー発電は、送電網が未整備で大型蓄電設備もないことが原因で近くの都市に送電出来ず、送電網を使って大都市に送電するケースがある。近くにスマートグリッドを設置した都市があれば、必要量を受入れ、送電ロスを減らすことが可能である。同時に、地方自治体での地域内スマートグリッド・CEMSも必要性が増す、と思われる。
CEMSはスマートシティに実施されており、EV充電スタンドやビル、工場などの電力を効率良く使えるシステムが組込まれ、再生エネルギー発電や自家発電、大型蓄電設備なども組込まれ、非常時の停電による孤立を防ぐことが可能である。余剰電力の他のスマートグリッド網との遣り取りも可能である。
現在、CEMS(スマートコミュニティ)として報告されているは、東北(会津若松市)、関東(栃木県:足利市、群馬県:安中市、埼玉県:越谷市、千葉県:船橋市、柏市、佐倉市、市川市、東京都:荒川区、杉並区、板橋区、離島10島、東京工業大学、大田区、目黒区、神奈川県:小田原市、横浜市、藤沢市、川崎市)、中部(新潟県:柏崎市、山梨県:都留市、長野県:坂城町、須坂市、飯田市、静岡県:浜松市、愛知県:豊田市)、近畿(けいはんな)、九州(北九福岡県:北九州市、佐賀県:玄海地区、薩摩川内市)であり、今後の進展を期待したい。
今後の再生エネルギー発電とスマートグリッド(次世代送電・配電ネットワーク)の発展を期待したい。
参考資料
1.エネルギー技術 スマートグリッド:スマートグリッド標準化へ(2010年02月01日、経産省) 2.目覚める新エネルギー(2014年、NEDO) 3.スマートグリッドグリッド分野における日本企業の事業機会と課題(知的資産創造2011年4月号) 4.再生エネルギー協会HPより 5.NEDOスマートグリッド白書(2010年、NEDO) 6. 長期エネルギー需給見通し小委員会に対する 発電コスト等の検証に関する報告(案)(平成27年 4月 資源エネルギー庁;総合資源エネルギー調査会発電コストワーキンググループ)
2017年4月25日
出身企業:三菱電機株式会社
略 歴:三菱電機株式会社 半導体部門(半導体検査部門など)を経て、技術サポート事業(オーエス・ワールド)を立上げ、経産省ミラサポ、千葉県産業振興センター、東京商工会議所に専門家登録。再生エネルギー発電装置の技術、事業計画のアドバイス柏市沼南商工会理事(異業種交流会会長)
専門分野:直流・交流電源、充電装置の設計・アプリケーション、再生エネルギー発電システムの設計と事業化
*コラムの内容は専門家個人の意見であり、IBLCとしての見解ではありません