有機性排水処理で更なる環境保全へのチャレンジをしてみませんか

国内における産業活動の結果、多量の産業排水(111億トン/年)が発生しています。大部分の排水のCOD濃度は0.3〜1.0g/Lと低く、常温(13〜25°C)で排出されています。通常これらの排水は、好気性微生物処理(活性汚泥法)で処理されていますが、曝気に必要な電力消費は莫大であり(国内総電力消費の1%以上)、また処理の結果多量の余剰汚泥が発生します。
メタン発酵処理法は、通常は中・高濃度(2〜20 gCOD/L)排水の中温(35〜37°C)での処理にのみ、適用可能ですが、開発した新規の嫌気排水処理(メタン発酵)技術では、低濃度排水(0.3〜1.0 gCOD/L)を無加温(10〜20°C)で処理することに成功しました。本技術により、低濃度排水の省エネ処理(無曝気+余剰汚泥の発生削減)が可能になります。
所属 国立環境研究所 地域環境研究センター
氏名・職名 珠坪 一晃 室長
研究テーマ名 低有機物濃度排水の無加温メタン発酵処理技術
応用想定分野 原料製造、食品加工や飲料製造等の食品企業から発生する低濃度有機物排水の処理

技術紹介

 生物膜メタン発酵法による低濃度産業排水の無加温処理技術の開発

 嫌気性処理技術が未適用である低有機物濃度で、10〜20°Cで排出される産業排水に対応可能な省エネルギー型処理技術を確立するため、嫌気性生物膜を利用したメタン発酵法(生物膜メタン発酵法:グラニュール汚泥床法)の開発を行った。

 グラニュール汚泥床法の排水処理性能や保持生物膜の物理的(汚泥濃度、沈降性等)・微生物学的性状(微生物活性の温度依存性、微生物群集構造)に及ぼす影響評価を行うと共に、低有機物濃度、常温に対応させるための運転条件(排水循環条件、装置)の最適化を行い、実産業排水の無加温(20°C)処理で成果を得た。

技術の特徴

  1. メタン発酵処理技術(間欠処理水循環グラニュール汚泥床法)により、低有機物濃度排水(0.3〜1.0 gCOD/L)の低温条件(10〜20°C)での処理が可能になり、メタン発酵排水処理技術の適用範囲を大幅に拡大した。
  2. 都市下水のUASB 法と DHS との組み合わせによる処理により、通年での無加温処理の可能性が示された。
  3. 開発した排水処理技術では、曝気動力の最小化、余剰汚泥の大幅削減(好気処理の8割削減)、メタン回収が可能であり、省エネ型の好気性処理法(DHS)との組み合わせにより活性汚泥法と同等の放流水質を確保。
  4. 低濃度排水の無加温処理において現状の好気処理法と比較してエネルギー消費 (化石燃料由来のCO2の発生)を 7〜8割削減。

従来技術との比較

特許出願状況

特許権 メタン発酵による排水処理方法および装置 第4982789号 2012.5.11

研究者からのメッセージ

 適用排水の種類が限定され、処理水質が悪い等の理由で導入が遅れていたメタン発酵排水処理技術ですが、本研究開発を通じて適用可能な排水の有機物濃度や温度の下限が大幅に拡大されました。本技術は、食品系の産業のみならず、有機性排水を排出する種々の分野の産業排水処理への適用や処理エネルギーの削減を求められる開発途上国での排水処理などに活用して頂ければ幸いです。

 開発したメタン発酵排水処理技術は、実用化に近い段階となっており、民間プラントメーカーとの連携による実排水のパイロット処理試験の実施により、技術の実用化が大きく図られると考えており、パイロット試験の排水(場所)を提供して下さる企業(工場)を募集しています。

参考:
国立環境研究所 地域環境研究センター
http://www.nies.go.jp/chiiki/kenkyusha/shutsubo_kazuaki.html
環境儀
http://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/35/35.pdf
発表論文:
  1. 川崎達也, 大橋晶良, 原田秀樹, 珠坪一晃. EGSBリアクターによる低濃度有機性排水の高速メタン発酵処理. 環境工学研究論文集. 2005, 42, p. 39-49.
  2. 角野晴彦, 室田龍一, 大橋晶良, 原田秀樹, 珠坪一晃. 嫌気性懸垂型スポンジろ床(AnDHS リアクター)による低濃度有機性排水のメタン発酵処理. 環境工学研究論文集. 2006, 43, p. 23-29
  3. 大河原正博, 西山桂太, 山口隆司, 珠坪一晃, 井町寛之, 原田秀樹, 大橋晶良. Expanded Granular Sludge Bed (EGSB) リアクターによる実下水処理特性の評価. 環境工学研究論文集. 2007, 44, p. 579-587
  4. 角野晴彦, 室田龍一, 大橋晶良, 原田秀樹, 珠坪一晃. メタン発酵型散水ろ床「AnDHS 反応槽」による低濃度排水処理. 用水と廃水. 2007, 49, p. 65-72
  5. 角野晴彦, 大岩勇太, 小澤徹, 珠坪一晃, 原田秀樹, 大橋晶良. 硝化型DHS/硫黄脱窒反応槽による低コスト型下水三次処理. 用水と廃水. 2009, 51(8), p. 50-59
  6. Yoochatchaval W., Tsushima I., Yamaguchi T., Araki N., Sumino H., Ohashi A., Harada H., Syutsubo K. Influence of sugar content of wastewater on the microbial characteristics of granular sludge developed at 20℃ in the anaerobic granular sludge bed reactor. J.Environ.Sci.Health A. 2009, 44(9), p. 921-927
  7. Syutsubo K., Yoochatchaval W., Tsushima I., Araki N., Kubota K., Onodera T., Takahashi M., Yamaguchi T., Yoneyama Y. Evaluation of sludge properties in a pilot scale UASB reactor for sewage treatment in temperate region. Water Sci.Technol. 2011, 64(10), p. 1959-1966
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