小型高輝度光子ビーム発生装置開発とその基盤技術

レーザコンプトン散乱の原理を応用すると小型加速器で大型放射光源加速器と同等の硬X線(20keV以上)が生成可能でありその実証が本開発の最終ターゲットである。達成時には、準単色で、偏極制御可能な短パルス光源が得られる特徴がある。開発過程の中で基盤技術として得られた2つの技術、1)現在20μmスポットサイズまで精度良くフォーカスできる光共振器とレーザ蓄積技術、2)高電流密度のRF電子銃に関して実際応用の可能性を検討したい。
所属 高エネルギー加速器研究機構 加速器研究施設
氏名・職名 浦川 順治 教授
研究テーマ名 小型高輝度光子ビーム発生装置開発
応用想定分野 高性能電子顕微鏡、高性能ファイバーレーザ、最終的には硬X線の医用利用や原子分子レベルのX線イメージ評価装置

技術紹介

 本研究の最終ターゲットは医用向け等に応用可能な6x8m2程度の大きさの小型硬X線発生装置を開発することにあり、改良中の構成図を下記に示す。同方式では米国Lyncean社が既にタンパク質構造解析の実用化レベルの装置を販売しており、30keV以上の準単色X線を生成する医療用光源装置開発としてグローバルな競争状態に入っている。

 発生器の原理は、図1のように焦点の絞られた高速電子を高出力レーザのスポットに照射して、逆コンプトン散乱を起こさせることにある。ファイバーレーザ技術によって生成した波長1μm(または0.5μm)のレーザパルスを高フィネスの光蓄積共振器に入射して蓄積すると同時に2枚のミラー中央に収束させ、RF電子銃から発生した電子ビームを高周波加速空洞で加速して、その収束点で衝突させる。図では最新の改良前後の構成を示している。

図1 KEK 小型電子加速器(LUCX)のビームライン

 現状、医用のX線イメージが高コントラストで得られているが、発生フォトン数は設計の2桁小さい量であり、1ショットでの鮮明なイメージの取得に向けては課題が多い。特に、レーザのミラー損傷が高密度領域で発生しており対策を準備中である。

 本研究の過程で開発されたRF電子銃は、高密度の電子源としての有用性が高く既に大阪大学の電子顕微鏡に使われて成果が出ている。目標のエネルギー30keV以上を得るためには、30MeV以上 の電子ビームが必要であり、3.6cell RF電子銃と12 cell加速空洞の構成とした。又、高反射ミラーを使った共振器を含めたレーザエネルギー蓄積技術に関してもその応用への可能性検討を進め、両技術の個別の切りだしに対応出来る。

技術の特徴

 小型X線源としての特徴は以下のものがある。

  1. 準単色ビーム
  2. 簡単なコリメータを使ってX線バンド幅を調整可能
  3. 硬X線の生成、ガンマ線が超高輝度で得られる
  4. レーザの偏極を制御することでX線の偏極を自由に制御できること
  5. レーザと完全同期すること、短パルス化が可能なこと
既存技術、競合技術との比較優位点
  1. 大規模な加速器が要らないので低価格で小規模施設に設置可能(比較 SOR, FEL、ERLなど)
  2. 電子管X線源と比較した場合、準単色高エネルギー密度のX線源である

従来技術との比較

 RF電子銃は従来の電子銃の1000倍以上高い高密度・高エネルギー電子ビームを生成できる。
 ファイバーレーザ技術を使えば高効率で高品質レーザ生成が可能になり、100W程度のレーザ発生装置を比較的安価に製作できる。

特許出願状況

  1. 特願2009-182788、特許公開2011-035328 発明の名称:偏光レーザ発振方法、偏光放射線発生方法及びそのシステム、出願人;大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構、発明者:浦川 順治他2名

研究者からのメッセージ

 高品質電子ビーム生成技術と高品質レーザ生成技術を融合することによって、小型の高品質X線発生装置開発を推進しています。この研究開発で生まれた基盤技術(高エネルギー高密度電子ビーム生成技術や高密度レーザ生成技術)は最先端医療および診断に高付加価値を与えるものです。

参考:

平成23年度成果報告書 委託業務成果報告書 量子ビーム基盤技術開発プログラム「超伝導加速による次世代高輝度光子ビーム源の開発」 平成24年8月6日 高エネルギー加速器研究機構 量子ビーム次世代ビーム技術開発グループ編集

発表論文:
  1. 浦川順治. 【展望】電子線形加速器の電子ビームの高強度化、Isotope News. 2013. 706. p.2-7.
  2. 福田将史,Aryshev Alexander,荒木栄,本田洋介,坂上和之,照沼信浩,浦川順治,鷲尾方一. KEKにおけるレーザーコンプトン散乱を用いた小型X線源の開発の現状とアップグレード計画. 日本加速器学会誌「加速器」. 2012, 9(3), p.156-164.
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