マイクロパターンガス検出器による中性子・X線画像装置の開発

素粒子研究用に開発された気体電子増幅管を用いた新タイプのX線検出器及び中性子検出器を開発した。得られる信号は2次元分布評価に加えて時系列情報が得られ、携帯型で低価格である等、従来に無い特徴を有した非破壊解析測定システムであり具体的応用例を示す。
所属 高エネルギー加速器研究機構 測定器開発室
氏名・職名 宇野 彰二 教授
研究テーマ名 測定器開発:小型ポータブル非破壊検査装置開発
応用想定分野 形状測定、コンクリート内鉄筋の形状等の把握、金属など固体の相分布等を非破壊的に検査・測定する2次元評価装置

技術紹介

 測定原理は、下図1のように微細な孔が均一にあいたフレキシブル基板に両面銅の配線間に高圧を印加して電子増倍することにより高感度かつ大きい飽和検出強度の検出器(GEM:Gas Electron Multiplier)として動作させることにある。中性子検出にはGEMの上層に多層のボロン層を変換層として配置し、充填されたガス内で発生する電子を増幅し最下面の読み出し部で検知するのに対して、硬X線検知には、薄い金層を変換層として使い、ガス内で発生した電子をGEMで増幅し読み取り部で検知する。(図2)

 

 ドリフト加速となだれ増幅による電子増倍部の微細な孔構造は典型的には孔径 70μm、孔ピッチ140μm、絶縁層厚50μm 程度の形状である。信号読み出し部には電極が直交するように配置されたストリップ電極を用いることで、独立した読み取りパターンに対応した2次元情報が得られる。又、信号の時系列情報も得ることが出来て高速のリアルタイム計測が可能である。(ASIC集積回路とFPGAを開発済み。)

図1 ガス電子増倍器の原理図 図2 測定器の多段化と2次元情報の読み出し

実際の計測例として下記が考えられ既に実証済みである。

中性子検出器として:
  1. ビームモニター装置
  2. 共鳴吸収領域の吸収断面積の差による合金など固体の相分布測定
  3. 金属種の判定や鉄の屈曲による結晶子の微細化分布のイメージ解析など固体の非破壊測定
硬X線検出器として:
  1. 金属の非破壊形状、厚み、太さなどの測定
  2. コンクリート内の鉄筋の形状と状態把握、鉄筋コンクリート内鉄筋の動的歪み測定、鋼管摩耗などを非破壊的に検査・測定する。

技術の特徴

  1. 小型で低価格のリアルタイム計測システムである
  2. 2次元的に均一な検出が可能で時間分解測定も可能
  3. 高い計数率まで測定可能
  4. 原子番号の大きな物質を使ってないのでガンマ線に対して不感な検出器である
既存技術、競合技術との比較優位点
  1. 金属細線を用いた従来のシステムに対して、2次元的に一様な高精度な位置測定が可能で、電子回路も含めてポータブルなシステムである。
  2. 中性子の小型検出器は同等の装置がない。
  3. 中性子検出器としては高価なヘリウム3ガスとその圧力容器の用意が要らない。
  4. 硬X線検出器としては高価なキセノンガスを使う必要がなく、より高いエネルギーの硬X線に対応可能。検出感度はNaIを用いた結晶型シンチレータに劣るが容易に高位置分解能が得られる。
  5. 解析結果が1分以内に2次元画像として表示されるので、放射線資格を持たない人が取り扱うことができて経費節減ができる。

特許出願状況

特願2007-083191特許公開2008-243634 特許4613319
出願人:高エネルギー加速器研究機構、発明者:宇野 彰二

研究者からのメッセージ

 素粒子・原子核実験用に開発されたGEM検出器を用いて、放射線の2次元画像がオンラインで撮れるという特徴を活かして他の分野、特に社会的に役に立つ分野への応用できることを期待している。

参考:
MPGD プロジェクト
http://rd.kek.jp/project/mpgd/mpgd.pdf
宇野彰二准教授、小柴賞を受賞
http://legacy.kek.jp/ja/news/topics/2011/Koshibasyou11.html
発表論文:
  1. Development of GEM-based detector for thermal neutron, Jinst, 7, C05003, 2012
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