液体キセノン検出器を用いた次世代PETの開発

PETの検出器を従来型の結晶検出器から液体キセノンのタイムプロジェクションチャンバーに変更し、空間解像度を5mmから1mmに向上させ、かつ磁場の中でも稼働できるのでMRTと組み合わせたPET利用が可能になる。
所属 高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所
氏名・職名 田内 利明 准教授
研究テーマ名 液体キセノン検出器を用いた次世代PET
応用想定分野 病気の診断・検査

技術紹介

 ポジトロン断層法(positron emission tomography;PET)は、X線コンピュータ断層撮影(CT)や磁気共鳴(MRT)が組織の形状を観察できることのみであるのに対して、観察する部位での細胞・組織の活動状況に特化した検査であり、被験者に対して放射性同位体を投与して、体内での崩壊に伴って放出されるポジトロン(陽電子)が消滅したとき放出されるガンマ線を検出する検査システムである。SPECTなど核医学の診断方法と共通するところがある。

 いままでのPETにおいては、結晶検出器を用い、その結晶を微細化することにより位置分解能をあげてきたが、ガンマ線の検出の感度を上げるためには、軸方向に長い構造となってしまうので3次元的な精度向上が難しく、空間分解能が5mm程度にとどまり、CTやMRTの分解能にははるかに及ばない。

 今回、結晶ガンマ線検出器を液体キセノンのタイムプロジェクションチャンバーに変更することで大幅な位置精度の向上が見込める。

技術の特徴

 液体キセノンのタイムプロジェクションチャンバーを使うことで、位置精度1mm程度を実現できる。また感度の向上により放射性同位体の投与量を削減できる可能性があり、体内被曝の低下につながることも期待できる。

既存技術、競合技術との比較優位点

 従来のPETと比較すれば。位置精度の向上が期待できる、CTやMRIに比して分解能は低いが、標的部位での細胞の活動を観察できるので、脳機能や癌の診断検査に有用である。

従来技術との比較

特許出願状況

  1. 発明の名称:ガンマ線検出器及びそれを用いたPET装置 特願2008-558150(平成20年2月15日出願) 特許番号4725649 PCT/JP2008/052530 国際公開番号(WO2008/099921)出願人:大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構および独立行政法人放射線医学総合研究所 発明者: 田内 利明ほか4名

研究者からのメッセージ

 企業に以下のような期待をしています。

  • 高速デジタルエレクトロニクス技術(例:ASIC, FPGA など)の共同開発研究
  • キセノンガス回収、精製を含む供給体制の検討
  • VUV光および高磁場対応の光検出器の開発
  • イメージンクソフトウエアとGUIの充実による製品化
  • MRT装置とのハイブリット化の共同開発研究
  • 日本発先端テクノロジーの完成と国外への進出
参考:
KEK測定器開発室
http://rd.kek.jp/
KEK測定器開発室プロジェクト:液体キセノン検出器
http://rd.kek.jp/project/LXe/index_j.html
発表論文:
  1. 液体キセノンTPC-PET, 真木晶弘, 次世代PET研究会, 2007年7月30日, 放医研 ; 平成19年度次世代PET開発研究報告書, (18),
    http://www.nirs.go.jp/usr/medical-imaging/ja/study/jPET_D4_2008/index.html
  2. ASIC Design and fabrication for frontend electronics of liquid Xenon TPC, Takatoshi Higashi, Shuji Tanaka, Tomiyoshi Haruyama, Satoshi Mihara, Akihiro Maki, Katsuyu Kasami, Shoji Suzuki, Toshiaki Tauchi,Takayuki SAEKI, Daisuke Kaneko, Manobu Tanaka, Akira Sugiyama, Shogo Nakamura, Masayuki Kumada, Hisashi Negishi, ポスターセッション(0194), TIPP09, 2009年3月12-17日, エポカル, つくば市, http://tipp09.kek.jp/
  3. Test of Liquid Xenon TPC for PET Application, Daisuke Kaneko et al. (2と同じ著者), ポスターセッション(0193), TIPP09, 2009年3月12-17日, エポカル, つくば市,http://tipp09.kek.jp/
  4. 液体キセノン検出器TPCのR&D - 次世代PETに向けて(TXeTPC), 田内利明, 研究会「電離及びシンチレーション検出器の基礎物理と暗黒物質探索への応用」, プロシーディング, 2009年9月18日, 早稲田大学
  5. 液体キセノンTPCのための低温動作フロントエンド集積回路の開発, 高木雄太, 田内利明 ,春山富義 ,田中秀治 ,三原智 ,笠見勝祐 ,中村正吾, 名越健誠, 真木晶弘 ,鈴木祥仁 ,千葉 哲平 ,熊田雅之 ,田中真伸 , 池田博一 , 房安 貴弘, ポスターセッション, 宇宙科学シンポジウム, 2010年1月5-7日, 宇宙科学研究所,
    http://www.isas.jaxa.jp/j/researchers/symp/sss11/
  6. 液体キセノンTPCに向けたASICの開発, 研究会: 第26回「放射線検出器とその応用」, ショートオーラル, ポスターセッション, 2012年1月24 - 26日, 高エネルギー加速器研究機構; 英語タイトル: Development of low temperature operating Integrated electronic circuits for Liquid Xenon TPC, Y.Takag, T.Tauchi, T.Haruyama, S.Tanaka, S.Mihara, K.Kasami, S.Nakamura, T.Nagoshi, A.Maki, S.Suzuki, T.Chiba, M.Tanaka, H.Ikeda, T.Husayasu, M.Kumada, p.82-88, KEK Proceedings 2012-8, Proceedings of the 26th Workshop on Radiation Detectors and Their Uses, January 24-26, 2012, KEK, Tsukuba, Japan
  7. Improvement of xenon purification system using a combination of a pulse tube refrigerator and a coaxial heat exchanger, Chen W.-T., Briend P., Chbib D., Cussonneau J.-P., Donnard J., Duval S., Haruyama T.c, Lemaire O., Le Calloch M., Le Ray P., Mihara S., Mohamad-Hadi A.-F., Morteau E., Oger T., Scotto-Lavina L., Stutzmann J.-S., Tauchi T., Thers D. , proceedings of ICEC24-ICMC2012, 2012年5月14-18日, 福岡国際会議場,
    http://www.icec24-icmc2012.org/
  8. 液体キセノン TPC に向けたγ線スペクトロスコピーとGeant4シミュレーション, ショートオーラル, ポスターセッション, 研究会: 第27回「放射線検出器とその応用」, 2013年2月5 - 7日, 高エネルギー加速器研究機構, 西村和真, 田内利明, 春山富義, 田中秀治, 三原智, 笠見勝祐, 中村正吾, 藤田崇徳, 大山修平, 濱西亮, KEK Proceedings 2013で出版予定
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