従来のリポソームの課題であった内包率、粒子サイズの制御、量産性を改良することに成功した。また、従来は内包率を維持するため疎水性機能分子のキャリアとしての使用に限られていたが、本製造技術では親水性物質が効率的に内包できるため、様々な使途のキャリアが提供できる。
技術紹介
リポソームは、脂質薄膜を水和する方法等で既に実用化されてはいるものの、以下の課題を有しており、広く利用されるまでには至っていない。
- 親水性物質の内包化効率が低い
- サイズ制御が困難
- 量産化が困難
このような背景から、親水性物質を高い内包率で内包し、サイズ制御された脂質リポソーム作製技術の開発が望まれていた。今回、従来技術の課題を克服可能な新しいリポソーム製造技術として、エマルションを基材とした『多相エマルション法』と『脂質被覆氷滴水和法』を開発した。
技術の特徴
今回開発された新しいリポソーム製造技術の特徴を以下にまとめる。
- リポソームサイズは初期エマルション滴の大きさを反映で、粒子サイズは、数百nm〜数μmまで制御可能。
- エマルション滴中に含まれる物質をそのまま内包化でき、40〜90%以上の高内包率を達成。
- 簡便な操作で多数のリポソーム(脂質カプセル)を生産できるため、量産化が可能となる。
今回新たに開発された「多層エマルション法」と「脂質被覆氷滴水和法」の製造プロセスの概要を以下に示す。
従来技術との比較
- 従来技術の問題点であった、内包率・サイズ制御・量産化を改良することに成功した。
- 従来は内包率の点で疎水性機能物質のキャリアとしての使用に限られていたが、親水性物質が効率的に内包化できるため、様々な使途のキャリアとして利用できるようになった。
特許出願状況
- 発明の名称:ベシクルの製造方法、この製造方法によって得られるベシクルおよびベシクルを製造するためのW/O/Wエマルション
日 本:特願2008-135009,特許公開2009-280525
米 国:特許出願第12/993,954号
出願人:筑波大学
発明者:市川 創作・黒岩 崇
- 発明の名称:ベシクルの製造方法、この製造方法によって得られるベシクル、ベシクルの製造に用いられる凍結粒子の製造方法
日 本:特許第4009733号
米 国:特許番号 第8,246,868号
出願人:筑波大学
発明者:市川 創作・黒岩 崇
研究者からのメッセージ
安全な脂質成分を使って調製されるリポソーム(脂質ベシクル)は、薬理成分のキャリアとして薬剤製造の分野だけではなく、様々な機能成分のキャリアとして高機能な食品や化粧品、日用品の製造にも活用できるナノ/マイクロメートルサイズのキャリアです。本技術により、親水性物質と疎水性機能物質を効率的に包含し、サイズ制御されたリポソームを作製できます。これにより、様々な機能成分の安定な分散化や、利用効率の向上が期待されます。リポソームの用途や包含する物質に応じた適切なリポソーム製造条件については、個々の事例に応じて対応しますのでご相談ください。
参考:
- 生物反応工学研究室
- http://www.agbi.tsukuba.ac.jp/~hanno/
発表論文:
- T. Kuroiwa, J. Watanabe, S. Ichikawa. Formulation and characterization of nanodispersions composed of dietary materials for the delivery of bioactive substances, in a book " Bio-Nanotechnology: A Revolution in Food, Biomedical and Health Sciences (Blackwell Publishing Ltd.)", 2013, p. 519-530.
- T. Kuroiwa, R. Fujita, I. Kobayashi, K. Uemura, M. Nakajima, S. Sato, P. Walde, S. Ichikawa. Efficient preparation of giant vesicles as biomimetic compartment systems with high entrapment yields for biomacromolecules. Chemistry & Biodiversity. 2012, 9(11), p. 2453-2472.
- I. Kobayashi, S. Ichikawa, M. A. das Neves, T. Kuroiwa, M. Nakajima. Formulation of lipid micro/nanodispersion systems, in a book "Lipids in nanotechnology (American Oil Chemists’ Society)". 2011, pp. 95-133.
- 市川創作, 黒岩崇. 高い物質内包効率とサイズ制御を実現するリポソームの新規作製法とその利用, 化学装置. 2009, 51(2), p. 10-13.
- T. Kuroiwa, H. Kiuchi, K. Noda, I. Kobayashi, M. Nakajima, K. Uemura, S. Sato, S. Mukataka, S. Ichikawa. Controlled preparation of giant vesicles from uniform water droplets obtained by microchannel emulsification with bilayer-forming lipids as emulsifiers, Microfluidics and Nanofluidics. 2009, 6(6), p. 811-821.
- S. Sugiura, T. Kuroiwa, T. Kagota, M. Nakajima, S. Sato, S. Mukataka, P. Walde, S. Ichikawa. Novel method for obtaining homogeneous giant vesicles from a monodisperse water-in-oil emulsion prepared with a microfluidic device, Langmuir. 2008. 24(9), p. 4581-4588.