線虫とその長寿遺伝子の活性化に着目し、高等動物に反映され得る機能物質を迅速かつ容易に選択し、その生理機能を的確に評価できる技術を開発した。これにより食品、医薬品、化粧品、農水産物、飼料の分野において、アンチエイジングや生活習慣病の予防と改善に寄与する新たな素材を従来のように長期間をかけることなく低コストで探索し、開発することが可能となる。
技術紹介
線虫はヒトのモデル生物として有用である。ライフサイクルが短く、身体が半透明なため生体内観察が可能であり、飼育が簡単で物質投与実験に向いている。また、神経、運動、消化、生殖などヒトと共通の器官構造を持ち、遺伝子や遺伝子同士のシグナル経路もヒトとほぼ共通である。実際に、個体の抗肥満、寿命の延伸、老化形質の改善、生殖能の活性化、ストレス耐性の増強などの現象を線虫個体で観察することができる。
本研究では、植物や農水産物などの天然物や発酵生産物などの抽出物または天然化学物質を対象材料として、まずは、線虫の長寿遺伝子活性化を指標として寿命延伸、老化抑制、ストレス抵抗性などの評価系に供し(1次スクリーニング)、次いで脂質・糖代謝改善、増殖・分化などの特定の生理機能を指標とする培養細胞での評価系にて機能を確認する(2次スクリーニング)。評価系によっては線虫での発光イメージングにより生理学的な効果を調べる。その後、老化や肥満や糖尿病などのモデルマウスを用いた個体レベルでの生理機能を検証する(3次スクリーニング)。これにより、長寿遺伝子の活性化を介して生ずる様々な生理活性を有する新規の物質や素材を開発することができる。
この新規な技術および開発ストラテジーは迅速性に富み、健康長寿に寄与する新たな生理活性物質あるいは素材を、より高い確度で探索し、製品化へつなげることを可能とさせる。
技術の特徴
本研究の特徴は、(1)長寿遺伝子の活性化を指標として解析を行うこと、(2)スクリーニングプロセスとして線虫、培養細胞、マウスと複数のモデル生物を順次用いて、長寿遺伝子活性化に付随して生ずる一連の多様な機能性の探索を、科学的評価にもとづいて行うことにある。
既存技術、競合技術との比較優位点
高等動物に反映されないことが多い培養細胞での評価系と比べると、ヒトの老化や生活習慣病の予防・改善に役立つ生理活性物質や機能性素材の探索、同定、解析には、はるかに最適であり、大規模なスクリーニングレベルでも簡便、迅速かつ確実に選別することが可能となる。また、遺伝子改変した線虫を用いることにより、機能性を遺伝子レベルで評価することも可能である。
従来技術との比較
特許出願状況
未出願
研究者からのメッセージ
超長寿社会を迎え、健康長寿に対する社会的要求は年を追う毎に高まりつつあります。新たな長寿遺伝子活性化物質の発見は、健康食品や医薬品、化粧品の開発にブレークスルーをもたらし、生活習慣病の予防・改善やアンチエイジングの実現に大きく寄与します。本研究は、線虫を含む生物評価系を用いて、長寿遺伝子活性化物質の探索と機能性解析を効率的に実現するための新規技術を提供するものです。
参考:
- 筑波大学大学院 生命環境科学研究科(準備中)
- http://kazlab-sirtuin.net
発表論文:
- Hiroyuki Hano , kazuichi Sakamoto. Physiological Effects of a herbal Extracts Mixture Containing Acanthopanax senticosus Harms on the Development, Reproduction and Lipid Metabolism of Caenorhabditis elegans. Journal of Natural Pharmaceuticals. ,2012, 2(4), p. 173-178
- Hiroaki Shintani, Tsubasa Furuhashi, Hiroyuki Hano, Masaji Matsunaga, Koji Usumi, Norimasa Shudo, Kazuichi Sakamoto. Physiological Effects of Salmon Milt Nucleoprotein on Movement, Stress Tolerance and Lifespan of C. elegans. Food and Nutrition Sciences. 2012, 3, p. 48-54
- Megumi Kurosu , Kazuichi Sakamoto. Mesembryanthemum crystallinum extract suppressed the early differentiation of Mouse 3T3-L1 preadipocytes. Journal of Natural Pharmaceuticals. 2011, 2(4), p. 184-189
- Hyojung Kim ,Kazuichi Sakamoto. (-)-Epigallocatechin gallate suppresses adipocyte differentiation through the MEK/ERK and PI3K/AKT pathways, Cell Biology International. 2011, 36,p. 147-153
- Riadh Drira,Shu Chen,Kazuichi Sakamoto. Oleuropein and hydroxytyrosol inhibited adipocyte differentiation in 3T3-L1 cells, Life Sciences. 2011, 89, p. 708-716