生体親和性レドックス機能を有する高分子ナノ粒子

生体内での過剰な活性酸素種ROS(reactive oxygen species)は、体内で、脂質、蛋白質、糖、核酸などを酸化変性させ、細胞機能を障害する。通常、生体内ではビタミンなどの抗酸化剤がROSを消去しバランスを厳密に調節しているが、このROSが過剰に生成される状態「酸化ストレス」下では、ROSが様々な疾患の原因または誘因になることが知られている。本研究で開発されたレドックス機能を有する高分子ナノ粒子は、ROSを効率よく除去することで酸化ストレス病を予防・治療できる画期的な材料である。
所属 筑波大学 数理物質系・物質工学域
氏名・職名 長崎 幸夫 教授
研究テーマ名 経口投与型レドックスナノ粒子による潰瘍性大腸炎治療技術
応用想定分野 活性酸素を除去可能なニトロキシラジカル(TEMPO)を担持したポリマーナノ粒子の医療及び健康分野への応用
  1. 医薬:活性酸素が関与する潰瘍性大腸炎、脳こうそく、アルツハイマー等
  2. 医療:診断薬、センサー、血液浄化
  3. 化粧品:アンチエージング、日焼け止め、美肌
  4. 嗜好品:タバコ煙の活性酸素除去
  5. 健康食品:アンチエージング、長期保存、サプリメント

技術紹介

 アルツハイマーやパーキンソン病などの神経難病、動脈硬化、腎不全、癌、老化など、さまざまな病気の原因となる活性酸素を取り除けるナノメートルサイズの粒子を開発した。ナノ粒子の直径は40ナノメートルで、外側に親水性、内側に疎水性の高分子(イメージ:ひも)の2層で構成される。酸性環境で水に溶けやすくなるように疎水性の高分子を設計し、活性酸素を除去する分子(TEMPO)と結合させた。疎水部分が水に溶けることでナノ粒子が壊れ、TEMPOを放出する(下図)。炎症部分やがん組織などの付近は酸性環境であるため、患部にピンポイントで治療を行える。また、TEMPOとポリマー主鎖との結合部を非イオン性のエーテル結合とすることで、pH依存性のないナノ粒子も得ることができている。

技術の特徴

  1. 難治性疾患である潰瘍性大腸炎に対する画期的維持療法/緩解導入療法としてのアサコール(メサラジン/メサラミン)の効果を凌駕し、副作用を軽減できる治療薬。
  2. 潰瘍性大腸炎の日本での患者数は10万人で、年間8000人ずつ増加している。6年前に安部晋三首相の退陣の原因となったのがこの潰瘍性大腸炎である。
  3. 本技術は、動物レベルであるが、安部首相を救った画期的新薬といわれた抗酸化作用と抗炎症作用のある低分子薬剤アサコールの効果を凌駕する効果を期待できる。

従来技術との比較

 本高分子ナノ粒子は、下記の特徴を有する。

  1. 口投与可能で、pHに依存しない安定な粒子であることから、胃酸により分解されないで、大腸に到達できる。
  2. 40nmサイズのナノ粒子は腸管から血中に取り込まれず、全身に対する副作用の心配が無い。
  3. ナノ粒子は、癌組織や炎症組織のどの虚血組織に選択的に集積するので、潰瘍性大腸炎の病巣に集積して効率的に効果を発現できる。
  4. ポリマー粒子であることから、細胞内やミトコンドリアへは透過しないので、必要な活性酸素を消去することが無いため、低分子抗酸化剤に比べて、副作用を軽減できる。

特許出願状況

  • 特願2008-120626
  • 特願2008-178150
  • 特願2012-019975
  • PCT/JP2008/072467

研究者からのメッセージ

 副作用が無く安全で効果の高い本発明の生体親和性レドックス型高分子ナノ粒子はこれまでに無い全く新しい概念で創出された材料です。広い用途に適用可能で大きなマーケットが期待されます。ご質問等お気軽にご相談ください。どうぞよろしく御願い申しあげます。

参考:
筑波大学 長崎研究室
http://www.ims.tsukuba.ac.jp/~nagasaki_lab/index.htm
発表論文:
  1. Long Binh Vong. et al. An Orally Administered Redox Nanoparticle that Accumlates in the Colonic Mucosa and Reduces Colitis in Mice, Gastroenterology. 2012, 143(4), p. 1027-1036.
  2. Pennapa Chonpathompikunlert. et al. Redox Nanoparticle Treatment Protects Against Neurological Deficit in Focused Ultrasound-Induced Intracerebral Hemorrhage, Nanomedicine. 2012, 7 (7), p.1029-1043.
  3. Toru Yoshitomi. et al. Creation of a blood-compatible surface: a novel strategy for suppressing blood activation and coagulation using nitroxide radical-containing polymer with reactive oxygen species scavenging activity, Acta Biomaterialia. 2012, 8, p. 1323-1329.
  4. Yukio Nagasaki, Nitroxide radicals and nanoparticles: A partnership for nanomedicine radical delivery, Therapeutic Delivery.2012, 3(2) p. 1-15. (doi: 10.4155/tde.11.153)
  5. Chonpathompikunlert Pennapa. et al. The Use of Nitroxide Radical-containing Nanoparticles Coupled with Piperine to Protect Neuroblastoma SH-SY5Y cells from Aβ-Induced Oxidative Stress, Biomaterials.2011, 32, p. 8605-8612.
  6. Toru Yoshitomi. et al. The ROS scavenging and renal protective effects of pH-responsive nitroxide radical-containing nanoparticles, Biomaterials.2011, 32, p. 8021-8028.
  7. 長崎幸夫. 電子スピン封入ナノ粒子の設計とナノメディシンとしての展開. 電子スピンサイエンス. 2011, vol. 9(Autumn), p. 134-149.
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