糖鎖自動合成も可能にする全自動固相ライブラリー合成装置の開発

創薬研究において「コンビナトリアルケミストリ」と呼ばれる手法が常套手段として使われている。この手法は、一度に多種類の試薬合成を行い、有効な候補化合物を検索するものである。今回、遺伝子・蛋白質に次ぐ第3の生命鎖と呼ばれる糖鎖も合成可能な自動合成機を開発した。同装置は、電磁弁とシリンジポンプを使用することにより、ロボットアームを使用している従来の固相合成装置に比べて格段に低価格化が可能になる。
所属 農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所 食品バイオテクノロジー研究領域
氏名・職名 今場 司朗 主任研究員
研究テーマ名 糖鎖自動合成も可能にする全自動固相ライブラリー合成装置の開発
応用想定分野 本装置は、DNAや、ペプチドの合成を含め、あらゆる固相反応に適用可能であるが、特に現在開発競争が激化している多種類の糖鎖を一枚の基板に結合させた、糖鎖チップ(糖鎖アレイ)の開発にとってなくてはならない装置と考えられる。最終対象分野は、医薬品メーカー、大学・民間医療機関等が挙げられる。

技術紹介

 目的の化合物を合成するために様々な自動合成機が既に開発されている。代表的な物としてDNA自動合成機、ペプチド自動合成機があげられる。このような自動合成機は基本的には1種類の目的物を効率的に合成可能である。しかし、コンビナトリアルケミストリとして多種類の化合物を一度に合成可能な自動合成機は、上記のような1種類の化合物を合成可能な自動合成機ほど完成度が高くない。本開発装置では、電磁弁とシリンジポンプを使用することにより、ロボットアームを使用している従来の固相合成装置に比べて格段に低価格化が達成可能である。さらに、従来の固相合成装置では難しかった完全無水条件での反応にも適用できる。

技術の特徴

 本装置は、反応容器モジュールの数を自由に変更でき、かつそれぞれの反応容器の中を視認可能とし、それぞれの反応容器の反応条件を個別に制御可能なコンビナトリアル合成装置である(以下の写真参照)。すべての容器とラインは電磁弁で繋がっており、開放箇所がないため反応容器内を完全無水条件に保つ事が可能である。

 本装置はモジュールとして成り立っており、各モジュールをユーザーの要望により増減可能である。これらにより、上記ユーザーからの要求はすべて高度に満たす事ができる。
 本装置を用い、さらに当所で独自に開発した糖鎖合成手法を用いる事により多種類の糖鎖の自動合成も可能になる。

従来技術との比較

 本合成装置は、従来の糖鎖自動合成装置と比べて下記の特徴を有する。

  • 完全無水条件で固相有機合成反応が行える。
  • 個々の反応容器が個別に反応制御可能である。
  • 反応容器の数、試薬の数を簡単に増やすことが可能である。
  • 安価である。
  • あらゆる固相合成反応が行えると共に糖鎖合成も可能である。
  • 反応容器中のレジンの動きを観察可能できる。

特許出願状況

  1. 特許第4102263号 登録日:平成20年3月28日
    発明の名称:保護された水酸基を有する化合物、その製造法およびその用途
    発明者:今場司朗、春見隆文:
  2. 特許第5229730号 登録日:平成25年3月29日
    発明の名称:固相合成装置用反応槽モジュールおよびそれを用いた固相合成装置
    発明者:今場司朗

研究者からのメッセージ

 本装置は固相有機合成をするユーザーのニーズを的確に捉えた装置に仕上がっています。反応は低温・高温でも可能であり、無水反応も可能です。かつ、反応槽が外から観察可能である為、目的の試薬が確実に反応槽に送り込まれたか、固相樹脂はうまく回転しているかを確認することが可能です。さらに、反応槽、試薬を芋づる式に繋げることにより多種類の化合物のライブラリー自動合成にも対応可能であり、スクリーニングの際の化合物合成に有効です。

参考:
農研機構 食品総合研究所 機能分子設計ユニット
http://www.naro.affrc.go.jp/nfri/introduction/chart/0903/index.html
発表論文:
  1. 今場 司朗. 生物機能の解明と応用のための糖鎖自動合成技術および糖鎖ライブラリー合成技術の開発. 応用糖質科学. 2013, 3(1), p.50-55,
  2. 今場 司朗."次世代の糖鎖合成法". 光学活性医薬品開発とキラルプロセス化学技術, 2011第4部7章.
  3. 今場 司朗, 次世代糖鎖合成法. ケミカル・エンジニヤリング. 2009, 54(1), p. 8-12.
  4. 今場 司朗,"糖鎖合成技術". 食品技術総合辞典. 2008, p. 566-569,
  5. 今場 司朗, 糖鎖自動合成技術とその可能性, 食品と技術. 2008, 443, 20-25,
  6. 今場 司朗, 糖鎖合成の新たな展開 糖鎖自動合成と糖鎖ライブラリー合成を可能にする新たな水酸基の保護基の開発. 化学と生物.2006, 44(9), p. 637-639.
  7. Komba S., Terauchi T., Machida S. A regio- and stereo-selective parallel synthesis of five types of trigalactoses on a solid support as a model of a combinatorial oligosaccharide library. J. Appl. Glycosci. 2011, 58(1), p. 1-12,
  8. Komba S., and Machida S. UCHP method for oligosaccharide combinatorial library synthesis. J. Carbohydr. Chem. 2009, 28(6), p. 369-393,
  9. Komba S., Terauchi T., and Machida S. Automated synthesis of a tri-branched pentasaccharide: the application of the uni-chemo hydroxyl protection method to the automated synthesis of oligosaccharides. J. Appl. Glycosci. 2009, 56(3), p. 193-206.
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