有望技術紹介

110 ミノムシ繊維の実用化

興和株式会社:
ミノムシが吐く糸を使った繊維素材 MINOLON(ミノロン)を世界で初めて製品化した。MINOLONはクモの糸を凌駕するほど硬くて粘り強く、構造材料として理想的な外力への応答性を示す。

【本技術の概要】

 興和株式会社は、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(本部:茨城県つくば市)と共同でクモの糸に劣らない粘り強さを持つミノムシ繊維の産業化に向けた技術開発を進め、このほど世界で初めてミノムシ繊維を製品化した。また、ミノムシの研究開発から得られる多種多様な新素材の総称として、「MINOLON」(ミノロン)ブランドを立ち上げ、シート状のミノムシ繊維(MINOLONシート)の製造方法を見出した。ミノムシが吐く糸からつくられるミノムシ繊維は、クモ糸を凌駕するほど硬くて粘り強く、構造材料として理想的な外力への応答性を示した。
 MINOLONシートは、CFRP(炭素繊維強化プラスチック:Carbon Fiber Reinforced Plastics)と複合することにより、CFRP本来の性能を損なうことなく、「高速での衝撃を吸収しつつ壊れにくい」という特性を、CFRP に付与することができた。同社はヨネックス株式会社と共同で、MINOLONシートをCFRPに複合化したテニスラケットを開発し、1月中旬からヨネックス株式会社より販売された。

【ミノムシに注目した理由】
 産業利用されている天然繊維の一つとして絹糸があるが、絹糸はカイコの繭から得られる長繊維である。その繭は、カイコの一生(約2ヵ月)のうち、蛹(さなぎ)になる直前の2~3日間の限られた期間につくられる。繊維として利用する際には、繭の中のさなぎを殺処分する必要がある。一方、ミノムシは生まれてすぐに糸を吐き始め、幼虫の期間は常に糸を吐き続ける。そのため、飼育しながら繊維を採取することができる。さらに、オオミノガから採取されるミノムシ繊維が、天然繊維で最強といわれるクモの糸を上回る繊維物性(弾性率、破断強度、タフネス)であることも大きな理由の一つである。

蜘蛛の糸を超えるタフネス 初期の弾性領域も広い

※引用先:Taiyo Yoshioka, Takuya Tsubota, Kohji Tashiro, Akiya Jouraku & Tsunenori Kameda
     ”A Study of the extraordinarily strong and tough silk produced by bagworms”
     NATURE COMMUNICATIONS(2019)10:1469

【本技術の特長】
① ミノムシの吐く糸は、これまでの知見で最強と言われていたクモの糸よりも、弾性率、破断強度、およびタフネスのすべてにおいて上回った。
② ミノムシ繊維は、高い秩序性を持つ階層構造により、強くて高タフネスで、構造材料として理想的な外力への応答性と、熱にも比較的高い安定性を持つ。
③ ミノムシの人工繁殖方法や大量飼育方法が可能となる技術を確立した。
④ ミノムシの生態学的な研究を通して、効率的なMINOLONシートの製造方法を確立した。
⑤ MINOLONシートとCFRPとの複合により、CFRP本来の性能を損なわずに、高速での衝撃を吸収しつつ壊れにくいという特性を付与できた。
⑥ 研究段階ではあるが、ミノムシ繊維を樹脂と複合させることで、樹脂の伸度を維持しつつ強度、弾性率を上昇させ、高いタフネス性を示すことができた。
⑦ ミノムシ繊維は、CFRPや樹脂、他素材との複合化により、自動車や航空機の部材・部品、スポーツ用品、防弾チョッキなどへの展開が期待される。

 ミノムシがつくる糸    MINOLONシートの構造   MINOLONシートの構造(拡大)

【MINOLONシートの開発】
 ミノムシ繊維の素材を活かした多種多様な製品の中で、薄いシートは有力な製品分野である。なかでも、ミノムシ自身が作り出す天然の接着成分によって、ランダムに重なったミノムシ繊維同士が接合され、一見不織布のようでありながら、受けた力を広範囲に分散できる構造であることがわかった。MINOLONシートと様々な既存素材との組み合わせにより、既存素材単独では到達できない特徴的な性能が発揮されることが明らかになった。
【複合シートの開発】
 炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、軽さと強度を兼ね備えることが要求される製品に広く使用されている。このCFRPにMINOLONシートを複合することで、CFRPの特性を維持したまま、衝撃吸収性やタフネス性を付与できることが明らかになった。
 生分解性を有する樹脂に複合したFRPであるミノムシ繊維FRPと各種プラスチックとのタフネス比較を図に示した。ミノムシ繊維FRPは、生分解性プラスチック単独と比較して、伸度(変位)は同程度を維持しながらも、強度(試験力)、弾性率が上昇し、高いタフネス性を示した。ミノムシ繊維は優れた繊維物性を持ちながら、天然に存在するアミノ酸のみで構成されていることから、海洋環境で行われた糸の崩壊試験では、2ヵ月後にはほとんどが崩壊し、3ヵ月後には完全に消失することが確認された。

生分解性プラスチックに短繊維を複合したFRPのタフネス


【今後の展開】
 ミノムシ繊維の製品化に向けては、安定生産、安定品質が課題である。先ず、素材原料の確保が重要である。野生のミノムシは、天敵が多い自然の中で季節や生息地といった環境の影響を受けながら、1年間で1世代を終えるライフサイクルを繰り返す。同社は、2017年の春よりミノムシ繊維を産業利用するため農研機構と共に人工飼育に向けた研究を続けてきた。現在、室内で大量のミノムシを短期間で効率的に飼育できるようになり、産業利用への可能性を見出した。さらに、ミノムシと環境への負荷を最小限に抑える工程開発に取り組み、持続可能な製造プロセスの実現を目指している。

MINOLON HP
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