カニやエビ、昆虫などの殻や骨のキチンから作られるキトサンという物質が半導体や蓄電特性をもつことを見いだした。
【本技術の概要】
東北大学未来科学技術共同研究センターの福原幹夫シニアリサーチフェローと橋田俊之特任教授、東京大学の磯貝明特別教授らの研究グループは、共同でカニやエビ、昆虫などの殻や骨のキチンから作られるキトサンという物質が半導体や蓄電特性をもつことを見いだした。
作製した材料は、キチンを脱アセチル化して得られたキサントナノファイバーを原料に電極を付け、制御された厚さナノメートルサイズのシートを積層したデバイスである。当該シート材のI(電流)-V(電圧)カーブは、負電圧領域に顕著な負性抵抗が現れるn型半導体特性を示した。また電子スピン共鳴法の測定から伝導電子はアミニル基(N●H)基の不対電子ラジカルであることを明らかにした。また、同研究グループは、抵抗-電圧特性ではオンオフを繰り返すスイッチング効果と蓄電特性を見出した。
本研究成果は、2024年3月1日に米国物理学会誌AIP-Advancesにオンライン掲載された。また本論文は、注目度の高い論文としてEditor’s pickに選定された。
【今回の取り組み】
本研究では、紅ズワイガニの殻から作られたキトサンナノファイバー(ChNF)を原料として、ファイバー長さを~300nm に制御したChNFシートをAl電極で密着させたデバイスを作製した。デバイスの I(電流)-V(電圧)特性、AC(交流)インピーダンス、周波数解析、蓄電性を測定し、電圧制御による電圧誘起半導体的特性が得られた。
図には、ChNFシートの電圧-210Vから+80V までの電圧間を1.24V/sの上下速度で掃引した時のI-V特性を示した。得られた特性はオームの法則に従わず、-210~-170Vに電圧上昇で電流が低下するN型負性抵抗が現れ、その曲線は-180~-170Vで振動していることがわかった。その180Vにおける電圧振動の高速フーリエ変換(FFT)スペクトル解析の結果を挿入図に示した。FFT スペクトルには7.8MHzの交流波形が現れ、直流/交流変換を示した。
一方、R(抵抗)-V(電圧)特性を解析したところ、図に示すように昇圧-1V~0V間と降圧+2V~0V間に3桁のスイッチング効果を示す特性が得られた。挿入図からは、極性の変わる3―4桁のスイチング効果が±1Vに現れた。
以上の結果から、蟹由来のキトサンがn型半導体特性に加えて蓄電特性も発現することを見出した。この半導体特性の電子の起源を究明するために電子スピン共鳴法(ESR)解析を行った。電子の起源を決定づける一重項対称のピークが観察され、スペクトル強度の線図が横軸と交わる磁場のg値から、キトサンの生成電子はアモルファスキトサンに生ずるアミニル N●H ラジカル起因の電子であると考えられた。
【今後の展開】
低密度軽量半導体・蓄電体の作製を通じて、材料に天然由来のバイオ素材を用いている。しかも四方海に囲まれた日本に豊富に存在する海産物および昆虫資源を活用するもので、地球の生物循環システムを活用したバイオエレクトロニクスに発展させることが期待される。