有機エレクトロニクス研究センターでは、ペロブスカイトナノ結晶に金属塩ド―プ処理することで耐熱性および分散安定性を改善し、当該量子ドット発光材料を用いてインクジェット印刷による高い発光量子収率で優れた色純度を持つ緑色LEDを作製することに成功した。
【本技術の概要】
山形大学大学院有機材料システム研究科の千葉貴之准教授らの研究グループは、ハロゲン化鉛ペロブスカイトナノ結晶が高い発光量子収率や優れた色純度を示し、可視光領域における発光波長の制御が容易なことに着目し、本材料を用いてインクジェット印刷による緑色LEDを作製することに成功した。インクジェット印刷はオンデマンドな成膜による自在なパターン形成やスピンコートより少ないインク量で成膜が可能であることから、ペロブスカイトナノ結晶LEDの最適な作製プロセスとして期待されている。
しかし、インクジェット印刷では高粘度かつ高沸点溶媒を使用するため、高温でのアニール処理が必要になり、ペロブスカイトナノ結晶の耐熱性が求められていた。当研究グループは、金属塩ドープ処理によりペロブスカイトナノ結晶の耐熱性および分散安定性を改善し、インクジェット印刷に応用できることを明らかにした
【実験方法・結果】
インクジェット印刷を用いた高温アニール処理下でのペロブスカイト量子ドットLEDのプロセスを上図に示した。緑色発光を示すCsPbBr3ナノ結晶に臭化鉛(II)を添加し、80℃で3時間攪拌することで金属塩をドープした(Step1)。スピンコート用のインクにはオクタン分散したナノ結晶を用いた(Step2)。インクジェット印刷では、高粘度・高沸点溶媒であるデカリンとオクタンの混合溶媒を使用し、調整したインクをカートリッジに充填し、大気下で成膜した(Step3)。
シュリンク抑制と残留溶媒を除去するために、二段階のアニール工程が重要であることを明らかにした。スピンコート膜では、200℃でアニール処理することで発光量子収量が67.3%から30.6%に低下し、立方晶から斜方晶に相転移することを確認した。一方で、インクジェット成膜では、アニール処理においても高い発光量子収率(61.8%)を示し、立方晶構造を維持することを明らかにした。インクジェット印刷により作製したペロブスカイトナノ結晶LEDは、最大輝度 1890cd/m2、最大外部量子効率5.9%を達成し、スピンコート後に高温アニール処理したLEDよりも6倍も高い効率を示した。
【応用研究】
<ペロブスカイトナノ結晶蛍光インク(PeNC)>
PeNCは発光特性や色純度に優れ、構成元素のハロゲン元素を変えるだけで発光色を可視光全域で制御可能な高性能発光性ナノ粒子である。また、PeNCは、簡便なプロセスででき、合成はPeNC分散液に樹脂を混合するだけで汎用性の高いPeNC蛍光インクを作製できる点が最大の強みであり、インクジェット印刷法による広色域ディスプレイなどへの応用展開の可能性を検討している。
<ペロブスカイトナノ結晶波長変換フィルム>
PeNCを搭載した光波長変換フィルム(NCEF)は、紫外線を含む、短波長域の光を吸収し、特定の波長に変換して発光する。このNCEFは、PeNC分散液に樹脂を混合するだけで作製可能なPeCN蛍光インクを加工することで作製可能である。PeNCの優れた光学特性を有するQDEF(Quantum Dot Enhancement Film)は、ディスプレイのカラーフィルターへの応用が期待される汎用性の高い製品になっている。(下図)。
【今後の展開】
PeNCは、エネルギーロスが少なく、色純度が高いことから広色域ディスプレイを始めとして、農業用光変換部材、X線シンチレーターなど様々な光学デバイスへの応用展開が期待されている。山形大学の有する「世界トップの有機EL技術」とPeNCを組みわせることで、視認できる色の大半を再現できるディスプレイの作製が可能になる。