JAXAと日立造船は独自の全固体リチウムイオン電池を共同開発し、国際宇宙ステーションにおいて実験データを収集し、過酷な宇宙環境で充放電が可能であることを確認した。
【本技術の概要】
JAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)と日立造船は、2016年から全固体リチウムイオン電池の共同開発を行ってきた。当該全固体リチウムイオン電池は、-40℃~120℃という広い温度範囲で使用可能で、破裂発火のリスクが極めて小さいため、温度差の激しい、真空で放射線に晒される宇宙環境で利用する設備の小型・軽量化や低消費電力化に寄与することが可能である。そのため、従来宇宙で使用している有機電解液のリチウムイオン電池では難しかった、省スペース化が求められる小型機器への適用や船外実験装置などでの使用が可能となる。
2022年2月に国際宇宙ステーション(ISS)に向けてAS-LiB®を搭載した全固体リチウムイオン電池軌道上実証装置(Space AS-LiB)を打ち上げ、世界で初めて宇宙環境で当該電池の充放電が可能であることを確認した。2023年4月4日に予定した全ての基本的実験データを取得した。今後も充放電運用を継続し、将来の宇宙機や探査活動のためのデータを蓄積する。
【基本原理】
同社の全固体リチウム電池(AS-LiB®)は、構成する全ての材料に固体物質を用いているのが特長で、充放電時、固体電解質はリチウムイオンのみを移動させる。また、正極と負極との接触を防ぐセパレータの役割も備えている。充電方向に負荷をかけると、正極が持つリチウムイオンが固体電解質層を経由して負極へと拡散し、放電時にはリチウムイオンが逆方向へ移動する(図 参照)。
これらの動作時、従来の全固体リチウムイオン電池で必要であった機械的加圧は、同社独自の機械加工技術を活用した製造方法を採用することで不要となった。
【特徴】
<安全性>
① 液体の材料を使用していないため、液漏れの心配がない。
② 固体電解質が難燃性のため発熱などによる可燃性ガスの発生がない。
③ 従来の電解液系リチウムイン電池が発火する可能性がある条件でもAS-LiB®は、発火、発煙、破裂が起こらず、高い安全性が実証されている。
<広い動作温度>
① 固体電解質を用いるため、低温で凝固せず、-40℃の低温環境下でも動作可能。
② 高温でも固体電解質が分解しないため、+120℃の高温環境下でも安定動作が可能。
<耐環境性>
① 揮発成分を極小化した固体電解質と電池構成のため、真空下でも大きく膨張することはない。
② 独自の製造技術を適用し、1.0×10-2 Paの環境下でも安定動作を実現した。
【今後の取り組み】
将来的な全固体リチウムイオン電池の用途としては、 月面に設置する観測機器や小型のローバ、更に大容量化を実現した後には、本格的な大型のローバなどの宇宙機での使用が期待される。地上での用途では、従来の電池では適用が難しかった高温、低温や真空環境下にある産業装置、高温滅菌を要する医療機器やその他各種機器への展開を検討していく。