有望技術紹介

99 家畜のふん尿からグリーンLPガスを生成

古河電気工業株式会社
古河電工と北海道大学は、家畜のふん尿から得られる二酸化炭素とメタンから新たな金属触媒を用い、貯蔵・輸送の容易なグリーンLPガス生成技術を開発した。

【本技術の概要】

古河電気工業株式会社は、地球規模の社会課題である温室効果ガス削減に向けて北海道大学と共同研究を進め、金属触媒(ラムネ触媒)の固定技術を応用し、バイオガスをLPガスに変換する技術開発に成功した。この技術を用い家畜のふん尿から得られる二酸化炭素とメタンから貯蔵・輸送しやすいLPガスを創出することで、一般家庭や酪農場などの産業の現場でのエネルギーとして用いることができる他、災害時用のエネルギーとしても利用できる。グリーンLPガスの合成技術では、生成率50C-mol%以上となる合成技術を確立し、2030年までに、グリーンLPガスを年間1,000㌧製造する技術の実証を目指す予定である。

【背景】
同社は、「古河電工グループビジョン2030」において、社会課題を価値に変える新たな社会基盤構築のため先進技術を先取りする「萌芽的技術の探索」を進め、新事業の種を創出していくことをミッションとした。その1つとして「温室効果ガスを原料にしたグリーンLPガス合成技術」の研究開発を進めている。CO2を炭素資源と捉え、そのキーワードとして「酪農/畜産」と「自然災害」とした。
<酪農/畜産>
2021年に開催されたCOP26では、メタンガスが温室効果の原因の30%を占めるとのことで注目が集まった。世界のメタン発生源のうち半分以上が化石燃料、廃棄物、農業/酪農から発生しており、最もメタン発生量が多いのは農業/酪農分野と言われている。 農業/酪農と廃棄物から出るメタンガスは、そのまま放出すれば温室効果ガスだが、回収しエネルギーとして有効活用ができる。
<自然災害>
古くから生活に根付いているLPガスは東日本大震災において、貯蔵輸送が容易で分散自立が可能なことから他のインフラに比較して最も早く復旧した。その高いレジリエンス(強靱性)を評価された実績があった(図1)。ふん尿からLPガスを生み出すことができれば、温室効果ガスの削減だけでなく災害対策にも貢献でき、また同時にエネルギーを地域に供給し、地域の自立に繋げられる可能性を持っている。

【基本原理】
同社のLPガス製造プロセスは、家畜などの有機廃棄物のメタン発酵処理から得られるバイオガス(メタン約60%、二酸化炭素約40%含有)を原料に、ドライリフォーミング反応(注1)により合成ガスを作る2段階プロセスで構成される(図2)。このプロセスを実現するためには触媒の技術課題を解決する必要があった。
(注1)反応式はCH4+CO2=2H2+2COであらわされる。 温室効果ガスを利活用できるためカーボンリサイクル分野で注目されている反応の1つである。触媒としてはニッケル(Ni)が活性を示すといわれている。

【新規構造触媒の開発】
一般的に、触媒活性を持つ金属粒子を担体上に高分散状態で担持させることで有効表面積を確保する方法が取られているが、このような構造の触媒は担体上で金属粒子の凝集(シンタリング)が反応中に発生する。また、炭化水素を原料に利用する反応の場合、シンタリングと同時にコーキングも引き起こした。コーキングは触媒上で炭素が析出する現象で、炭化水素が触媒上で重合することで炭素の塊が形成すると考えられている。このようなシンタリングやコーキングが生じると触媒としての有効表面積が減少するため触媒活性が低下し、触媒を短期間で交換・再生しなければならない問題が発生した(図3)。
これら触媒の課題を解決するため、同社と北海道大学大学院工学研究院 増田隆夫特任教授(現、名誉教授)は、金属粒子を多孔質材料の中に包接することでシンタリングとコーキングを抑制するラムネ触媒(注2)と称する新規構造触媒を共同開発した(図4)。ラムネ触媒の特長は、①小さな細孔を持つ多孔質材料の中に金属粒子を包摂すること、②金属粒子を多孔質材料の中で固定することでシンタリングとコーキングを防ぐことであった。
(注2)同社は、この新しい触媒の構造(触媒が多孔質材料内部に固定される構造)がラムネの瓶の内部にビー玉が固定されている構造に似ていることから,ラムネ触媒と名付けた。

【今後の展望】

CO2発生量は、一次エネルギー生産量と直接関係するため、その一次エネルギーを化石資源の代替資源として再生可能なバイオ由来の資源を利用して生産することができれば、実質的なCO2発生量を低減することができる。また、一次エネルギーを電気など二次エネルギーとして広域で移送するのではなく、簡易かつ長期に安定して分散貯蔵できれば、災害に対するBCP(事業継続計画)にもなる。一般社会に受け入れやすい一次エネルギーであるLPガスをバイオガスから生産して供給すれば、一般住民に寄り添った先進的な技術と考えられる。
この技術は天然ガスの供給設備が整っていない世界の殆どの地域に適用できるものと考え、本技術の実用化に向けて、バイオガスからLPガスを生産するための技術開発を継続して促進してゆく。

引用元:古河電工HP

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