有望技術紹介

92 過熱水蒸気処理技術による低誘電損失フィルム

株式会社ラボ
株式会社ラボ 大村研究所は、高周波帯における低伝送損失フィルムとして、ポリイミドフィルムを過熱水蒸気処理することで多孔質ポリイミドフィルムを生成し、28GHzの誘電率を3.55から3.29に減少させる加工技術を開発した。

【本技術の概要】

スマートフォンなどによる大量のデーターを高速で通信する5Gサービスの提供が進む中、フレキシブルプリントケーブル(FPC)向け素材には、高周波対応の需要が高まっている。特に、FPC の基材として古くから使用されているポリイミド(PI)フィルムの低誘電率、低誘電正接化の要求は強い。

(株)ラボ 大村研究所は、乾燥炉に高速、短時間で熱処理が可能な過熱水蒸気炉を用いたR-to-R塗工装置を開発。同装置により、FPC基材に求められる密着性、耐久性や高周波対応特性に優れた多孔質ポリイミドフィルムを得た。高周波対応の目安である誘電率を関東電子応用開発製28GHzスプリットシリンダ共振器で測定したところ、過熱水蒸気処理サンプルの誘電率は、3.55から3.29に減少することを確認した。これらの結果より、過熱水蒸気炉による高温熱処理技術を活用することで、ビーズの粒子径、濃度を最適化すれば、誘電率、誘電正接共に下げられる可能性が示された。

【本技術の詳細】

FPCで広く使われているポリイミド(PI)フィルムをできるだけ化学構造を変えずに低誘電率化する方法の一つであるフィルムの中に空孔を入れ、空気の比誘電率は1であることから、バルクのみかけの比誘電率を低下させる加工技術開発に取り組んだ。100℃で蒸発した飽和蒸気を常圧下、高温度に加熱した無色透明の水分子ガス雰囲気下での熱処理技術を開発。過熱水蒸気の熱容量は設定温度150~300℃の範囲では、加熱空気対比6~13倍高く、過熱水蒸気を熱媒体とすれば殆ど無酸素状態での熱処理が可能とする特徴を持つ。また、乾燥空気中での熱伝導は殆どが対流による熱の移動だけだが、過熱水蒸気中では凝縮・対流・放射の複合伝熱により伝熱が行われるため、高速、短時間での熱処理が期待される技術である。

<フッ素微粒子の分散技術例>
 同社の大村研究所では、分散装置として自公転ミキサー、高せん断ミキサー、ボールミルなどを備えており、最適な装置を用いて、四フッ化エチレンとパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体微粒子(PFA)を主成分とする40wt%濃度の安定なNMPディスパージョンを作成した。18μmの電界銅箔上にPFA微粒子を主成分とするフッ素樹脂のNMPディスパージョンをマイクログラビア塗工し、90℃で乾燥処理して乾燥膜厚約7μmのフッ素微粒子加工銅箔を得た。
<塗工技術例>
 得られた分散性の良好なPFA微粒子を主成分とするフッ素樹脂のNMPディスパージョンを18μmの電界銅箔上にマイクログラビア塗工し、90℃で乾燥処理して乾燥膜厚約7μmのフッ素微粒子加工銅箔を得た。
<過熱水蒸気加熱による焼結速度>
 「IN-300」のIR炉では3m/minまでの加工が可能であった。過熱水蒸気炉では約6倍となる加工速度18m/minの高速焼結が可能であり、空気加熱対比エントロピーの高い水分子ガス加熱の効果が現れていると推定された。
<過熱水蒸気によるポリイミドフィルムの多孔質膜化>
 ポリイミドフィルムの更なる低誘電率化として、空気の誘電率が“1”であることから、多孔質膜化が有効であることが知られている。過熱水蒸気を活用した開発事例として、サイズの揃った微粒子を集積し、それを鋳型として“インバース・オパール”と呼ばれる多孔体を作成する技術がある。通常、シリカ粒子などが用いられ、鋳型の除去に酸処理などをするため、多孔体に使われるポリマーには制限がある。同社の手法では、熱分解性のポリマー微粒子を用い、これを過熱水蒸気により熱分解することにより、効率よく多孔質膜を成型できる。図に示した写真は、ポリイミドワニスに平均粒子径約3μmのアクリルビーズを混合し、過熱水蒸気と熱風処理によりアクリルビーズを脱脂処理した事例である。


 多孔質ポリイミドフィルムの28GHz誘電率と誘電正接(tanδ)を図に示した。関東電子応用開発製28GHzスプリットシリンダ共振器で誘電率を測定したところ、過熱水蒸気処理サンプル誘電率は3.55から3.29に減少することを確認した。ビーズの粒子径、濃度を最適化すれば、誘電率、誘電正接共に下げられる余地がある。

【本技術の特徴】

  ① 低酸素下での熱処理ができるので銅箔の酸化を抑えることが可能
  ② ナノ薄膜塗工と厚膜塗工が可能
  ③ 空気加熱対比6-12倍熱容量が高いため効率乾燥が可能
  ④ 低酸素雰囲気下で120-450℃までの熱処理が可能で、銅箔の酸化を抑制できる
  ⑤ コーティング処理に適した予熱昇温条件、過熱水蒸気条件、排気条件のノウハウを元にユーザー毎にソリューションを提案でき、適応分野が広い技術である

【本技術の技術開発・事業展開】

 大量のデーターを高速で通信する5Gサービス電子産業は今後、急速に拡大すると予測される。それを支える低誘電率、低誘電正接材料のフィルム化プロセス技術に関し、同社の所有する過熱水蒸気熱処理技術は、5G/6G用FPC関連のみならず、次世代加工技術として、銅ペーストを使用した銅箔成型、銀ナノ回路印刷焼結、セラミックシート成型、電池のグラファイト電極、圧延金属箔の脱脂、などのプロセスに広く活用されることが期待される。

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