開発した「第6の指」を手に装着して、自身の身体の一部と感じて、独立に動かすことができた。これによって人間の身体拡張の可能性を実験的に実証した。
【本技術の概要】
電気通信大学大学院情報理工学研究科の梅沢昂平氏(当時大学院生)、鈴木悠汰氏(当時大学院生)、宮脇陽一教授(機械知能システム学専攻)らは、フランス国立科学研究センター(CNRS)のGowrishankar Ganesh主任研究員と共同で、他の身体の部分と独立して動かすことができる人工身体部位である「sixth finger(第6の指)」を開発し、自らの身体の一部として取り込む(身体化する)実験を行った。
このsixth fingerの使用に1時間程度慣れることにより、それが自分の身体の一部と感じられたときに起こる感覚と行動の変容を捉えることに世界で初めて成功した。人間は自らの既存身体部位の機能と干渉することなく新しい付加的身体を取り込み、自らの身体を拡張できる可能性を実験的に証明した。
本研究の成果は、Scientific Reports誌に2022年2月14日(月)に掲載された。
【本技術の詳細】
本研究では他の身体部位の機能や動きと独立して制御可能であり、手のひらに装着可能な小型の人工指システムを開発した。手のひらの小指側に装着するとあたかも指が6本あるかのように見える「第6の指」である。この基本操作原理は、腕の筋肉の電気信号を活用したもので、腕の筋肉の電気活動をセンサーで計測し、それが指を曲げ伸ばしするときに通常生じる腕の筋肉の電気活動とは異なる特定の信号パターンとなったときに、sixth fingerが動くように設計した。これにより、自身の指の動きおよび他の身体部位とも独立して、sixth fingerを動かすことができた。
腕の筋肉の電気活動の計測結果に応じて制御されるモータが内蔵されている。 このモータの動きに連動し、指が動く。また同時に、手のひら装着部位に皮膚を刺激することができる刺激ピンがついており、指の曲げ伸ばしと同期して、皮膚感覚がフィードバックされるようになっている。この刺激ピンは着脱式であり、皮膚感覚をフィードバックしない条件にもできる。右図はsixth fingerを装着した状態ではめることができる手袋をはめた様子を示した。今回開発したsixth fingerの使用に短時間(1時間程度)慣れることにより、それが自分の身体の一部と感じられた(身体化した)ときに起こる感覚と行動の変容を捉えることに世界で初めて成功した。
【本技術の技術開発・事業展開】
既存の身体部位と独立して動かすことができる人工身体部位が工学的に実現可能であることがわかったことから、実世界で「使える」指になっていく可能性が期待できる。たとえば、高速なキータイピングが可能になったり、ピアノやギターの演奏を6本指で巧みに奏でたり、片手では持てない数のワイングラスを持てるようになったり、第三の腕や、四本の脚なども実現できるかもしれない。
一方、これらの新しい身体部位を身体化したときに脳でどのような変化がおきているのかを調べることが重要で、新しい身体部位を身体化することによってこうした地図がどのように変わるのか、そしてまた脳はどこまで新しい身体を受け入れることができるのか、といった問いに挑戦することが可能になる。