注射剤用途に適したドラッグデリバリーシステム(DDS)向けの「ヒアルロン酸ナノゲル」の工業的製造技術が確立され、サンプルを提供ができるようになった。
【本技術の概要】
中外製薬が開発した「ヒアルロン酸ナノゲル」技術は、旭化成が専用実施権を得て、この度、工業的製造技術を確立した。これにより、頻回投与が必要な注射剤の投与回数削減など、患者のQOL(Quality of Life)向上が期待できる。重い腎臓病や糖尿病の治療に使うタンパク製剤を微小なカプセルに包み、薬の効果を長続きさせる薬物送達システム(DDS)により、慢性疾患を抱える患者の負担となっている注射の回数を大幅に減らせる可能性がある。
本技術のポイントは、ナノ(10億分の1㍍)サイズの微小カプセルにある。その構造は、糖でできたゼリー状粒子と網目構造を持つヒアルロン酸を組み合わせている。薬をこの粒子で包み込んで注射すると、投与後に、徐々に体の中へしみ出て行く。ヒアルロン酸の形を変えれば、薬の量や放出するタイミングを自在に調節することができる。
【本技術の基本原理】
今回提供されるヒアルロン酸(HA)は、部分的にコレステロールが修飾されたヒアルロン酸誘導体で、水中では、コレステロール同士の疎水性相互作用により自己会合し、ナノサイズのハイドロゲルを形成したもの。HA分子量やコレステロール修飾率の違いによって物性が異なり、現在は2種類のグレード(分散グレード、沈殿グレード)をサンプルとして取り揃えた。
薬物と混合するだけで、疎水性相互作用により、難溶性の低中分子化合物からタンパク質までさまざまな薬物をナノゲル内に封入することができ、DDSに適した基剤として使用できる。主な機能は、薬物の徐放化、可溶化、凝集抑制、活性保持を実現した。
【今後の展開】
同社では、医薬品等で主に錠剤の賦形剤として用いられる結晶セルロース「セオラス®」(注)を国内外で販売しているが、今後、注射剤用途に適したドラッグデリバリーシステム(DDS)基剤「ヒアルロン酸ナノゲル」を新たに製品ラインナップに加えることで、医薬品製剤のさまざまなニーズに幅広く対応していく計画である。今回のサンプル提供を通して、本技術が顧客の製剤開発における問題解決に貢献できることを確認した後に、正式に事業化していくことを目指している。
PDFのダウンロード(詳細説明と問合せ先)