スピン波を用いた不揮発性スイッチ素子の開発
スピントロニクス技術に基づくゲート付プレーナ型で不揮発性を有する革新的三端子スイッチ素子の開発を行い、情報処理デバイスへの応用を目指します。
研究機関・所属 | 東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(WPI-AIMR) |
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氏名・職名 | 水上 成美 准教授 |
研究テーマ名 | スピン波を用いた不揮発性スイッチ素子の開発 |
応用想定分野 | メモリ素子・論理ゲート素子分野 |
技術紹介
現状の電子システム性能の継続的発展と省エネルギー化とを両立させるためには、より低消費電力化された電子デバイスの新規開発が大きな課題となりつつあると思われます。スピントロニクス技術はデバイスの劇的な省エネルギー化を実現するものとして世界的規模で研究開発が行われており、アメリカではノーマリーオフ技術への応用、国内でもトンネル磁気抵抗素子を用いたギガビット級の不揮発性スピンメモリやロジックインメモリの研究が行われています。そんな中で、スピントロニクスに基づいた革新的情報処理デバイスの提案・研究はまだあまりなく、社会から要請されているデバイスの一つです。
本開発では電荷の流れの伴わないスピン波を信号キャリアとする新しい不揮発性スイッチを開発します。デバイス概念図を[下図(a)]に示します。この3端子素子のゲート下のチャンネル層には、スピン波伝搬チャンネル層として機能する、Mn-Ga合金垂直磁化膜を第一候補と考えて検討します。その膜のレーザ光カー効果の測定結果を 下図(b)に示しますが、スピン歳差運動に伴う非常に高速かつ低緩和振動が観測されています。このスピン波の高速性・低摩擦性は、本提案デバイスの実現の可能性を強く示唆しており、今後2年間で、3端子ゲート動作の実証とデバイスベンチマークテストまでを進めるよう計画しています。
技術の特徴
- (1)
- Mn-Ga合金を用いることで、ソース・ドレイン間の情報伝達エネルギーロスが小さく省エネルギーになります
- (2)
- ゲート動作時に十分大きなオンオフ比を稼げ、目標比を、105 としています
- (3)
- 不揮発性メモリー機能のあるスイッチデバイスです
- (4)
- ナノスケールまで動作可能でデバイスの微細化、高性能化が期待できます
- (5)
- 半導体プロセスを用いて作製できます
従来技術との比較
関連する材料の特許出願状況
- 1)
- 特願2011-068868,出願日2011年3月25日
- 2)
- 特願2009-079633,出願日2009年3月27日,公開日2010年10月14日
研究者からのメッセージ
挑戦的な研究開発ではありますが、スピンのみを用いたスイッチ素子は、将来の不揮発性技術を担う重要な素子となると考えています。また、Mn-Ga合金は希土類・貴金属を使用せずとも高磁気異方性を示す材料であり、製造の低コスト化が期待されます。
参考:
- 東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 スピントロニクス材料研究室
- http://www.wpi-aimr.tohoku.ac.jp/miyazaki_labo/
発表論文:
- 1.
- Long-lived ultrafast spin precession in manganese alloys films with large-perpendicular magnetic anisotropy, S. Mizukami, F. Wu, A. Sakuma, J. Walowski, D. Watanabe, T. Kubota, X. Zhang, H. Naganuma, M. Oogane, Y. Ando, and T. Miyazaki, Phys. Rev. Lett. 106, 117201 (2011).