1ピースフロー型・超高速・三次元DLC成膜装置の開発
機械の摩擦部分に対し、低摩擦かつ高耐摩耗性のDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜を代表とする硬質膜を被覆して耐久性と省エネを向上することが広まりつつある。DLC成膜の低コスト化への要求に応えるべく、従来の大型装置による大量バッチ処理に代わる小型装置による1品処理型の成膜技術を確立します。本研究では、従来の100倍以上の成膜速度(100μm/h以上)でバッチ処理と同じスループットが出せる1品処理型・超高速・三次元DLC成膜装置を開発します。
研究機関・所属 | 名古屋大学大学院 工学研究科 機械理工学専攻 |
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氏名・職名 | 上坂 裕之 准教授 |
研究テーマ名 | 高密度・近接プラズマによる1ピースフロー型・超高速・三次元DLC成膜装置の開発 |
応用想定分野 | 低摩擦、高耐摩耗性硬質膜の形成 |
技術紹介
マイクロ波を基材の表面に沿って伝搬させ、基材表面付近に従来法に比べ2桁程度高密度なプラズマ領域を形成する技術によって、硬度が高いDLC膜を大きな厚さ形成速度で成膜できる1品処理型・超高速・三次元DLC成膜装置を開発し、さらにその成膜装置を他の硬質膜形成にも適用できるようにします。
【図の説明】 (a)超高速DLC成膜装置 (b)DLC成膜方法
技術の特徴
- (1)
- 本開発装置では、真空引き、クリーニング、前処理、成膜、ベントの一連の工程が従来より2桁程度短い分単位で行われ、DLC成膜のジャストインタイム化が実現可能となります。
- (2)
- マイクロ波励起・高密度近接プラズマによる希ガス・炭化水素混合高密度プラズマを解析可能な、マイクロ波―プラズマ双方向練成シミュレーション技術を開発し、装置形状や成膜条件の最適化が可能となります。
- (3)
- DLC成膜のコストが低減し、DLC膜が自動車、OA機器、ミシン、産業機械などの機械部品へ適用可能となり、省エネ、耐久性向上に貢献できます。
- (4)
- 本開発装置は、DLC膜以外の他の硬質膜(SiO2・Al2O3などの酸化物、TiNなどの窒化物、TiCなどの炭化物など)の形成にも有効であり、低コストの成膜が可能であるために、硬質膜の適用範囲が広がります。
従来技術との比較
本成膜装置と従来成膜装置の諸特性について比較します。
特許出願状況
・特許第4152135号
研究者からのメッセージ
本研究開発のコアシーズは、マイクロ波励起・高密度近接プラズマ生成技術です。本技術を用いた場合、金属部材の表面近傍で共鳴的にマイクロ波のエネルギーが吸収されるため、従来のDCやRF電圧印加を利用した手法に比べて100倍以上の電子密度を有するプラズマが金属部材面に沿って生成されます[1-3]。このような本技術だけにしかない特徴を生かせる共同研究を歓迎します。これまでは、コアシーズの特徴を活かした研究開発として、細穴内面へのDLC成膜技術[4]や、立体形状外面への超高速DLC成膜技術[5,6]を開発してきました。よって今後は、これまで未開拓であったDLC以外の膜種・プロセスへの適用を目指した共同研究開発に期待を寄せています。
参考:
発表論文:
- 1.
- H. Kousaka, N. Umehara, K. Ono, and J. Xu, JJAP Part2, 2005, 44, L1154─L1157
- 2.
- H. Kousaka and N. Umehara, Trans. Mat. Res. Soc. Japan, 31, No. 2 (2006) p. 487-490.
- 3.
- H.Kousaka, J.Xu, N. Umehara, Vacuum, 80, No.11-12 (2006) 1154-1160.
- 4.
- 上坂裕之,トライボロジスト, 55, 11, (2010) 790-796.
- 5.
- T. Okamoto, H. Kousaka, N. Umehara, Proc.ISPLASMA 2011, p. 178.
- 6.
- T. Okamoto, Y. Takaoka, H. Kousaka, and N. Umehara,On-line proceedings of plasma conference 2011 (2011) 23G04.